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召喚されたら、俺の武器は「逃げ足」だけだった。 〜チートなし陸上選手、少女と二人で絶望世界を生き抜く〜  作者: 品川太朗


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第15話:鋼鉄の鬼ごっこ

本日より、【第六章:追跡者】が始まります。 視点は再び、高槻海斗とエララに戻ります。


前回(第五章)、敵である「移民船団」は、海斗という「エラー」の存在に気づかないまま、最終目標を『イージス』に定めました。 奇しくもそれは、海斗たちが目指す、人類最後の砦。


二つの運命が、西の地で交錯しようとしています。 謎の女性に救われ、旅を再開した二人。 彼らに、新たな脅威が「一体」だけ、忍び寄ります。

謎の女性に命を救われてから、数週間が過ぎた。

高槻海斗の体は完全に回復していた。いや、それ以上の何かが起きていた。側頭部の銀色の傷跡は、もはや痛みもしないが、時折、全身の神経が研ぎ澄まされ、以前よりも力がみなぎっているという、異質な感覚があった。

エララも、あの絶望的な渓谷の底を乗り越え、その瞳から脆さが消え、精神的に一回りたくましくなったようだった。

二人は「イージス」という明確な目的地に向け、黙々と旅を続けていた。

「人を信用するな」

あの女が残した冷たい言葉を胸に刻み、彼らは街道を避け、人の痕跡が消えた丘陵地帯や、獣道さえない森を抜けるルートを選んでいた。

その日、彼らは街道を見下ろす丘の茂みに、息を殺して身を潜めていた。

偶然、視界に入った「何か」が、海斗の足を止めさせたのだ。

眼下を、巨大なゴーレムに引かれた荷馬車の隊列が、地響きを立てて西へ向かって進んでいく。

荷台には巨大な水晶の塊や、見たこともない金属のインゴットが満載されている。

だが、海斗の目を釘付けにしたのはそれではない。その隊列を護衛するように、数体の「スペクター」が、その光学迷彩を解き、鋼鉄の機体を堂々と晒して随伴していたのだ。

「……あいつら、隠れる気がないぞ」

「カイト……」

エララの声が、恐怖で震える。

これまで彼らを絶望させてきた「見えない敵」が、今やその姿を隠す必要すらないと、その存在を誇示している。

さらに空を見上げれば、遥か高空を、十数騎のワイバーンが黒い点となって編隊を組み、同じく西へと飛び去っていく。

明らかに、大規模な軍事行動。

そして、その目的地は、自分たちが目指す「西」――王国最後の騎士が託した、要塞都市『イージス』のある方角だった。

希望の地だと思っていた場所が、今、この世界の全ての戦力が集結する、巨大な戦場の中心になろうとしていた。

二人は、その奔流の、最も危険な場所へと、自ら歩いて向かっているのだ。

それは、途方もない、悪寒を伴う感覚だった。

やがて隊列が通り過ぎ、二人は重い沈黙の中で再び歩き始めた。

イージスのある山脈まで、あと数日というところまで来ていた。

狩りの始まりは、あまりにも静かだった。

身を隠す場所の少ない、広大な岩石地帯を横断していた時だ。

海斗は、数キロ先の岩山の頂で、何かが陽光を反射して、チカリと冷たく光るのを、そのアスリートとして研ぎ澄まされた動体視力で捉えた。

太陽の反射ではない。

人工的な、レンズの光。

第10話で狙撃された、あの悪夢が、全身の皮膚を粟立たせた。

「――伏せろ!」

海斗が叫び、エララの小さな体を地面に突き飛ばしたのと、二人が今まさに踏みしめようとしていた数メートル先の地面が、閃光と共に爆ぜるように弾け飛んだのは、ほぼ同時だった。

狙撃。

だが、それは二人を直接狙うものではなかった。

まるで牧羊犬が羊を追い立てるように、退路を断ち、身を隠す岩陰のない開けた場所へと誘い出すための、極めて知的な、冷酷な一撃だった。

岩山の頂から、蜘蛛のようなシルエットが、恐るべき速度で崖を駆け下りてくる。

一体の、偵察型スペクター。

完全に、捕捉された。

「走れ!」

海斗はエララの手を引き、スタートダッシュの要領で全力で駆け出した。

壮大な戦争の気配を遠くに感じていた二人の旅は、今、たった一体の機械による、絶望的な鋼鉄の鬼ごっこへと、その姿を変えた。

スペクターは執拗だった。

殺すためではない。その証拠に、次の狙撃は来ない。

まるで、獲物の耐久限界を試すかのように、じりじりと、しかし確実に距離を詰めてくる。

海斗は、ただ闇雲に逃げるのではない。常にスペクターの進路を予測し、己の心拍とエララの呼吸を計算し、体力の消耗を最小限に抑えながら、ギリギリの距離を保ち続ける。

400メートル走の、究極のペース配分。

だが、相手は疲労を知らない機械。こちらは、生身の人間。

陽が傾き始め、乾いた空気が肺を灼き、二人の体力は容赦なく削られていった。

「はぁ…っ、はぁ…もう…走れません…」

ついにエララの足がもつれ、膝が折れる。

「エララ、しっかりしろ! 止まったら死ぬぞ!」

恐怖と疲労で泣きじゃくるエララを、海斗は叱咤しながら、その腕を掴んで無理やり引き起こす。

諦めない。その強い意志だけが、鉛のようになった彼の足を動かしていた。

しかし、背後から迫る鋼鉄の足音は、一定のリズムを崩すことなく、止まらない。

第15話「鋼鉄の鬼ごっこ」、お読みいただきありがとうございました。


ついに、イージスを目指す海斗たちと、イージスを目指すスペクターの軍団が、同じフィールドに立ちました。 そして始まってしまった、一体の偵察機による、絶望的な鬼ごっこ。


相手は疲労を知らない機械。こちらは生身の人間。 このまま走り続けても、ジリ貧になるのは目に見えています。 第10話の悪夢(狙撃)も蘇る中、海斗はこの状況をどう判断するのか。


「止まったら死ぬ」――しかし、走り続けても死ぬ。 この詰んだ状況で、海斗が持つ唯一の武器「アスリートの思考」が、活路を見出すことはできるのでしょうか。


次回、海斗は「逃げる」ためではなく、「勝つ」ための賭けに出ます。


もし「この鬼ごっこ、絶望感ヤバい…」「海斗、どうするんだ!?」と息を詰めていただけましたら、 【ブックマーク】や【★★★★★】での応援、どうぞよろしくお願いいたします! (皆様の応援が、海斗を次のスプリントに向かわせます!)

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