第四話「諦めない意思」
俺は一時退散を選択して現状の整理に当たっている。それは今回の魔獣がこれまで以上に強くて苦戦を強いられる状況に陥っていることが原因だった。突風を起こすブレスに四の剣を振るう腕と多少の知性が下して来る雷を的確に落とす判断力は俺を容易に近付かせてくれない。そこが非常に難儀を際立てる理由にもなる難点で順序を追って攻略する必要性があった。しかし、どこにも隙が見当たらない現状で魔獣の討伐は厳しいと見た。けど、こいつが倒せないなんて進級は望めない理由を抱えながら審査を受けることは出来ないのである。つまり、ここで確実に倒さない限りは準一級の域に到達できないと考えていた。
(どうやって接近するのかが問題だ。あいつを正面から突破するなんて難易度は高すぎてリスクが大きい。それなら取り敢えず遠回りしてブレスが及ばない範囲に入って殴打を決める点が特に有効とも言える一撃に繋がるはずだ。なら、雷を避けて行きながら接近を諦めない手段が一番の対応策なのか?)
今回は車の中で作戦を練って行く。これは準一級を倒すために不可欠にも思える試練だと思って再戦に挑む。
相手は相変わらず四本の剣を握って四足で大きい図体を支えて構える様子が窺える。実際に腕と足は太すぎて打撃は効かないことは試さなくても分かる。一番に弱点となる箇所は顔面であると予測して積極的に狙って攻撃を仕掛ける。
「今度こそ倒すぞぉぉぉおおお‼」
俺が大きな声を上げながら突っ込んで行く姿勢を見せる。まずは円を描きながら横を走って剣撃に備える。問題は落雷が前に生じた時の回避が上手く成功するかだった。きっと一度だけ顔面を殴れば良い訳じゃない。この一戦で通算を五回の殴打は決めたいと思っていた。長期戦になって体力が保てない時は増援を呼んで悪いが高茂の力を借りようと考えた。
「とにかく最初は一人で相手する!」
俺は走って魔獣の攻撃に的中しないように動き回る。そこで予測した通りの攻撃が下される。敵の剣撃は俺よりも前に振り下ろせないが故に足を止めなければ問題な
く避けられる。それを回避して行くうちに俺が問題視する攻撃に直面した。
ゴロゴロゴロ!
「くぅっ!?」
俺は雷の落ちる方向を直撃するギリギリのタイミングで避ける。そして雷が俺に直撃しないで地面に落ちた。回避した時に俺は停止することなく走る態勢を整え直して再び接近を試みる。そこで二度目の落雷が向かって来た場合にも同じ対応で回避して行く。それが連続で繰り返されたとしても、くじけないで魔獣と距離を縮める足を止めなかった。
(そろそろ殴打が届く距離まで縮められる……! この機会は逃さないで決めて見せる……!)
俺は炎を拳に帯びて火力の調整を最大まで引き上げる。火力は最大で放った方が相手の受けるダメージは大きくなることを踏まえて顔面に殴打を繰り出す。
「うぉぉぉおおお!」
そして魔獣がブレスで対抗しようとする一瞬でこちらに向いたタイミングで殴り飛ばす。この殴打が魔獣の顔面を捉えて身体のバランスを崩す瞬間を作り出す。ちゃんと打撃が顔面に決まって大きなダメージが入った様子を窺わせる。やっと一撃を下せたことで新たに希望が見えて来た。
(魔獣の態勢が崩れている間にまた術式を駆使した一撃が決められるチャンスかも知れない……! 間に合え!)
俺が地上に着地した一瞬で再び跳躍して攻撃を受けて怯んだ魔獣は顔面の至る隙を見せて同じ箇所に殴打を決めた。それが魔獣をさらに崩して倒れたところを炎の放出で燃やした。
「ギャァァァアアア!?」
一気に焼き尽くされた魔獣は最大火力を受けて藻掻いて苦しんだ様子で喚き散らした。これで強敵だった魔獣の相手は完了して任務が遂行したことが報告できそうである。
そんな風に大きな手柄を持って上層部に報告したい話を抱えて車に乗り込もうと思った。やはり、この手柄は実際に自分が諦めないで獲得したことに意味があって出来た話なら単独で討伐して来た報酬と評価は高くても良いはずだと少し深く考えて楽しみだった。
しかし、まだ一戦は幕を閉じる瞬間に招かれるなんてことは早かった。今回の一件を発生させた張本人が直々に姿を現した。
「ちょっと待てよ? まだ終わってねぇぞ?」
「――んぅ⁉」
そこで感じ取った魔力出量は軽く自分に到達する寸前まで高められた数量が肌で分かる。それも確かに相手は魔獣の気配じゃなくて人間だと認識できる魔力の質が【不正術師】を示していることは紛れもない事実だった。
「どうやら追加任務になるようだな?」
「ほう? まさか見抜けたみたいで良かった。もはや気付かれなかった時はどんな反応で迎えてやろうと迷ったところだ」
(ふざけんなよ⁉ 何で凄い魔力を消費した後で軽く実力が並ぶ術師を相手しなくちゃいけないんだ? これだと確実に死ぬ……!)
俺が直面したピンチは死を招く危険性が考慮できる。しかし、相手は魔獣ではなくて不正術師だと言う点が退散できない理由になった。こいつを放って置く行為は周辺にどんな被害を出すのか分からないところが引き下がることに多少の抵抗がある。この状況下だと無線で応援要請を出して代わりに戦ってもらう必要性を強いられる。ここで躊躇していると新たに出現した敵の攻撃が向かって来ることは明白である。なら、取り敢えず連絡だけ入れて時間を稼ぐことに徹するしか策がなかった。
「あーあー! 聞こえますか? こちら悠也! 本来の任務は遂行しました。しかし、新たに不正術師の出現に応援要請を頼む!」
(これで無線を聞いた他の術師が助けに来る。しかし、ここで被害を出さないように応援が来るまで俺が相手するしかない……! やるしかないんだ……‼)
俺は残った魔力を使い過ぎない程度に引き出して目の前の相手に努める態勢を整えた。相手は出現した瞬間に発揮された魔力で推定すると自分の全力よりも二割ほど抑えた出量と等しい数量が感知できた。つまり、ある程度の魔力が使われると俺と同等または超えていることが想定可能である。
そんな奴が相手に回った状況は俺に不利をもたらして真面にやり合った場合は殺されることは間違いないと断言できる可能性は高かった。この場合だと逃げることを優先したい気持ちは強い。けど、逃げた後で犠牲になる人が出た時に責任が取れるかなんて断言は難しい。だから、他の術師が現着するまで持ち堪えるぐらいは任されても良いと思って構えている。
「まさか僕の育成した魔獣を倒しちゃうなんて思わなかったよ。この辺だと準一級レベルの術師はそこまでいないからね? それに君はあまり見掛けない顔だ。どこから来た術師なのか教えてくれないか?」
「俺は準一級術師に上がるための強化期間をこっちで三週間の活動を命じられた東京から派遣された者だ。お前がさっきの魔獣を出没させた張本人なら即座に対処する必要があるな?」
「ほう? 残りの魔力で僕を倒せるのか? それは見ものだな?」
(くっ……! 魔力の残量を知られている中で他に被害を出さないための足止めは凄く厳しいだろう。頼むから早く来てくれ……!)
「では、少しお手合わせ願おうか?」
(――なっ⁉ 魔力が上空の雲に集中している? これが奴の術式なのか?)
すると、いきなり雨が降り出して来た。そして敵は笑いながら自身の術式を明かした。
「僕の術式は【レイン】と呼ばれる天候に作用する効果を成す。一定範囲に渡る空に魔力を流し込んで特殊な雨を降らせる。この雨は僕を強化する作用が含まれていて降り続ける限りは術式は持続させるんだ!」
「マジか!? こんな時に肉体の強化なんて不運にもほどがあるだろ!?」
「さて、どこまで出来るかな?」
敵の様子を窺っているうちに一瞬で間合いを詰めて来る。敵は凄まじい速度で走って来た。その動きを目で追えなくて一気に距離が詰められて軽い殴打が繰り出される。
「ぐぅっ!? ぶはっ⁉」
「どうした? この程度でも反応できないなんて軟だね?」
「――は、早い⁉」
腹部に殴り掛かった敵はすぐに切り返して次の攻撃に繋ぐ。それが今度は顔面に直撃して即座に裏拳が放たれる。二回ほどの連続攻撃が顔面を直撃した瞬間に蹴り上げた足が横っ腹を薙ぎ払う。
(なんて速さだ……!? こんな速度で向かって来た敵なんかに付いて行ける訳がねぇ……!)
三段攻撃で態勢を崩した俺はもはや反撃の隙すら与えてもらえないで吹っ飛ばされた。その一発ごとに込められた力量は凄く強かった。強い威力が出された攻撃の数々でこちらの手が下せない状況が続いた。しかし、日頃から鍛えた肉体はそんな攻撃でも耐え続ける。
「はぁぁぁ~!」
「がはっ⁉」
「ほらほら、どうした? これじゃあ手も足も出ないで死ぬぞぉぉぉおおお‼」
「くそぉっ!?」
防御に徹しようとするが、敵の素早い攻撃を見失って絶え間ない連撃を受ける。身体中がすでに痛くてあざになるほどの打撃を受け続けた結果が体力の大きな消耗だった。これが続いて行く中で俺の意識が薄くなって気を失う寸前に追い込まれた。そこで俺は咄嗟に術式を発動させる。
「くそぉ!」
ぼわぁぁぁ!
掌から炎が放出された。しかし、それを容易く避けて一気に攻め込まれる状況に陥らされてトドメの一撃を受ける。それは渾身の威力が込められた殴打で思いっきり顔面を打った。
「――うっ」
(――もう駄目だ……)
俺は一気に気を失った。そこで死を覚悟することも出来ないで視界が暗くなって意識は閉ざされた。
そして真っ暗闇の中で意識が戻った。そこに何でいるのか分からない状態でしばらく考えていた時にどこからか声が聞こえる。
『――おい! 大丈夫か!』
すると、急に差し込んだ光と共に俺が置かれている状況が理解できる瞬間に切り開いた。
「――んぅ? こ、ここは……?」
「良かったぁ! 無事に意識が戻ったぁ!」
「た、高茂……? 何でお前が……?」
「何って応援要請を受けて到着した時に殺され掛けてたんだよ! そこで咄嗟に俺の術式で間一髪を逃れて無線を受けた八人の術師が同時に駆け付けたことを知った不正術師は尻尾を巻いて逃げて行ったんだ!」
「――ま、まさか助かったのか?」
「あぁ!」
聞いた話によると俺は気を失った状態で殺される寸前に追い込まれていた時に到着した術師の数で難を逃れたらしい。六人で後を追ったけれど、尋常じゃない速度で逃げられて最終的に見失う結果に至って現在は捜査中だと話してくれた。
どうやら病院に搬送された俺は無事に一面を取り止めて意識が戻ったところに高茂の姿があったと言う。つまり、応援要請に応じた術師がいなかったら俺の死は逃れられなかったと高茂は発言する。それを聞いて俺が抱いた安心感は心に余裕を持たせる。しかし、身体中が痛くて数箇所が骨折している状態で搬送されて治療を受けた後だった。立て続けに起きた戦闘で魔力も極限まで減っていた俺の状態は非常に良くないと診断結果が出ている。それでもしばらくは安静にしていればすぐに退院できると後で医師に伝えられる。
その後になって退院が決まった日を迎える。すでに東京まで送り届ける移動手段は伝えられた上で本来の家に帰ることになった。
「これまでありがとう! 凄く良い三週間だったぜ!」
「俺もそう思う。以前は駆け付けてくれるタイミングが遅かったら死んでいたかも知れない。お前に助けられて今後も人生が送れることに安心した」
「じゃあ、向こうに戻っても頑張れよ?」
「ここで別れても連絡ならいつでも待ってるぜ」
そうやって最後に握手して別れた。この瞬間はいつか訪れるんだと分かっていたのだが、それはこんなにも早く迎える日が来るなんて思わなかった。しかし、お互いに目標を追って術師をやって行くことは変わらない点で今後はさらに頑張る姿勢を見せたいと告げてから去った。
そして東京に着いた瞬間に冷子が迎えてくれた。冷子は凄く寂しかった三週間だと告げる表情に歓喜が窺える様子を見せた。俺もしばらく会えなかった日々が終わって以前と同じ関係が再び始まる感覚に何だか照れ臭かった。
そんな風に戻った後の生活が始まって一ヵ月後の夜に悲惨な連絡があった。
「ごめん。俺、戦えなくなった——」