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召喚されたら、俺の武器は「逃げ足」だけだった。 〜チートなし陸上選手、少女と二人で絶望世界を生き抜く〜  作者: 品川太朗


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19/19

エピローグ:旅の始まり

お読みいただき、ありがとうございます。 そして、第18話「あなたを守る」……高槻海斗の最期を見届けていただき、本当にありがとうございました。


彼の死は、あまりにも突然で、理不尽だったかもしれません。 しかし、彼の死は、確かに「トリガー」でした。


このエピローグは、彼の死によって、この世界にもたらされた「結果」。 そして、彼が命を賭して守り抜いた少女・エララが、 絶望の淵で出会う、「新たな始まり」の物語です。


【第一部】の、本当の最後の一ページ。 どうか、お読みください。

「いやあああああああああああああああああああっ!!!!」

少女の絶叫が、勝利に沸いていたはずの、静かな、静かな戦場に響き渡った。

彼女は、腕の中で急速に冷たくなっていく、高槻海斗の体を抱きしめることしかできなかった。

その、魂の叫びに呼応するかのように。

世界で、奇妙な現象が始まった。

最初に、海斗を貫いたスペクターの残骸が、まるで陽炎のように、その輪郭を揺らめかせた。

そして、音もなく、細かい、灰色の粒子となって崩れ落ち、風にさっとさらわれていく。

その現象は、伝染するかのように、戦場全体へと広がった。

数千、数万。地平線を埋め尽くしていた、鋼鉄の亡骸の全てが、一斉に、その呪われた肉体を解き放つかのように、塵へと還り始めたのだ。

壮大な墓標群が、まるで最初からそこになかったかのように、静かに、ただ静かに、この世界から消えていく。

「な……なんだ、これは……」

「敵が……消えていくぞ……?」

駆けつけていたイージスの兵士たちは、そのあまりにも幻想的で、神聖ですらある光景に、足を止め、ただ呆然と立ち尽くしていた。

人類の勝利を決定づけた、本当の「最後の引き金」が、今、彼らの目の前で引かれたのだ。

しかし、その意味を理解する者は、誰もいなかった。

ただ一人、腕の中の温もりを永遠に失った、幼い少女を除いて。

どれくらいの時間が経っただろうか。

鋼鉄の墓場が完全に消え去り、元の荒涼とした野原に戻った戦場で、エララはただ、声を枯らして泣きじゃくることしかできなかった。

その、絶望の淵に沈む彼女の肩に、そっと、誰かの手が置かれた。

はっと顔を上げる。

そこに、一人の女性が立っていた。

かつて、瀕死の海斗を救ってくれた、あの「謎の女性」。

彼女の表情は、今、目の前の惨状を、まるで自分のことのように、深い、深い悲しみに満たしている。

「悲しまないで」

女性は、静かな、しかしはっきりとした声で、そう言った。

「何を…!」

怒りと悲しみで、エララは彼女を睨みつける。この人は、何を言っているのだろう。

カイトは、死んだのに。

だが、女性は、真っ直ぐにエララの目を見て、続けた。

「あなたは、いつか、きっとこの人…お兄ちゃんに、また会えるから」

その、あまりにも非現実的で、荒唐無稽な言葉に、エララは呆然とし、泣くことさえ忘れてしまった。

「さあ、行きましょう」

女性は、呆然とするエララの手を引き、優しく立ち上がらせた。

「あなたに教えなければいけないことが、たくさんあるの」

兵士たちが、ようやく正気を取り戻し、こちらへ向かってくる。

「おい、あそこに子供がいるぞ!」

しかし、女性が一瞥いちべつをくれると、兵士たちはなぜか、すぐそばにいるエララたちに気づかないかのように、その場を通り過ぎていった。

女性は、エララを連れて、戦場から静かに離れながら語りかける。

「私の旅は、これで終わったわ。記録通り、彼の死で、この世界は救われた」

その声には、長すぎた旅を終えた、深い安堵と疲労が滲んでいた。

「…でも、ここからは、あなたの旅が始まるの」

二人は、誰にも知られることのない、隠された場所へと向かって歩いている。

「…わたしの、たび…?」

エララが、ようやく声を絞り出す。

女性は、悲しげに、しかし、確かな希望を託すかのような眼差しで、彼女に微笑みかけた。

「ええ。とても長くて、つらい旅よ。でもね…」

「もしかしたら、あなたの旅でなら、あのお兄ちゃんを救えるかもしれない」

女性は、遠い目をして、さらに付け加えた。

「…ううん、その次の旅かもしれない。あるいは、その、ずーっと、次かもしれないけれど」

全てを理解できずに、呆然と女性の手を引かれて歩いていたエララが、初めて、自分の意志で立ち止まった。

彼女は、自分を導く女性の顔を、涙の滲んだ瞳で、じっと、強く見上げる。

そして、震える声で尋ねた。

「あなたは…誰なのですか? お名前を、教えてください」

女性は、立ち止まる。

彼女は、目の前の、幼い少女の姿を――かつての自分の姿を――慈愛と、そして何世代にもわたる悲しみを込めた、深い眼差しで見つめ返す。

そして、ほんの少しだけ、この世界で初めて見せるかのように、悲しげに微笑んだ。

「私の名前は…」

「――エララ」

自分の名前と同じ名前を告げられた、幼い少女の、驚愕に見開かれた瞳。

その瞳が、壮絶な未来(あるいは過去)を見据えようとした瞬間に、

物語は静かに、一度、幕を下ろす。

【第一部:完】

(=【第一部:完】のご挨拶)


エピローグ「旅の始まり」、お読みいただきありがとうございました。 そして、これにて、


【第一部:生存者の逃避行】


は、完結となります。 ここまで、高槻海斗とエララの長く、過酷な旅にお付き合いいただき、 本当に、本当に、ありがとうございました。


召喚された時、彼には何もありませんでした。 剣も魔法もチート能力もない。 あったのは、陸上競技で鍛えた「脚力」と「思考」。 そして、たった一人を守り抜くという「意志」だけでした。


彼は世界を救う英雄ではありませんでしたが、 確かに一人の少女を守り抜いた「生存者」だったと、作者は信じています。


「私の名前は…エララ」

彼の死によって世界は救われ、 残された少女は、未来の(あるいは別の時間の)自分自身と出会いました。 「お兄ちゃんを救えるかもしれない」という、かすかな希望を託されて。


高槻海斗の物語は、ここで終わります。 しかし、彼の意志と、彼の死によって生まれた謎を引き継いだ、 少女エララの「旅」が、ここから始まります。


もし、高槻海斗の生き様と、エララの旅の始まりに、何かを感じていただけましたら、 【ブックマーク】や【★★★★★】での評価、そして、 よろしければ感想などで、皆様の第一部完結への「声」をお聞かせいただけると、 これからの第二部を執筆する、何よりの力となります。


改めて、この長い逃避行にお付き合いくださった全ての読者の皆様に、 心より感謝を申し上げます。


本当に、ありがとうございました。

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