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関心事 3

 いくつかある駅構内のロッカーの中でも、今まで望たちがいた場所から最も離れたところに位置するロッカールームまで連れて行かれた。

「芳音、鍵は? 何番台なの?」

 望がそう尋ねたのは、荷物の入ったロッカーを探すというよりも、耐え切れない沈黙をどうにかしたかったからだ。どうにか自分を立て直してやっと見つけた話題の種を、仏頂面の怒り顔がたったひと言で台無しにした。

「荷物の話はウソ」

「ウソ? だって君塚くんも荷物があるって知っている口振りだったじゃないの」

「君塚は解っててわざと見送ったってこと。だからムカつくって言ったの」

 芳音はそう吐き捨てる一方で、ためらいなくロッカールームの奥に向かって望を強引に引っ張った。

「じゃあ、何しにこんな逆方向まで」

 理由を問い質す言葉も終えないうちに、壁に背をつける格好で一番奥のロッカーの脇、小さな袋小路に押し込まれた。望の右には逃げ道を塞ぐように芳音の腕が、左にはロッカーが迫って望が身を寄せて逃れる隙間はほんのわずかしかない。それさえ扉面を手で押さえつける格好で芳音の右手が塞いでしまった。そして真正面には、剣呑に細められた切れ長の瞳が推し量るように望を見据えていた。

「なんで俺が知らないのんのことを、のん以外のヤツから聞かされなきゃならないんだ?」

 大きな声に続いて、ロッカーが拳でガンと叩かれた鈍くて耳障りな大音響。望は思わず肩を縮こまらせた。芳音がロッカールームの向こうにいる利用者の視線から望を隠してくれているが、利用者が恐る恐るこちらを窺っているのが彼の脇から見える。

「芳音、人が見てるわ。変な誤解をされて警察を呼ばれたら」

「そんなお節介なお人好しなんて、都会にはいないよ。みんな自分のことしか考えてない」

 忌々しげな口調でそう吐き出したあとに続いたのは、芳音らしくもない他者を批判する言葉だった。

「なのに、なんで君塚はのんにお節介をするんだ? 彼女と巧くやってて、うざいって言いながらのろけてて、その上みんなと時間を持つ余裕もあって、じゃあ本分はどうだって言えば、課題の中に巧く和食のアレンジを入れたりして評価も高くって」

 言いながら、傷ついているのが解る。次第に下がっていく頭は望から表情を隠すというよりも、一度出してしまった言葉を自分で反すうしてしまったからに違いない。言葉は途中でそのまま途切れ、望の顔の両脇でストッパーの役回りをさせられていた彼の腕は、不意に力が抜けてだらりと落ちた。

「違う。君塚がどうこうって文句を言いたいわけじゃなくて」

 苛ついた芳音の右手が乱暴に自分の前髪を掻き混ぜる。多分、芳音のリミッターを切ったのは君塚だろうが、蓄積されている芳音の何かは自分にも原因がある。望はそんな気がして、君塚を庇うことなく彼の言葉を黙って待った。

「のん、どうしてさっき怒らなかったんだよ」

 やっと紡がれたかと思ったら、唐突な質問。どれを指して言っているのか解らず、望はつい小首を傾げてしまった。

「怒るって、どこで?」

「普通、自分の彼氏がほかの女の子を褒めたりしたら不機嫌にならない? しかも彼氏の友達の彼女なのに」

「えっと、それは美琴ちゃんのこと、よね? 芳音、彼女のことを褒めていたっけ」

「……ダメだ、解ってないや」

 降って来た呟きを受け取ると同時に、芳音で埋め尽くされていた視界がいきなり広がった。必然的に望は、不審の目でこちらを見ているロッカーの利用者とまともに目が合ってしまった。咄嗟の判断で、犯罪めいたものではないとアピールするかの如く微笑を返す。じっと見ていた野次馬たちは、望のそれを受けた途端、ばつの悪そうな顔をして出て行った。

 望の足許で膝を抱える芳音に合わせて腰を落とす。

「私が鈍かったせいで怒っていたのなら、ごめんなさい」

 取り敢えず感情に揺さぶられている芳音を落ち着かせるには、謝るのが手っ取り早いと思ったからそう返事をしたのだが。

「解ってないのに謝るな」

 きっと睨まれてぴしゃりと言い放たれ、望はまた言葉を奪われた。

「そうじゃなくて……のんに謝らせたいわけじゃないんだ……巧く言えないけど」

 そしてまた頭をかくりと落とす。小さな呻きが彼の葛藤を伝えて来るが、何について自分の中で折り合いをつけられないでいるのかが解らない。

「でも、私が色々なことを黙っていたのがそもそもの原因でしょう? それはやっぱり私が悪かったと思うから。君塚くんや芳音が悪いわけじゃないと思うから」

 のろのろと上がってゆく頭は途中で顔をあげるのをやめ、望の視点からは芳音の語る口だけが見える格好になった。

「違う。のん、やっぱり解ってない。俺、物分りのいい、出来のいい女なんか、要らない」

「出来のいい女って、誰のこと?」

 振りでしかないと言外にこめ、とぼけてそう問い返してみたが綺麗に聞き流された。

「のんの場合は、“君塚の彼女みたいに、もっと駄々をこねるとか甘えるとかすればいいのに”って言っても、比べたことを怒りもしないで“ごめんなさい”って言うんだろ? 理屈では解ってるんだ。俺の邪魔したくないと思ってくれてるとか、お互いに今はそれどころじゃないだろってこととか、解ってるけど……のんは俺のことって、あんま解ってないのな」

 解ってない、という言葉が望の中でやけに響いた。ズキリとした痛みが走る。解ってない、その言葉をそのまま芳音に返してやりたい。そんな思いを噛み殺すと、口の中に苦い味が広がった。

「……ごめん。のんを責めたいわけでもないんだ。そうじゃなくて……」

 芳音は両足を折って屈んだ姿勢から少し腰を浮かせ、左膝だけをコンクリートの床につけて身を乗り出した。条件反射で望の体が勝手に後ろへ退こうと背を逸らす。が、既に背は壁に押しつけられたままだ。

「芳音?」

「君塚に手を握られても逃げないのに、俺からは逃げるのな」

 棘のある言葉でそう咎められ、そして頭は壁についた芳音の両手に退路を立たれた。

「人が」

「ロッカーの陰になってるから見えないよ」

 囁く声の低さと近さ、鼻先をくすぐる彼の吐息で心臓が跳ね上がる。

「か、芳音。ね、ちょっと落ち着こう?」

「じゃあ、落ち着かせてよ」

 耳許にそう囁かれ、くすぐったい感覚が望の全身を固まらせる。

「って、どうしたら落ち着いて話を聞いてくれるのよ」

 泣きそうな声になっている自分が悔しくて堪らない。望の頬をかすった彼の頬が、久しぶりの心地よい感触をいつまでも残して苦しくなる。

「のんがワガママを言わないから、俺もなかなかワガママなことを言い出せない。言えばいいのに、なんにも話してくれない」

 だから実力行使とばかりに、抗う言葉まで奪われる。奪われた言葉と煽られる羞恥の代わりに、望の中でずっと渦巻いていた寂しさや意固地な強がりが溶かされてゆく。強張った体の力がゆるむと、許しを得たとばかりに彼が忍び込み、さっきまで彼が食べていたティラミスの味を望の舌に移していった。ほろ苦くて甘いそれは、脳の髄までとろかしてゆく。彼のシャツの襟を掴み、自分からもっととねだるように強く引き寄せていた。自分だけが寂しいわけではなかったと初めて心が認識した。

「せめて俺の前では、ほかの男に気安く触られないでいてよ」

 名残惜しげに解かれた唇が、ぎこちなく甘えた声でそうねだった。

「うん」

 素直な返事を出せた自分が意外過ぎて、だけどかなり嬉しい。

「ほかはともかく、今日の面子は隠す必要のないヤツらじゃん。あいつらにはちゃんと話しておこうよ」

「芳音のせいで、ほとんどバレちゃってるじゃない」

 結局憎まれ口で締めてしまう。でも、芳音はもう怒らなかった。

「君塚の煽りにまんまと乗せられちゃったからなー。ムカつくけど、でももういいや」

 なんて清々しく言われると、逆に望の方が腹立たしくなって来る。芳音は基本、今日のような態度の方が珍しい。日ごろの態度で君塚が勘繰ることなどないはずだ。思い当たる芳音の失態はただ一度。君塚の言葉を信じるならば、春の合コンで望の途中離脱を頼んだときに見せた芳音の表情、その一点に尽きる。

「どうして君塚くんが勘繰っていたのか、ということには疑問を感じないの?」

「あ。そう言われてみれば」

 自分のことを解っていない。またその言葉をそっくりそのまま芳音に返したくなった。

「春の合コンのときから、もう半分以上バレてたようなものだから。それ、半分は芳音のせいだから」

「いッ!? なんで?」

「君塚くん、芳音が悔しそうな顔をして私の連れ出しを頼んでた、って。それにあの晩、外にビーフシチューのパイ包みが玄関に置いてあったでしょう。あのとき、君塚くんや佐藤くんと一緒に私も芳音のアパートに行ったの」

 とても意地悪なほど淡々と告げたら、芳音の顔色が一瞬にして変わった。

「うそ」

「だって、あのころの君塚くんたちは芳音のアパートを知らなかったでしょう」

「あ、そか……」

「君塚くんがわざわ私の家まで訪ねてくれたのは、そのせいよ。堤さんは芳音のよい指導者でもあるし先輩だから、夢と私を天秤に掛けさせるようなことはしないでやってくれないか、って、芳音のために(・・・・・・)来てくれたのよ。男の子ってそういうものなんだな、って。だから私、芳音に何も言わなかったの。お陰で君塚くんには確信を持たれちゃったけど、それも半分は芳音のせいなんだから」

「ごめ」

 彼に謝らせないいつもりで、人差し指を彼の唇の前に押し当てて言葉を阻む。

「謝って欲しいわけじゃないの。言ったでしょう、半分は私自身の態度もバレてしまった原因よ。ただね、芳音が思っている以上に、君塚くんは同じ夢を目指す同志としても友人としても芳音を高く評価していることを知っていて欲しい、ということ。もっと信用して欲しい、みたいなことも言ってたわ。彼の気持ちを解ってあげて欲しいの」

 これで君塚との貸し借りは、ゼロだ。独り勝手にそう決めつけた望に、ようやくいつものスタンスが戻って来た。

「あいつの攻略ターゲットは、俺だったってこと?」

「そういうこと」

「なんだ。てっきり道草願望かと」

「君塚くん如きが私を道草の対象にだなんて、おこがまし過ぎるわ」

 憑き物が取れたように、お互い同時に噴き出した。心の中でだけ、君塚に「ゴメンなさい」と謝った。

「芳音」

 先に立ち上がった彼を見上げ、少しだけ甘えてみることにする。

「ガチャみたいな、当たるも八卦、って感じにしかならないけれど。そのうちでいいから……部屋の鍵を預かっても、いい?」

 穂高が帰る日だときっと訪ねられない。限られた時間の中で、すれ違ったまま逢えない日の方が多いかも知れない。

「でも、お掃除や洗濯とか、出来ることをしてあれば、そんな違いが残っていれば、逢えなくても近くにいるって、お互いに安心出来るかな、なんて、思ったり、なんかして」

 差し出された手に導かれて立ち上がり、スカートの裾を直す振りをしてごまかしながら顔を見せずにそう言った。芳音はゴソゴソと少しの間だけ何かを探す仕草を見せ、そしてついと差し出して来たのは。

「克美に合鍵を渡したら、こっちでの保証人は泰江ママだから彼女に預けろって返されたヤツ。ホタに家宅捜索されかねないから渡せねー、とか思って、ただ持ち歩いてたり、とか」

 すごく、言い訳がましい。苦しげな口調がまた望を笑わせる。事実が大半だろうとは思うが、バイト先や実家の鍵などでジャラジャラとしているキーケースに同じ鍵をふたつもつけていたら、きっと邪魔でしかないはずだ。

「ありがとう」

 望はそう言いながら、カットソーの内側に納めているネックレスに鍵を通した。翠のエメラルドや芳音のくれた二つのリングと同じくらい、大切な宝物だから。

「せ、洗濯はいいからッ」

「恥ずかしい? 昔はおもらしした罰だからって、一緒にパンツを洗ってたのに」

「あのな、何年前の話だよ、それ」

 コインロッカールームには、好奇心に満ちた人々の目はもうなくなっていた。堂々とそこからふたりして出る。今度は引きずられるのではなく、自然と手を繋ぎ、指を絡ませる心地よさを味わいながら仲間たちの許へ戻った。




 望が乗る電車方面の改札口へ戻ると、待っていたのは君塚ひとりだった。しかも改札口前ではなく、改札口のよく見渡せるガラス張りのスタンドコーヒーショップでのんびりコーヒーを飲んでいた。

「なーんだ。てっきり“先に帰っておけ”ってメールでも飛んで来るかと思ったのに」

 と、全部お見通しと言わんばかりの得意げな表情と声音で、君塚はからかいの言葉を二人に投げて来た。

「のん、前言撤回。こいつ、充分にからかう気満々のヤなヤツだ」

 そう言って子どもの喧嘩よろしく君塚の頭をコツリと小突く。思わず噴き出した望に釣られたのか、君塚も苦笑した。

「で、佐藤と河野さんは?」

「そりゃ先に帰らすに決まってるじゃん。俺、馬に蹴られて死んでる暇ないし」

「どゆこと?」

 空になったグラスを手にして立ち上がった君塚に代わり、望が代弁する。これ以上彼が芳音に小突かれるのは申し訳ない気がしたからだ。

「友達甲斐がないっていうか、鈍いのね。佐藤くんは百花に、なのよ」

「マジか!」

「そーいうこと。誰かさんが余裕なくて爆走してる間、カップルまみれの中で望ちゃんだけがぼっちちゃんでさー。すっげぇ可哀想だったんだから」

「ぼっちちゃん……つか、爆走ってなんだよ」

「何を焦ってるのか知らないけど、メンタルのマージンも取らないと本分でも自爆するぞ、って話」

 そんな男子ふたりの会話から数歩遠ざかり、君塚の意向を尊重する。芳音の誤解が解けたなら、もっと砕けた話も出来そうだ。

「私、父のご機嫌取り用のお土産を買って来るから。十分ほど待っててもらっていい?」

 望はそれだけを言い残し、今度はきっと改札口で待っているだろうと踏んで、返事を待たずにデパ地下へ走った。


 穂高への土産にチーズスフレを買って戻ると、君塚がひとりで待っていた。

「芳音に送ってもらおうと思ったんだけど、お父さんが今、鬼門なんだって?」

 そんな切り出しだけで、打ち解けられたのだと解る。君塚の表情は嬉しさ半分同情半分といった複雑な気持ちを描いていた。

「溺愛過保護ジコチューパパンだから、芳音のことも自分の息子みたいに思ってたの。だから反動が大きくって」

 おどけた口調で軽く言ってみるものの、気分は重かった。せめて待っていてくれたらよかったのに、と思うのはやっぱりワガママなのだろうか。

「ごめんね。俺って緩和剤があればイケるかな、と思って、一緒に来いって捕まえようとしたら、逆に逃げられちった」

 そんな話をしながら改札を通りホームへ向かう。

「うちのも一人娘だからさ、親父さんの風当たりきつくって。いろんな意味で似てるよなあ、とか思ったりね」

 ああ、だから芳音にプライベートのお節介をしたくなったのか。そんなことを考える。

「でも君塚くんは、美琴ちゃんのお父さんに育てられたわけじゃないでしょう。その違いって、大きいかも」

「それは、うん。芳音から聞いて、ちょっと反省した。明日謝んなきゃな」

 芳音の捨て台詞が「親父代わりだったヤツに“気持ち悪い”って言われたあとどんなツラしていいのかなんて、お前に解りっこない!」だったらしい。でもそのすぐあとに「言い過ぎた。ごめん」というメールが届いたそうだ。それも君塚の謝罪メールと入れ違いで届いたらしい。

「じゃあ、きっと何もなかったみたいに自然にしてた方が、思い出さずに済む分楽だと思うわ」

 芳音は誰かに相談するのが苦手な人だから。そう言ったら君塚からは意味ありげに笑われた。電車が滑り込んで来た轟音のせいで、何も聞き返せなかった。電車に乗り込むと、初めて君塚が望の周囲に確実な隙間が出来る形でガードしてくれた。驚いて彼を見上げると、小さな声で教えられた。

(芳音から聞いた。本当は人酔いするから電車が苦手だ、って。人と接触しなければ少しは楽なんでしょ?)

 今まで気づかなくてごめんねと言われ、強く首を横に振った。

 揺れる電車の中で、嫌悪感や緊張もなく人と話せるのは久しぶりだった。

「今回は望ちゃんにありがとう、だな。芳音はいいライバルだから、こういうと望ちゃんには怒られるかも知れないけど、こんなことで本分に支障を出されると張り合いがないっていうか」

 短い時間ではあったけれど、芳音と腹を割って話す機会を得られたので、これからはもっといろいろな相談もしやすくなった、と嬉しそうに彼は語った。

「いろいろ?」

「そ。イロイロ」

 勘が課題以外のことを指していると告げていた。

「なんだか言い方がいやらしい。ヘンなことを教えたり教えられたり、なんてことが判ったら、美琴ちゃんに告げ口するわよ?」

「すごい自信だね。芳音が君には一切隠しごとなんかしてません、って信じてる?」

 意地悪な表情で笑うのが、すごく得意な人だ。改めてそう思ったら、自然と剣呑な表情になっていくのが自分でも判った。

「人のプライベートを暴いておいて、今度は不安を煽ろうとしている、ってこと? どういう思考回路してるのかしら。落としたいのか助けたいのか解らない人よね、君塚くんって」

「きっつー。助けたいってか、相互扶助に決まってるじゃん」

 ただし、同性として芳音の手助けだけどね、と言う。

「どういう意味?」

「知らなくていいの」

「どうして」

「野郎だけの話題だと、結構エグい内容になるから」

「!」

 しれっとさりげなく、それでいてこちらの不安や憶測を掻き立てるひと言を告げられた途端、望の中に巡った様々な憶測に黙らされる格好になった。

 とにかくやることが増えたのは確かだ。余計なことを君塚にしゃべらないよう、芳音にきつく命じることと、君塚のこの物言いが何を暗喩しているのかを彼の恋人に聞き出すことと、それから――。

「ああ! 君塚くん、やっぱり家まで送らなくていい! パ――父に説明する前に目で殺されるかも!」

 一番大事なことを失念していた。穂高にとって、多分芳音だけでなく、望の周りにいる異性がすべて“虫”に見えている可能性が高い。今まで女子高だったので、その可能性に思い至らなかった。

「え、そうなの? 益々会ってみたい。外面と内面の違いを有名人で見るのって初めてだし」

 勘弁して。そんな望の切なる願いは叶わず、その数十分後に君塚は一階のエントランスで穂高から社交辞令の礼だけを受け取らされ、お礼のお茶さえ飲めずに追い返される破目になった。

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