第二話「九州で活動開始」
俺の持つ術式は【焼却】と呼称されている。掌から生じた炎を放出または拳に纏わせるの二種類が扱える。主に俺がこの術式を扱う際は放出して焼き尽くす場合が多い。時に拳が炎を纏って殴る手段にも出られることから遠距離と近距離の両方に持ち込めてしまう。偶に至近距離から炎の放出で焼き払う時も存在しているが故に魔獣の殆どが灰になって消滅する末路を辿っていた。火力は魔力出量で調整が出来る点が少し強力とも言える。普段から魔力の増量を心掛けて火力の底上げに徹して戦闘を有利に進めるように努めていた。
実際に目前で立ちはだかった高茂も同じ【炎】を駆使した術式みたいだが、その効果が少しばかり気になって尋ねて置いた。
「俺は炎を発生させて自在に操る術式になる。どんな炎でも操作が出来るからお前の術式は効かない。どうや? 参ったか!」
「実際に術式で不利が強いられても、身体能力を通して応じる策は事前に身に付けている。それに直に触れた状態で炎が放出される場合は阻止できるのか?」
「――なっ⁉ 直で放出した炎はさすがに無理だろ⁉ その手があったのかぁ⁉」
「単純に考え過ぎだ。触れられた時に炎の放出する方向を外側に向ける意識で逸らすことで防げる。しかし、背後に回って来た場合だと意識が向けられないが故に炎は防げない」
「なるほど……。さすが熟練した二級術師は格が違うな……」
そこで頭を下げて暗い表情を浮かべた高茂は落ち込んだような様子を窺わせるが、俺が隣を横切ってスーパーに行こうと歩み始めた。すると、その一瞬で過ぎて行った俺の腕を掴んで止めた。
「待ってくれ! どこに行くんだ?」
「スーパーだ。買い物に行く」
「俺も連れて行ってくれ! お勧めの料理なんかも教えてやる! 滞在する期間中ぐらいは一緒に行動を取らないか?」
「あ? 別に構わないけど」
「マジか!? ありがとう! ちなみに俺は今年で十九歳を迎える予定が三ヵ月後にある。よろしく!」
「こちらこそ。滞在期間は約三週間。短いけどよろしくな!」
(急に誕生日を明かして来たけど、そこまで興味が湧くような話でもないな。聞いてもないことは言わなくて良いって話だ)
そんな感じで知り合った術師でもある高茂と今後は共に行動することが決まって目
的地に向かう時も隣を歩いて付いて来た。
スーパーまでの道のりは見た感じですぐに分かったので、細かい案内は大していらないで済んだ。スーパーの中は広くて涼しいエアコンが効いているような空間であることが分かる。そんな空間に広がる商品を片っ端から見て行く中で高茂のアドバイスを聞いて購入するものをカゴに入れる。
そして買い物が終わった後で宿舎に戻ると、室内まで踏み入った高茂が飯の支度を任せて欲しいと懇願した。どんな料理が出来るのか試してみようと思って任せることにした俺はくつろぎながら完成を待った。
「出来たぞ! これが俺の特製醤油ラーメンだ!」
「ほう? 本格的に具が盛ってあるな? それじゃあいただきます」
そんな風に俺は挨拶してから高茂の作ったラーメンを食べた。その味は凄く美味しくてゆで加減も上等だと評価できるぐらいに仕上がっていた点がまさに任せて良かったと思わされたところだった。高茂に食べてみた本音を告げると、安心した笑みを浮かべて態勢を崩す。
完食した後の食器は自分で洗って今後はどう言った活動に励んで行くのかを纏められた情報としてスマホに送られて来た内容をチェックする。それは上層部の方で決定した事項が乗せられていたので、高茂も一緒に確認して今後の活動方針を頭に入れた。
「へぇ? 任務は別々になっちまうけど、取り敢えずプライベートは一緒に行動するので良いな? 担当区域が俺の普段から立ち寄っている場所と反対方向に指定されていた時点で任務の共同は叶わないだろう」
「しょうがないぜ。しかし、緊急時の応援要請の際は駆け付ける範囲に含まれているから助けが必要なら可能である限りは来てやる! 任せとけ!」
「緊急時なんて滅多にないだろ。三週間の期間中で応援要請が出る時はかなり手強い事件に違いない。お前に手伝えるのか?」
「まぁ、とにかくやって見ないと分からない」
(あまり頼らない方が良いな? もし、応援要請に頼るレベルの事件に遭遇することがあっても、なるべく一人で片付けられないと高茂に負えなかった時の被害は拡大が予測される。そこを考慮すると応援要請は頼れない)
冷静に考えてみれば分かることである。やはり、自分よりも実力が下回った人材に助けられるなんて思えないと判断して頼らないようにしようと内心で密かに考えた。実際に高茂は応援要請の件を助っ人として捉えているようだが、本来は十分に思える人材が来てくれることが望ましい。やはり、高茂だと最近になってようやく二級に上がれたと言う実力で加えて年下である点がどうも不足の予感を抱かせる理由だった。もし、高茂が駆け付けても戦況は変わらないなら、応援要請を頼らなくても問題が生じない任務であることを願うしかなかった。
そして九州の術師はどこで術式を自由に扱える場所の提供サービスを受けられるのかを聞いてみた。いわゆる【修行場】と言う奴だ。その点を知れる機会に高茂を頼る分は問題なかった。彼の存在が大きく時間の短縮に繋がった点は感謝して置く必要性を有すると思って取り敢えず後で何か奢ろうと考えた。
聞いた話だと近所に修行場を提供してくれる施設があることを教えてもらって即座に行って鍛えようと行動に出た。九州に来た理由は主に準一級術師に上がるための経験を積んで強くなることが挙げられる。それなら修行は怠らない方が自身の強化に繋がることは間違いないと考えていた。実際の術師は個人で修行して高めることが多い職業だと師匠からも教わっている。それを踏まえた上で教えてもらった場所に向かう。
「ここからは一人が良いんだ。悪いけど一緒に修行するつもりはない」
「え⁉︎ そんなんでどうすんだよ!」
「術式の強度を上げる修行に複数の人間はいらない。大抵は自動操作人形を相手に術式を使って行った方が効率が良い。それはお前だって教わっているはずだ。分かったなら着いて来ないでくれ」
「分かったよ。ま、俺も修行は一人でする奴が多いことは知っていたからな。そこまで驚くことでもないだろう。じゃ、またな!」
「あぁ」
そんな感じで俺は単独で修行を開始した。正直に言うと高茂の術式は俺の邪魔になる可能性が高い点が同行させたくない理由だった。しかし、大体の攻略なら以前にも話した方法が通じるだろう。それすらも攻略する手段は教えてしまったが、実際に高背後を取って瞬時に術師が発動させられた場合は確実に殺せると断言が出来る。そこまで思考が回らない術師は大抵が死亡率が高くなる奴だと言える。だから、俺はどんな術式でも弱点を探るコツだけはさらに磨いて置くことに徹して活かすのだった。
そして修行が終わって宿舎に帰って来た。この段階で高茂に出くわしたくないと何となく思う気持ちが内心にあった。少し対応することが面倒に思えて仕方がない点が会いたくない理由の一つに挙げられる。
俺は周囲の気を配りながら自室まで足を運ぶと遭遇することなく帰れた。
次の日。俺が早く時間帯に起床して週間でもあるランニングに出掛ける。これは持久力を付けて長期戦に備える意味合いを持って実施していた。俺の肉体は一般の術師よりも強靭だと師匠から評価を受けている。それは日頃の努力が身になっている点が強く言える理由だと話は聞いていた。だから、その努力がさらに実るようにトレーニングは欠かさない習慣を付けて来たのだ。
すると、ランニングの途中でスマホに上層部から連絡が入る。それは任務を受けて欲しいと言った内容で九州を訪れてから初めて受ける仕事だった。もちろん断る気はなくて指定された住所に向かうように指示が出た。
(今回は魔獣の討伐か? 相手は四級の中だと強い方の魔獣らしいな? しかし、階級が二個も下に位置するなら大して強くもない)
しかし、そこで問題視する必要がある点は目的の魔獣に釣られて自分の階級を超えた奴が追加されるかも知れないことだった。やはり、基本は魔獣の出現は術師が召喚術で呼び出した時だと相場が決まっていた。つまり、その術師の都合でさらに魔獣が加えられる心配があった。
「これが目的の魔獣だな? どう見ても雑魚にしか見えない。早めに片付けて帰ろう」
俺は遠距離から術式の発動を試みる。掌に意識を向けて魔力が注がれると炎が一気に放出される。その炎は魔獣を燃やし尽くして最終的に灰になって消えた。この程度は大した任務でもないように感じた内容だと身を以て分かった。この程度が常に相手なら修行の意味がなくて楽に終わるだろうと思考が生じる。しかし、そんな話が実現するなら階級なんて付ける必要がないことも考えられる点だった。
そして帰還して宿舎に戻った後で高茂は自室の前で待っていた。どうやら帰って来るところをずっと待機していたような一言が告げられた時から少し嫌悪感を抱いた。やはり、そこまでして関わりたいと思った訳でもない人間に待ち伏せされるなんてしつこいとしか感じなかった点が理由だった。
「何だ? どうやら待っていたようだな?」
「お? 帰って来た。さっき協会の方に連絡した時に任務の遂行に出掛けたって聞いて待たせてもらっていたんだよ。それで任務はどうだった?」
「そこまで大した相手じゃなかった。そもそも階級の低い魔獣ではそんなに時間を掛ける必要もないと判断できたしな」
「やっぱそうでなくちゃ!」
(期待に添えた活躍が知れてそんなに嬉しかったか? そこまで俺は嬉しくないんだけどな。やっぱ当たり前を通して褒められても実感が湧かない。実際にこいつは任務がこなしているほどの活躍を報告できるのかも分からない。いや、知らなくて良いに決まっている。そんな興味のない話は聞いていて飽きる)
俺は取り敢えず部屋に戻るための口実を作って別れる策に出た。やはり、興味が湧かない奴を相手に会話を交わすことは時間の無駄にしか思えなかったからだ。口実があるならきっと通してくれると信じて高茂に一言だけ告げた。
「今日は疲れたんで帰って寝る。そこを退いてくれないか?」
「え? あー、それじゃあしょうがないよな……。仕方がないから今度は話せる時間が出来ると良いぜ! ゆっくり休んでくれよな!」
「おう」
(こんな奴が相手に回っても嬉しくねえ。早く部屋の中に入って飯でも食おう)
そうやって俺が別れる口実に引っ掛かった高茂を抜いて部屋を目指した。高茂は俺の後ろ姿を見送って以後の時間は干渉しないで済ませた。高茂に時間が取られることなんてあって堪るほどに我慢をする行為は無駄である。だから、ここは早めに高茂の下を去って自分の時間に徹した。それが今後に大きく関係する点だと考えて行動に出た。