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召喚されたら、俺の武器は「逃げ足」だけだった。 〜チートなし陸上選手、少女と二人で絶望世界を生き抜く〜  作者: 品川太朗


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第11話:エラー

前回、エララを庇って崖下へ転落し、意識を失った海斗。 絶望的な状況の中、とどめを刺そうと迫るスペクター。 二人の旅は、ここで終わってしまうのか――。


そう思われた、その時。 崖の上で見下ろす「敵」に、ありえないはずの「異変」が起こります。


絶望から、一転して「謎」へ。 この世界の真実の欠片が、今、姿を現します。

「いやあああああああああっ!」

エララの、魂が引き裂かれるような絶叫が、渓谷の冷たい岩肌に響き渡り、虚しく消えた。

崖の上、不可視の捕食者は、その勝利を確定させるかのように、ゆっくりと、狙撃用の銃口を崖下へと向けた。

動かなくなった海斗へ、無慈悲なとどめの一撃を放つためだ。

もう、終わりだ。

塔で人間性に裏切られ、ようやく手にした「イージス」という希望への道も絶たれた。

そして今、自分を守ってくれた唯一のパートナーが、目の前で、無抵抗のまま殺されようとしている。

全てが、失われる。

エララの瞳から、涙さえ凍り付くような絶対的な絶望が、世界の色を奪っていく。

彼女が、その終わりに目を見開いた、その瞬間だった。

ピタリ、と。

狙撃体勢に入っていたスペクターの機影が、硬直した。

いや、違う。

それは静止ではなく、まるで人間の致死的な痙攣のように、ガクン、ガクン、と大きく震え始めたのだ。

『Gzz……Zzzt……!』

耳障りな放電音と共に、その姿を隠していた光学迷彩が激しく乱れた。機体の一部が、まるで接触不良の映像・・のように、ノイズ混じりの不鮮明な像を結んでは消え、明滅を繰り返す。

あの忌まわしい赤黒い単眼が、警告灯のように不規則に、激しく点滅し始めた。

それは、機械の故障というには、あまりにも奇怪な現象だった。

まるで、その存在そのものが、この世界のことわりから拒絶され、消えかかっているかのように。

やがてスペクターは、崖下の海斗への狙撃を完全に放棄すると、関節をぎこちなく軋ませながら、まるで操り糸の切れた人形のように、その場からふらふらと撤退していった。

何が起きたのか、エララには全く理解できなかった。

ただ、崖の下で赤黒い血だまりを広げる海斗と、不可解な動きで去っていく敵の姿を、呆然と見つめる。

数秒。

やがて、スペクターの気配が完全に消え去ったことで、彼女の凍り付いていた思考が、絶叫と共に再起動した。

「……っ! カイト!」

我に返ったエララは、必死の思いで、崩れた崖を、転げ落ちるように駆け下りた。

転びそうになる足を叱咤し、岩場に横たわる海斗のそばに駆け寄る。

「しっかりして! 死んでは、いやです!」

呼びかけに、反応はない。

海斗の呼吸は、聞こえるかどうかというほど浅く、側頭部の深い傷から流れる血が、彼の体温を急速に奪っていく。その冷たさが、エララの手のひらに伝わる。

「いや……いやっ!」

エララは泣きながら、旅の途中で海斗が「これは止血になる」と教えてくれた薬草を、見境なくむしり取り、その葉を傷口にぐりぐりと押し付けた。血が滲んで滑る。構わず、自分のワンピースの裾を力任せに引き裂き、その布で、海斗の頭をきつく、きつく縛り上げた。

その時、血で濡れた彼女の足元で、何かが瓦礫の埃とは異質な、鈍い光を反射した。

金属の破片。

先ほどのスペクターが、あの不可解な痙Vをおこした際に剥落させた、装甲の一部らしかった。

エララは、何かに導かれるように、無意識にそれを拾い上げた。

そして、その破片の内側に刻まれた、奇妙な紋様に気づいた。

この世界のどの国のものとも違う。父様や母様が研究室で使っていた「禁忌の言語」とも異なる、あまりにも無機質で、冷たく、幾何学的な形の「文字」。

【 D A N G E R : Property of U.N.F. 】

エララには、それが何なのか分からなかった。ただ、それがこの世界の法則の外側から来た、異質なものであることだけは直感できた。

「……ぁ……」

その時、腕の中の海斗が、死の淵から引き戻されたかのように、朦朧と目を開けた。

彼の、焦点の合わない視界の端に、エララが握りしめる金属破片が入った。

彼は、血の泡が混じる、ほとんど聞き取れないほどのかすれた声で、うわ言のようにつぶやいた。

「……ぁ……るふぁ…べっと……? な……んで……」

その言葉を最後に、高槻海斗は今度こそ完全に意識を失った。

エララは、敵の正体も、海斗の最期の言葉の意味も分からないまま、ただ一人、腕の中で急速に冷たくなっていく少年を抱きしめる。

新たな、そしてあまりにも巨大な謎と、たった二人きりという圧倒的な現実だけが、渓谷の底に、重くのしかかっていた。

第11話「エラー」、お読みいただきありがとうございました。


謎の痙攣を起こし、撤退していくスペクター。 残された金属片に刻まれた、見慣れない文字【U.N.F.】。 そして、海斗がうわ言のようにつぶやいた「アルファベット」という言葉。


一体、何が起きているのか。 敵の正体とは? なぜスペクターはエラーを起こしたのか? 物語の核心に触れる、大きな謎が提示されました。


……しかし。 謎は提示されましたが、状況は最悪のままです。 海斗は意識を失い、その命は風前の灯火。 エララは、この過酷な荒野で、たった一人になってしまいました。


絶望の淵で、彼女はどうするのか。 そして、この二人を「観測」している、もう一つの視点とは――。


もし「謎が深まってきた!」「海斗、生きてくれ!」と緊迫していただけましたら、 【ブックマーク】や【★★★★★】での応援、どうぞよろしくお願いいたします! (皆様の応援が、海斗の命を繋ぐかもしれません!)

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