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メメントモリ・ウィルオウィスプ  作者: 山法師


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1 シブヤで楽しもう

 コスプレして、シブヤで遊ぼう。

 高校最初のハロウィンなんだし、楽しみたいし。


 クラスメイトたちが楽しそうに立てた計画に、自分も組み込まれているとは思わなかった。


 当日の午後、幼なじみでもある友人に確認のメッセージをもらってから、組み込まれているのだと気付いた。

 思っていなかっただけで、行くことは嫌じゃない。

 だから彼女──メアは誤解していたと伝え、参加するとも伝えた。


 メアに伝わっていなかったと知った幼なじみの女子、姫子(ひめこ)は逆に謝ってきて、


「これから一緒に準備しよう」


 とまで言ってくれた。他にも数人、クラスメイトで友人の女子たちも『準備』を手伝ってくれた。


 白い猫耳のカチューシャ、くるりと上向きに巻く白い猫のしっぽを思わせる飾り、白い鈴が付いたチョーカー。

 服装はカジュアル寄りの白いミニスカロリータと、白いタイツ。

 足元は白くてロリータ風のローヒールパンプス。


 よく分かんないからお任せすると友人たちに丸投げした結果、全身が白くなった。


 友人たちから先に聞かれたし了解したので、白いコスプレ姿のメアは、友人たちと共に現地集合して、


「ここなら邪魔にならないし、出すね」


 と、背中から真っ黒な翼を出現させた。


 肩までの黒髪、オレンジを帯びた赤い瞳、白い肌。

 身長も平均より少し高い程度で、どこにでもいる女子高生に見えるだろう。


 ヴァンパイアを示す真っ黒な皮膜の翼だって、現代では珍しがられたり変に拝まれたりもしない。


 様々な『人種』の一種類。幻想の存在と言われていた者たちが人間として暮らすのが当たり前になったのは、今年で16歳になるメアが生まれるよりずいぶん昔の話。


 メアのような『人間』が、ハロウィンを楽しむという同じ目的だろう、コスプレ──仮装と本来の姿を併せて楽しむ様子がそこかしこで見られる。

 友人たちを含めたクラス内にも幻想だった『人間』が何人もいるし、祖父母より上の世代は戸惑うこともあるようだが、メアたちにとっては日常的な風景だった。


 迷惑行為をする人たちは、警備の人たちがすぐに捕まえる。

 平和に楽しむ人たちだけで、ハロウィンを満喫できる。


 昔のシブヤで行われていたハロウィンの楽しみ方と、今の楽しみ方は違うらしい。

 地域全体でハロウィンを盛り上げ、シブヤに元からある店や許可を得た出店は全てハロウィン仕様になって客を呼び込む。


 集合時間10分前に到着したメアたちが最後だったようで、早いけどみんな揃ったからと、日が傾きかけているシブヤでハロウィンのお祭りを楽しんでいた。


「あ、すみません」


 背の高い人とぶつかり、メアは謝った。

 出店で買ったカボチャクッキーを友人たちと食べ歩いていて、人が多いとはいえ集中力を欠いていた。


 ぶつかってしまった背の高い人は立ち止まり、メアへと顔を向けた。

 困惑しているような、夢でも見ているような表情を向けてくる。


 短い白銀の髪と切れ長な真紅の目、少し血色の悪そうな白い肌。

 やや尖っている耳、メアより黒い──闇に紛れそうな漆黒の翼は羽毛ではなく皮膜。

 仕立てが良さそうだけどくたびれている雰囲気のコートも真っ黒の、二十歳超えに見える男性の容姿はコスプレなのか本来の姿なのか。


 似たような容姿──人気キャラのコスプレをしている人たちは大勢居るので、彼の格好が気になった訳ではなかった。


 メアが気になったのは、自分たちに向けられた男性の目に、青白い光が宿ったこと。


 瞳の中に青白い光、『虚ろな炎』が宿ると人間になった人外は人外に戻る……人間に危害を加える存在になると教わる。


 まさかと警戒するメアに、男性が控えめな声で聞いてきた。


『……君は、我らの血族に見えるが。そういったものを食べても平気なのか……?』


 ヴァンパイアの正式言語で聞かれて本物に忠実だなと驚いたのに、彼が押さえた腹から空腹を思わせる音が控えめに響いたことでメアの気が抜けた。


『ぶつカってしマッタお詫びとイウことで。良かったらドウぞ。安全に食べられマスし、美味しいデスよ』


 ハロウィンだからと久しぶりに使う正式言語で返してみたら若干音が崩れたが、彼は気分を害したり悪ノリするでもなく、むしろホッとしたようだった。


 数枚残っていたカボチャクッキーの袋を差し出すと、


『すまない、急に。ありがとう』


 と、控えめな様子で受け取った。


『いえ、お気になさラず。ハッピーハロウィン、みたイナ』


 友人たちと楽しんでいたためか、正式言語で話すのと同じ軽い気持ちで、普段なら言わないような言葉と共に笑いかけた時。


『……ハロウィン……?』


 訝る表情になった彼が、


『今は、今の時期、今夜はハロウィンなのか? 霊魂、死霊が戻って来る夜なのか?』


 控えめだった声を強い口調に変え、どこか焦っているように尋ねてきた。


 ハロウィンなのは確かだけど、霊魂や死霊が戻って来るという意味が分からない。


 首を傾げたメアに、彼とのやり取りを見ていた友人たちを代表するように姫子が声をかける。


「ヤバそうには見えなかったけど……何話してた? 大丈夫なの?」

「大丈夫だと思うけど……お腹空いてたみたいでさ、ぶつかったお詫びでクッキー渡しただけだよ」


 ほんの少しのやり取りだが、彼は危険な人には見えない。


 そんな思いでクッキーを渡した男性をふんわり弁護しようとしたのに、


『君……君は、なんだ……? 天使……? 同族と天使が喋る……?』


 今やっと姫子に気が付いたらしい彼は、天使──設定としては天使メイドだというメイド服に天使要素が混ざったもの──のコスプレをしている姫子に困惑の眼差しを向ける。


『……いや、違う、天使ではない。同族と話す君は人間だろう? 今夜はハロウィンの夜なのだろう? 人間が天使を真似た装いをするなど、救いを求める死霊たちの格好の的になる……! 私がここに居る意味はさっぱりだが、本当にこの場に居るのだとしたら……!』


 訳の分からないことを焦りからか早口で言い始め、ヤバい酔っぱらいだったのかもとメアが姫子に伝えようとした時。


『天に向かえないと嘆く死霊たちが、救いと魂を求めて地上にやって来る!』


 彼が叫んだ声をかき消すほどの轟音が響き渡り、地面が大きく揺れた。

 太陽は完全に沈んでいて、空も闇が濃くなっていた。



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