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召喚されたら、俺の武器は「逃げ足」だけだった。 〜チートなし陸上選手、少女と二人で絶望世界を生き抜く〜  作者: 品川太朗


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第18話:あなたを守る

本日より、ついに【最終章(第八章):終着点】が始まります。 そして、この第18話が、【第一部】の最終回となります。


人類は勝利しました。 地平線を埋め尽くしていた鋼鉄の敵は、もう動かない。 高槻海斗とエララの、長く、過酷だった「逃避行」は、今、ようやく終わろうとしています。


「イージス」は、もう目の前。 二人がたどり着いた「終着点」で、彼らを待つものは。


どうか、彼らの旅の、最後の一歩まで見届けてください。

地鳴りのようだった勝利の雄叫びが、遠い丘の上まで届いてくる。

やがて、その熱狂的な歓声も少しずつ静まり、まるで嘘のような、穏やかな、ありふれた静寂が世界を包み込んだ。

空を覆っていた黒煙は風に流れ、地平線を埋め尽くしていた鋼鉄の津波は、完全にその動きを止めた「モノ」と化している。

終わったのだ。

その事実を実感した瞬間、高槻海斗とエララは、全身を支えていた最後の緊張の糸が切れるように、その場にへたり込んだ。

「……終わった…のですね…」

エララの瞳から、こらえていた涙が、堰を切ったように溢れ出す。

それは、王都で両親を失った時とも、塔で裏切られた時とも違う、ただ、生き延びたことへの、子供のような安堵の涙だった。

海斗は、そんな彼女の小さな背中を、言葉もなく、ただ優しくさすってやる。

彼自身、初めて、思考から「次、どこへ逃げるか」「次の食料は」という生存本能の問いが消えていることに気づいていた。

明日を、考えられる。この先の未来を、想像できる。

暖かいベッド。お腹いっぱいの食事。もう、何からも逃げなくていい日々。

長かった、あまりにも長い旅が、ようやく終わるのだ。

気持ちを落ち着かせた二人は、勝利に沸くイージスへと、最後の一歩を踏み出した。

丘を下り、眼前に広がるのは、先ほどまで死の戦場だった場所。

数千、数万のスペクターが、様々な形で破壊され、沈黙している、広大な鋼鉄の墓場だった。

胴体を両断されたもの、光線に融解されたもの、そして、まるで眠っているかのように、無傷のまま機能を停止しているもの。

二人は、その残骸の間を、縫うようにして歩いていく。

それは、自分たちがこれまで逃げ続けてきた「恐怖」の、亡骸の上を歩く、不思議な感覚だった。

「…見て、カイト! 城門が開いています!」

エララが、まだ涙声のまま、嬉しそうに声を上げた。

イージスの巨大な城門が、ゆっくりと開かれている。城壁の上では、兵士たちが勝利の旗を振っているのが見えた。

門からは、生存者を捜索するためだろうか、一隊の斥候が出てくるのが見える。

安全は、もう目と鼻の先だった。

「すごいな…本当に、勝ったんだな、この世界の人たちは…」

「ええ! これで、もう安心ですね!」

二人の間に、初めて、何の屈託もない、未来だけを見る笑みが浮かぶ。

もう、大丈夫だ。

彼らは、ひときわ大きく破壊されたスペクターの残骸の横を、通り過ぎようとした。

それは指揮官機の護衛だった機体だろうか、胴体は両断され、あの忌まわしい赤い単眼も砕けている。

完全に、ただの鉄屑だった。

その、はずだった。

全ては、一瞬だった。

ガ、と。金属の軋む、小さな、しかし静寂の中ではあまりにも明瞭な音。

統制AIを失い、完全に破壊されたはずの機体が、最後のバックアップ電源と、破損した戦闘プログラムの断片によって、痙攣するように、一瞬だけ再起動した。

その腕部に残された、対人用のヒートブレードが、最も近くにいる生命反応――エララの背中――を、最後のターゲットとして認識した。

「――!」

海斗は、音に反応した。

彼が振り返った時、目にしたのは、背後からエララの小さな背中に振り下ろされようとする、灼熱の刃だった。

考える時間は、なかった。

声を出す暇も、なかった。

彼の体は、思考よりも早く、完璧な反射で動いた。

これまで廃墟で、塔で、渓谷で、何度も、何度も、エララを守るために繰り返してきた、その動き。

ただ、彼女を守るという、そのたった一つの目的のために、彼の肉体は最適化されていた。

彼は、エララの体を、力任せに突き飛ばした。

そして、自分が、その場所に滑り込んだ。

衝撃は、なかった。

ただ、背中に、焼けるような、それでいて何も感じないほどの熱が走っただけだった。

振り下ろされたヒートブレードは、海斗の背中を、その下にある心臓ごと、静かに貫いていた。

最後の一撃を放ったスペクターは、今度こそ完全に沈黙し、その腕をだらりと落とした。

「……え?」

突き飛ばされ、地面に倒れたエララが、何が起きたか分からずに振り返る。

そこには、

胸から赤熱した刃を生やし、

驚いたような顔で、

自分を見つめている、海斗の姿があった。

「……カイト…?」

海斗の膝が、ゆっくりと折れる。

彼は、エララの目の前で、音もなく、崩れ落ちた。

遠くから、異変に気づいたイージスの兵士たちが、何かを叫びながら駆け寄ってくるのが見える。

「いや…いやっ! カイト!」

エララは、血の海に倒れる海斗の体を、必死に抱きかかえる。

傷口からは、おびただしい量の血が、彼女の服を、勝利の地を、赤黒く濡らしていく。

「あ……ぁ……」

海斗の口から、声にならない、空気が漏れる音だけが聞こえる。

彼は、最後の力を振り絞り、エララの頬に手を伸ばそうとした。

だが、その手は、途中で力なく、地面に落ちた。

ただ、その目は、最期の瞬間まで、しっかりとエララの顔を捉え、

そして、ほんの少しだけ、笑ったように見えた。

彼は、世界の英雄ではなかった。

だが、ただ一人の少女を守り抜いた、生存者だった。

「いやあああああああああああああああああああっ!!!!」

少女の絶叫が、勝利に沸いていたはずの、静かな、静かな戦場に、いつまでも、いつまでも、響き渡った。

第18話「あなたを守る」、そして【第一部】最後までお読みいただき、 本当に、本当に、ありがとうございました。


高槻海斗の旅は、ここで終わりました。


彼は、世界を救う英雄ではありませんでした。 最後まで魔法も使えず、剣も振るわなかった。 彼は、ただの「生存者サバイバー」でした。


そして、その最後の瞬間まで、「ただ一人の少女を守る」という、 彼がこの世界で唯一つ決めた行動原理を、 その命と引き換えに、貫き通しました。


チート能力を持たず、ただひたすらに「逃げ続けた」少年の物語に、 ここまでお付き合いいただけたこと、作者として、言葉にできないほどの感謝でいっぱいです。


高槻海斗の物語は、ここで【完結】です。 しかし、彼の「死」は、 あの「観測者(謎の女性)」が求めた、世界を救うための「トリガー」でした。 あの「移民船団(AI)」が恐れた、因果律の「エラー」でした。


少女の絶叫が、戦場に響き渡ります。 ですが、物語は、まだ終わりません。


次回、【エピローグ】。 彼の死によって、この世界はどう変わるのか。 そして、残された少女・エララの手を引く、あの人物は――。


第一部の結末に、もし何かを感じていただけましたら、 【ブックマーク】や【★★★★★】での評価、そして、 よろしければ感想などで、皆様の声をお聞かせいただけると、 これからの物語を紡ぐ、何よりの力となります。


本当にありがとうございました。 どうか、エピローグでお会いしましょう。

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