03. レーグル家の子供たち
「ふぅ、こんなものね」
ーーーその日の、魔物狩りの成果は上々であった。
魔物の死体が積み上げられた荷車を見つめ、その亡骸を指定の場所に運ぶように使用人に命じる。
使用人が荷車を引くのを見つめながら、帰路につく。
これだけの成果があれば、次の査定でお父様に目を付けられることはないだろう。
それに、次の成績発表の際に話題に上がる子は間違いなく、、、
「お姉さま、さすがです」
「あら、まだまだ、こんなものじゃないわよ」
森から抜ける途中で、聞きなれた声に遭遇し、気配を消しながら横を通り過ぎる。
あの声は、、、シャーロットね。
魔物の屍の横で得意げになっている1つ上の姉と、その弟の姿を見つける。
お父様には複数の結婚相手がおり、彼女たちは4番目の妻の子供たちだ。
異母兄弟である呑気な2人の姿を見つめながら、自身の考えていたことを振り返る。
あの調子では、もう駄目ね。
最近になって、レーグル家の兄弟たちはその才能を開花させている。
現在トップである2番目のお兄様は、お父様に匹敵するほどの力になると噂されているし、魔法の開花時期といわれている17歳の誕生日をすでに迎えたお兄様たちはその頭角を現している。
けれど、17歳の誕生日を迎え1年ほど経つシャーロットはいまだに目覚ましい成果を上げることができていない。
シャーロット自身も、シャーロットに言いなりの弟も気づいてはいないが、家でのシャーロットの評価は地の底まで落ちている。
いま、シャーロットのそばに積み上げられている魔物は、希少価値もなければ生きていたところで害にもならない倒す価値がないものばかりで、どれだけの量を倒したても評価されることはない。
それに、シャーロットの弟であるアイザックはまだ15歳にして、その才能を現している。
アイザックの横に転がっている希少価値のある魔物の死体にちらりと目を向けながら、その場を離れる。
次の成績発表が、楽しみね。
先ほど使用人から、もうすでにお父様は国境を越え屋敷に向かっていると聞いた。
成績発表といわれる、家族全員が集まる食事会は予定よりも早く行われそうだ。それに、お兄様たちも帰ってきていると聞いている。
もしかしたら、今夜か明日にもその日は近いのかもしれない。
「お嬢様、時間です。」
森で狩りをした翌日、その日は訪れた。
会場である、ホールに向かう途中で、シャーロットの姿を見つける。
白のドレスに身を包み亡くなっている母親のティアラを頭にのせ、どこか緊張した様子の彼女の足取りには、いつものような自信過剰な姿は感じられず、恐怖すら感じる。
彼女も、どこかで気づいているのだろうか。自身が処刑台へと足を運んでいることを。
普段は、弱みを見せない彼女の意外な姿を目にし、やはりこの家が狂っていることを改めて思い出す。
いつも閉ざされているホールへとつながる扉が、今日は開いている。
先に入った彼女を追いかけるように、そのホールへと足を踏み入れた。
「オフィーリア様です。」
執事長の紹介とともに、自身の席へと足を運ぶ。
すでに兄弟たちはほとんどそろっており、あとはお父様と2番目のお兄様を待つだけだ。
向かいの席には、シャーロットが座っており、その震えは一層ひどくなっているように見える。
「お姉さま?」
姉の震える姿を目にしたアイザックがかけた言葉は、シャーロットには届かない。
ドンッ
「あいつは、まだ来ていないのか」
1番上の兄である、アルバートが声を荒げる。
指定された時刻になっても現れない、自身の弟にいら立っているのか、その拳をテーブルへと叩きつけた。
「旦那様がお見えになりました。」
張りつめていた空気に、一層の緊張が走る。
ギイイイィ
いつの間にか閉じていた扉が、執事の手で鈍い音を奏でて再び開かれる。
ーーーー「そろっているな」
久しぶりに聞いたはずの父親の声にもかかわらず、背中に冷や汗が流れる。
この空気は何度体験しても、慣れることはない。
それは、恐怖。
お父様が一歩踏み出すたびに、そこから魔素が立ちあがる。
押しつぶされそうな圧倒的な魔力とともに、お父様は姿を現した。
頭を下げながら、ちらりとお父様に付き添うようにして姿を現した2番目の兄の姿を確認する。
お兄様は、お父様と一緒に行動していたのね。
最近姿を見かけなかったのも、お父様の仕事に付き添っていたからだろう。