第20話 魔物が寮に(3/24修正)
ユウリとレイスが会話していた同時刻、寮の中庭でリン、ベール、オペラの3人はもうすぐ行われる魔法の実技試験に向けて練習していた。
「オペラちゃんって何の魔法が得意なの?」
「水魔法かな。どの魔法よりも扱い安いし色々と応用がきくし。リンちゃんは得意な魔法とかはあるの?」
「あたしは炎魔法以外ならそれなりに扱えるよ」
炎魔法だけはやっぱり出来ないんだよね。火球すら出来ないし。
「えぇ凄い。ちなみにベールちゃんは?」
「あたしはそもそも魔法をあまり使わないから分からないわ」
「確かに授業の時も全然魔法を使ってなかったよね」
「あたしは魔法より剣や銃の扱いの方が得意なの」
ベールは学園でトップレベルで武器の扱いが上手く以前街で魔物が現れたときもその実力で自分の身を守りながら他の生徒などを助けていた。
オペラも1年生の中では魔法の扱いでは上位の実力を持っていて勉学も優秀である。
ボクは教師に「勉学・実技両方優秀らしいが加減をできるようにしようね」と言われてしまった。
「リンさんもし使えない魔法があるなら魔道具を使っているのはどうです?」
魔道具とは魔法が使えない人や魔法が苦手な人が魔法を使えるようにする道具。基本的には杖の形が主流だが人によっては手袋や手持ち武器だったりもする。
魔道具には魔石と呼ばれる石が使われていて、使われている魔石によってその魔道具で使える魔法が決まる。
例えば赤色の魔石だったら炎魔法、青色の魔石だったら水魔法となる。
ちなみに魔道具を考案したのはかつて帝国中央学園に通っていた1人の学生である。
「魔道具も考えたけど別にいいかな。杖は長くて嫌だし杖以外ならオーダーメイドしないといけないし」
「オーダーメイドすると高いもんね」
「出来ないものは出来ないで諦めて出来ることを伸ばすようにする」
「なるほどいい考えだと思いますよ。ですが簡単な魔法ぐらいは使えるようになるといいですね」
「うん…まぁそうだね」
「お話はこれくらいにして練習を再開しよう」
「あっそこの3人」
寮の2階の窓からカリンが3人に声をかける。
「カリンちゃんどうしたのー」
「寮長がそろそろ中に戻ってだって」
中庭にある時計をみると9時を示していた。
「練習してたらもうこんなに時間になってたのね。2人とも中に戻りましょう」
「おっけー、リンちゃんも戻ろう」
「もう少し練習したかったけどしょうがないね」
寮に戻ると共同リビングで他の生徒達がトランプでポーカーをしていた。
「皆いい?せーの!」
黒髪の子が合図をするとその子とその周りにいた子が手札を見せる。
結果は合図を出した子からフルハウス、フラッシュ、ストレート、フォーカードを出した。
「あーまた負けたメイ強いー」
黒髪の子はジタバタして悔しがる。
「佳奈惜しかったねー」
「メイこれで26連勝でしょ?強すぎぃ」
「佳奈は1回勝ててないね。アリッサムとアザリスは2回勝ってるのに」
ジタバタする佳奈を暖かい目で見守る3人。メイはリン達がいることに気づく。
「リンちゃん達もポーカーやってみる?」
「あたしやりたーい」
「あたしもやりたいです」
2人はやる気に満ちていてアリッサムとアザリスと交代した。
「リンちゃんはどうする?」
「疲れたからもう寝るしいいかな」
「寝るの早いね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
寝る前に挨拶をしボクは部屋に戻り布団の中に入った。
「ねー早くやろー」
オペラはトランプで遊びたくてウズウズしているようだ。
「はいはい慌てないで」
メイはオペラを宥めた後にカードを配りポーカーを始めた。
それから数分後
「あーまた負けたー」
佳奈は27回目の敗北した。
悔しさのあまり右手を丸め、床をドンドンと叩く。
「佳奈あんまり大きな音出さないで。もう寝てる人もいるし、他の人に迷惑かけちゃうから」
突然寮全体が揺れる。
「えっなに」
「佳奈が床を叩いたから寮が揺れたのかも」
「私そんなに力ないよ。リンちゃんじゃないんだから」
「でも気に少し気になりますね。見に行ってくるので3人はここにいてください」
ベールは寮の1階の様々な部屋をみる。
「これといったものは特にないですね。」
リビングに戻ろうとすると先程よりも大きく揺れる。
「さっきより大きいですね。それとなにやら騒がしい気もします」
リビングに戻ると足に怪我をし動けないメイ、オペラが昆虫の魔物と戦っていてすぐ近くに負傷した佳奈がいた。
「メイちゃん、私がこいつを引きつけるから佳奈ちゃんに回復をお願い」
『回復』
メイは怪我をしてる佳奈の近くにより回復魔法をかける。佳奈の足の傷が少しずつ塞がり出血も収まっていく。
私は1人で戦うオペラの元に駆け寄って援護をする。
「ベールちゃん?!」
「オペラさん、状況を詳しく教えてください」
彼女は私が離れた後、突然中庭に昆虫型の魔物が現れてリビングにいた3人を襲ったことを教えてくれた。
『凍結』
オペラは右手を突き出し魔法を使う。魔物の体は徐々に凍っていき瞬く間に全体が氷に覆われてしまった。
『落石』
魔物の頭上に現れた岩が落下し凍った魔物の体を粉砕する。
「これで大丈夫だよね」
安堵する私たちの元に佳奈とメイが駆け寄る。
「2人とも大丈夫?」
「どちらも怪我をしてませんから大丈夫ですよ。佳奈さんの方こそ大丈夫ですか?」
「足の傷ならメイのおかげでこの通り」
傷一つない足を私たちに見せる。
「傷治って良かったです」
「それにしても何で魔物が現れたんだろ」
「先程といい、この前のといい何か嫌な事の前触れじゃなゃいいけどね」
4人が話をしていると男子寮の方向からとてつもなく大きな音がした。
「今の音何?!」
「様子を見に行きましょう」
「待って」
オペラは走る私を呼び止める。
「私寝てる人の様子をみてくる。もしかしたらその子たちも被害を受けてるかもしれないし」
「私も残ります。オペラちゃん1人だと危ないから」
「分かりました。オペラさんと佳奈さんは他の子たちをお願いします。メイさん行きましょう」
私とメイは2人に他の人のことを任せて男子寮に向かう。
「クッソ何だよこいつ」
「僕たちの魔法が全然効かない…」
悔しがる生徒たちの目の前には脱走した実験体の内の1体がいた。
その体は虫のような外殻に覆われしっぽも生えていた。
『雷柱』
雷が柱のようにまっすぐと魔物の体を貫き煙が巻き起こる。
煙が晴れると魔物が無傷のまま立っていた。
「無傷?!嘘でしょ」
「驚いてる場合か!逃げるぞ!」
ゆらゆらと体を動かすと一瞬で近づき1人を尻尾で吹き飛ばし、もう1人を足で蹴り飛ばす。
「ガッ」
蹴られた生徒は衝撃で吐血する。体をふらつかせながら起き上がり魔法を放つ。
『炎の矢』
炎の矢が外殻にあたるが効果はなく、魔物はゆっくりと近寄る。
尻尾が彼を貫こうとしたその時、ベールとメイが駆けつけた。
『竜巻』
『光り輝く剣』
竜巻が動きを封じ光り輝く剣が魔物の尻尾を切断する。
尻尾を切断された魔物は怒りをあらわにし突撃する。
「2人とも逃げて。ここは僕が何とかします」
「貴方は無理せず休んでください。メイさん回復魔法をお願いします」
私は腰にかけていた剣を突撃してくる魔物に向けて構える。
〈身体強化:腕力〉
『炎刃斬』
炎を纏った剣が魔物の硬い外殻を破り核を切り裂く。
魔物は傷口に手を置き苦しみ悶え静かに眠った。
「あの硬い皮膚をどうやって」
「さっき魔法を放った時に物理攻撃の方が有効だと思ったから身体強化魔法で腕力を強化して剣に炎魔法を乗せて核を切ったの」
魔物には核というものがある。人間の心臓のようなもの。核に大きな傷を負ったり失ったりするとどんなに強い魔物であろうと確実に死ぬ。
「傷治りましたよ」
「傷の回復までありがとうございます」
「あの聞きたいことがあるのですがこの方は貴方のお友達ですか?ここに来る途中に助けて後怪我をしていたので回復をかけておきました」
ベールは先程吹き飛ばされた男子生徒を見せる。
「こいつは僕の友達です。2人であいつと戦ってる時に吹き飛ばされてしまったんです」
「それで空を飛んでいたんですね。怪我も軽いものでしたので大事に至らないと思います」
「僕と友達を助けてくれてありがとうございます」
「こんな時だからこそ互いに助け合って行かないと」
「メイそろそろ戻りましょう」
私は男子生徒と話すメイに寮に戻ろうと伝える。男子生徒は私たちに再度礼をした。
メイは念の為と言って魔物を近づけないように聖域を張り寮に戻った。
女子寮に戻った私たちはオペラ達を探す。
少し探した後に魔物が1匹もいない場所を見つける。その場所はリンの部屋110号室。
慎重に扉を開けると寝てるリンの他にカリンとネルがいた。
「なんだベールとメイかびっくりしたー」
カリンは平然としているがネルは体をブルブルと震わせていた。
部屋に入ったのが私たちだと分かるとネルの体は震えを止めた。
「驚かせてしまってすみません。あのオペラさんと佳奈さんをみかけませんでしたか?」
「見かけてないです。ごめんなさい」
「そもそもなんでここにいるの?魔物から隠れるだけなら自分たちの部屋でいい気もするけど」
彼女たちに話を聞こうとしたその時誰かが扉をノックする。
扉の外から「誰かいるの?」と問いかけてくる。しかしその声は人間のものではなかった。音を立てずにじっとしているとそれは扉を開け姿を見せる。
一瞬人のように見えたが耳は尖り舌は伸び爪は鋭く研ぎ澄まされていた。
「きゃー」
ネルは叫び声をあげる。その声を聞いた魔物は爪は彼女に向ける。
バンッと銃声が響き魔物が倒れる。銃声がした方向を見ると寝ていたリンが上半身を起こしていてその手にはマグナムが握られていた。
「寝てるんだから静かにしていくれない?」
そう話す彼女は冷たい目で私たちを見つめていた。