第44話 魔人②
扉を開けているユウリの横をオペラが通り反射的に彼女の腕を掴む。
「危ないから行くな」
「騎士を呼びに行った友達がいるんです。探しに行かないと」
「俺達が探しに行くからここにいろ。体の怪我だって治ってないんだから」
「嫌です。私は探しに行きます」
止めるユウリの言葉を無視し外に出てオーリー、テオス、カルーアを探しに出る。
彼女に気づいた魔人は獲物を見つけた肉食動物のように迫る。
「そんなに急いで誰か探してるのか?」
「退いてください。貴方と話してる時間はないんです」
「怒るなよ。少し相手してくれるだけでいいから…さっ!」
強風が吹き服が揺れる。
「魔人なってまでどうして私を狙うんですか。私が何かしたんですか?」
「それはお前が強いからだ」
「言ってる意味が分かりません。仮に私が強くて狙っているのでしたら間違いです。私よりもリンちゃんやベールちゃんの方がずっと強いです」
「あの2人の子供の事を言ってるのか?もう強いのは認めるが興味がない」
自分には興味があるかのような言葉を口にする魔人。これが魔人ではなく異性や気になる人から聞けたらよかったのに。
「話してる時間も勿体ない。始めるか」
魔人は私の返答を聞かずに突っ込んでくる。戦える程の魔力と体力はなく逃げるしかない。
「走ってどこにいくんだ?」
前方に竜巻が立ち塞がる。横の細い道を見つけて走るが風に塞がれる。突破しようにも風が強く渦巻いているためそのまま入れない。魔法で弱めようにも風を弱める程の魔法を使う魔力がない。
立ちすくんでいると魔人が近づいてくる。
「これでどこにも行けない。さぁやるぞ。もう一度全力で殺し合おう」
「それなら私が代わるよ」
風の壁に穴が空きそこからグリシャが入ってくる。
「お前は誰だ」
「私は帝国軍総帥グリシャ・アリーセ・ヴィクセン」
「代わってあげると言ったがどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。この子の代わりに私が相手をしてあげる」
「帝国軍だの総帥だの知らんが強いのか?弱い奴と戦うなんてゴメンだ」
「私は強いよ、この子よりもね。証明する為にこの壁を消してあげる」
グリシャは竜巻の壁に向かって剣を振るい衝撃波を飛ばす。飛ばされた衝撃波は道を塞いでいた竜巻を縦に真っ二つに切断し壁を消す。
「どう?強い事が証明できた?」
分かっていると思うが道を塞いで竜巻はそう簡単に消せるものではない。
まず魔法を消すにはそれと同じ威力のものをぶつけなければならない。その魔法に込められた魔力やその魔法の威力によって打ち消すのに必要な魔力や威力は変化する。
道を塞いでいた壁は、竜巻というのも低い魔力で使える魔法では打ち消せない。加えて魔人の魔力も合わさっているので同等の魔力も必要になるはずなのだが、グリシャはただの衝撃波で壁を消した。
魔人はその理屈を知ってはいないが壁を消された事で彼女を強者と認識する。
「黙ってないで何か言ったらどう?証明できてないならもう1つの壁も消してあげようようか?」
「いやしなくていい。さっきのでお前が強いと分かった。お前とも戦ってみたくなった」
「それはよかった。その前に…」
グリシャはオペラに近寄る。
「グリシャさん」
「ここに来る途中で3人子供を見つけた。その子達には屋敷に来るように言ってある。友達かどうか確かめて」
そう伝えると彼女の屋敷へ転移させる。
「子供はどこにやった?」
「戦いの邪魔になるから別の場所に転移させた。戦わない人が近くにいるの気になっちゃうでしょ?」
「そうか?俺は気にしない。してもすぐに殺すからな」
「そうさせない為に転移させたって言うのもあるんだけどね」
剣を魔人に向けて構える。魔人も構えを取る。
「好きなタイミングで来なよ」
グリシャが言葉を言い終わると強風が吹き、思わず下に向けてしまう。顔を上げると魔人は視界にはいない。
上から気配を感じ剣の刀身を光の刃に変え振るう。刃を踏み台にして後ろに飛び躱し、空中で飛び回転したと思うとかかと落としする。
剣で足を受け止め押し返す。魔力弾で追撃するが魔人も魔力弾を放つ。
「風の魔法だけじゃなくて魔力弾も使えるんだ。魔人に成ったばかりなのに精度も悪くない。これ以上強くなる前に殺さないとマズイね」
「それは嫌だな。まだまだ戦いたいんだ。そっちも本気できてよ。じゃないとまた人間を殺す」
グリシャの目の前から魔人が消えるとすぐに現れた。人の首を持って。
「こんな風にな」
「人を襲ってた理由はそういう事なのね」
「他にもある。弱い人間でも誰かが死ぬのを見たり傷つくのを見ると強くなる。強い奴の目の前で同じ事をすればさらに強くなって戦う俺も楽しめる」
銃口に魔力を集め魔力弾を擊つ。
「それ似たものを何回も見たから飽きた」
抵抗もせずに魔力弾を体で受け止める。
「無傷かー、結構魔力使ったんだけど。いくら何でも硬すぎじゃない?」
「体感だが魔人に成る前の方が硬かったぞ。そしてそれを破ったあの子供とはもう一度戦いたい」
「無理じゃないかな。あんたはここで倒されるし」
「満足して死ねるなら本望だ」
回転する刃をついた風の玉を投げる。玉は壁や地面に斬られた跡と抉られた跡をつけながら跳ね返る。
「道の真ん中で面倒な技使ってくんな」
不規則に跳ね返る玉を剣で斬り走る。風が邪魔するが壁を走り魔法で作った足場を走る。
「風を避けるために壁を走ってるのか。すごいな。でも壁がなかったらどうする?」
掌から風の渦を放つ。竜巻のような威力を持った渦は壁や足場を破壊していく。
足場が崩れ下に落ちるグリシャ。しかし次の瞬間、落ちてくる瓦礫を蹴りなが上がるとバク宙し着地し、瓦礫に風刃で小さくするとそれを弾丸として放ち、風刃も魔人に向かっていく。
魔人はため息をつき風圧で瓦礫、風刃を消してしまう。
「お前らさ遠くからちまちま攻撃するのが好きなのか?俺はもっとドンパチやりたいんだよ」
「狭いから思うように戦えないの。こっちだってやりずらい中戦ってんだから」
「じゃあ戦いやすいようにしてやるよ」
遠くで風の音が聞こえる。また強風を起こしたのかと思ったが違った。音が全然違うし引き寄せられる感覚を覚えた。まるで竜巻のような…1つではなく、周りから風を感じる。
次の瞬間、無数の竜巻が発生した。
「竜巻?!しかも無数の竜巻が同時に」
竜巻は建物を破壊しながら進み消える。周囲にあった建物は全て瓦礫と化した。
「これでやりやすくなっただろ?」
「えぇそうね」
耳に付けたイヤホンからザザっと雑音が鳴りユウリの声が聞こえる。
「総帥、さっき発生した竜巻で王都の中心部が壊滅、建物の倒壊で進路が塞がれ避難が遅れてます。避難所もいくつか被害を受けてしまいました」
「ごめんちょっと待って何であんたそんな事知ってるの?出る前に命令したよね?ここで子供とその屋敷の人を守れって」
通信機から発砲音が聞こえる。
「魔物が街に入ってきて騎士だけだとキツい思って俺とマリーが外に出てます」
「連絡しないさいよ。それで魔物はどうなったの?」
「侵入した魔物は倒しましたが、竜巻のせいで壁にも被害がでて大量の魔物が入ってきました。門付近の魔物は騎士の死体を食ってます」
「死体に引き寄せれてきたのね」
「餌を見つけられなかった魔物は街中を探し回ってます。言ってるそばから来た。魔物を片付けたらそっちに行きます」
話を続けようとしたが通信を切られてしまう。
「まだ話しの途中だったのに」
「何やら大変な様子だな?」
「誰のせいだとだろうね?」
それにしても元が変異種の魔物とはいえ、短期間でここまでの事ができる魔人は少ない。人間でも何か特別な才能や能力を持って生まれくる者がいるけどこいつもそうなのかもしれない。だとすると魔法以外にもまだ何か隠している可能性がある。勿論あるも決まった訳じゃないが急がなければならない。
魔人は風の渦、風刃、風圧と魔法を次々と放ちグリシャに攻撃する隙を与えない。
「近づけない。だったらここから斬る」
「距離足りないだろ」
剣に魔力を集め光の刃を形成する。刃は剣と言えない長さをしている。
「絶対剣じゃないだろ、それ」
「剣だよ?」
光の刃の剣を振るう。風の渦を切り裂き魔人に刃が届く。
魔人の体から血が吹き出す。
「ははは」
両腕を広げ、顔を上に上げ笑い始める。
「血出てるのに何笑ってんの。気持ち悪いよ」
「やっぱ戦いはこうじゃないと楽しくない。互いに全力を出し血を出しながら相手に勝利する。これが俺の求めているもの」
「私血なんて出してないけど」
「腕を見てみろ」
自分の腕を見ると確かに薄い切り傷から血が出ていた。
「風の渦を切られた後風刃を使ったのね」
「それとこの傷も俺の再生能力ならすぐに治る」
出血は止まり傷口も塞がっていく。
「人間だったら致命傷になってもおかしくないんだけど。殺すには間髪入れずに致命傷の攻撃を与えないといけない。面倒だなー (小声)」
「複製」
1つだった魔道具が2つに増え二刀流になる。
「剣が増えた?」
「凄い久しぶりだよ。これを2つ使うの」
「まだ全力じゃなかったのか」
「全力だったよ?これは単純に忘れてただけ」
敵でありながら思わず心配になる。
「ここからはもっと楽しめるよ」
「その言葉期待していいんだな?」
魔人は彼女の言葉に期待を募らせ目を輝かせる。
グリシャの魔道具は剣です。覚えてない方もいるかもしれないのでここに追記しておきます。




