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召喚されたら、俺の武器は「逃げ足」だけだった。 〜チートなし陸上選手、少女と二人で絶望世界を生き抜く〜  作者: 品川太朗


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第13話:再び、西へ

前回、自らの計画を変更し、海斗を「生かす」ことを決断した謎の女性。 瀕死の海斗を前に、エララは彼女の言葉に賭けるしかありません。


この世界の魔法とは明らかに異なる、彼女の「治癒」とは。 そして、彼女がエララに残していく言葉とは。


絶望の淵からの、再起の回です。

女の治癒術は、エララが知るどんな魔法とも、明らかに異質なものだった。

彼女はエララの両親が使っていたような詠唱も、複雑な魔法陣も用いない。

ただ懐から取り出した、水晶のように冷たい光を放つ医療用のメスで、躊躇なく、海斗の化膿しかけた傷口を切り開いた。

「ひっ…」

エララが息を呑む。その小さな悲鳴を、女は「静かに」と、氷を砕くような短い言葉で制した。

女は、切り開かれた生々しい傷口に、小さな瓶から粘性のある銀色の液体を注ぎ込んだ。

ジュウ、と肉が焼けるような、それでいて急速に凍てつくような、矛盾した音が響く。

すると、おびただしい出血をしていた傷口は、まるで時間を逆行させるかのように、その組織が蠢き、瞬く間に塞がっていった。

その手際の良さには、一切の感情――ためらいも、憐憫も――が介在していなかった。

まるで、壊れた精密機械・・・・・を修理する、熟練の技師のようだ。

治療の途中、女は、エララが傍らに落としていた金属の破片に気づく。

彼女はそれを拾い上げ、その内側に刻まれた【U.N.F.】の文字を一瞥いちべつした。

全てを理解したというように、しかしその表情は微動だにせず、まるで証拠品でも回収するかのように、それを自分の懐へとしまい込んだ。

やがて、海斗の死の淵にあった荒い呼吸は、穏やかな寝息へと変わった。

赤黒く腫れ上がり、骨が覗いていたかもしれない側頭部の傷は、今はもう、一本の細い、銀色の線のようになった傷跡だけが残っていた。

「……もう、大丈夫です」

女はそう言うと、持っていた鞄から、保存食と水の入った水筒を、呆然とするエララの前に置いた。

「これを。西へ向かいなさい」

その声は、第12話で垣間見せた葛藤など微塵も感じさせない、元の冷徹な観測者のものに戻っていた。

「そして、決して、人を信用してはダメです」

「あ、あの…!」

エララが礼を言い、その名前を尋ねようとする前に、女は静かに立ち上がり、まるで最初からそこにいなかったかのように、霧の中へと溶け込むように、その姿を消していた。

数時間後、高槻海斗は、深い水底から浮上するように、ゆっくりと意識を取り戻した。

あれほど全身をさいなみ、思考を奪っていた熱と激痛は、嘘のように消え去っていた。

側頭部に手をやる。そこには、治癒したばかりの、奇妙なほど滑らかで、皮膚とは異質な感触の傷跡があるだけ。

(何だ……これ……)

「……気がついたのですね!」

傍らで、疲労困憊してうたた寝をしていたエララが、弾かれたように飛び起きた。その声は、安堵と喜びで裏返っている。

その目元は、どれだけ泣き続けたのか、痛々しいほどに赤く腫れ上がっていた。

彼女から、事情を聞かされる。

自分が、丸一日近く、生死の境をさまよっていたこと。

そして、「母様と知り合いだった、不思議な女の人」に、命を救われたこと。

海斗は、黙って話を聞いていた。

謎の女性。両親の知り合い。そして、この世界の魔法とは明らかに異質な、高度な治癒技術。

塔での「裏切り」の直後に、今度は「謎の助け」。

(……人を、信用するな、か)

エララは、女が残した言葉も、正直に海斗に伝えていた。

謎は、さらに深まった。塔のリーダーの顔と、あの女の冷徹な顔が重なる。

だが、今はいい。

彼は、自分のために、たった一人でこの絶望的な渓谷の底で泣きながら、必死になってくれた、目の前の少女の頭に、そっと手を置いた。

「……ありがとう、エララ」

それは、彼がこの世界に来て、初めて口にする、純粋な、何の計算もない感謝の言葉だった。

エララは、その一言で、張り詰めていたものが切れたように、再びわっと泣き出した。

二人の旅が、再び始まる。

彼らの知らないところで、自分たちの運命が、あの謎の女性の、冷徹で、そしてあまりにも悲しい計画の上に、静かに組み込まれてしまったことなど、知る由もなく。

第13話「再び、西へ」、お読みいただきありがとうございました。


ひとまず、海斗が生還しました。 謎の女性の力は、この世界のことわりから外れた、高度な技術のようでした。 彼女はスペクターの金属片(U.N.F.)を回収し、「西へ行け」「人を信用するな」という言葉を残して去っていきます。 ますます謎が深まります。


そして、海斗からエララへ、初めての「ありがとう」。 二人は、過酷な経験を経て、より強固な絆で結ばれました。


再び「イージス」を目指し、西へ歩き出す二人。 ……しかし。


次回、【第五章:原因不明のエラー】。 物語の視点は、海斗たちから遠く離れ、 あのスペクターを運用する「敵」――移民船団の内部へと移ります。


なぜ、スペクターは海斗を前に「エラー」を起こしたのか。 その原因を探る、彼らの視点とは。


もし「海斗助かってよかった!」「ついに敵側の視点!?」と少しでも思っていただけましたら、 【ブックマーク】や【★★★★★】での応援、どうぞよろしくお願いいたします! (皆様の応援が、この世界の謎を解き明かす力になります!)

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