01. 悪女は夢を見る
はじめまして、白蓮花 ゆらん(はくれんか ゆらん)と申します。
これが初作品となります。つたない文章かとは思いますが、どうぞ楽しんでいただければ幸いです。
ーーーー夢を見た。
あたり一面銀世界の中を、幼い少女が1人で歩いている。
吹雪が鳴り響く中、寒さで真っ赤に腫れあがった手を握りしめながら少女は懸命に足を前へと動かす。
身に纏っているシルクのドレスも、とうの昔に脱げてしまった上品な靴もこの吹雪と積雪の前では何の役にも立たない。
周りには誰の姿もなく、喉から絞り出した助けを求める声も、吹雪にかき消された。
場面が変わる。
パチパチッ、と暖炉の中で薪が割れる音が響いた。
暖炉の前では、同い年くらいの少年と少女が1冊の本を囲んでいる。
本の中に描かれている幸せそうな家族の絵を見つめ、少女は悲しそうに呟いた。
「ねえ、レオ。お父様は迎えに来てくれるかしら。」
「大丈夫だよ、きっと迎えに来てくれるよ。」
少年の励ましの言葉を聞いても、少女の表情は晴れない。
「本当は、、、本当は、誰も迎えになんか来ないんじゃないかって思っているの。私がいなくても、誰も気にしない。」
少女の目から、ひとすじの涙がこぼれる。少年は慌てて、少女のほほに手を当て涙をぬぐい取った。
「もしも、リアの家族が誰もリアを迎えに来なかったら、僕が守ってあげる。僕がリアの家族になるよ。」
「…!!きっとよ、きっと守ってね。」
「そうしたらずっと一緒だよ。」
その微笑ましい様子を、遠くでは少年の両親が温かな目で見守っていた。
このときの少年の温もりは、彼女にとってはかけがえのない宝物だった。
再び、場面が変わる。
夜も深く、すっかり寝静まった少女の部屋の窓が、かたっとかすかな音とともに開く。
開いた窓からはいつの間にか黒装束の男が忍び込んでいた。
その闇はそっと少女へと近づく。
忍び寄るわずかな足音とともに、夢が絶望に染まる。
「お嬢様、時間です。」
「………っ!!」
はぁはぁと荒い呼吸とともに目が覚める。バクバクと激しく鼓動を奏でる胸に手を当て、オフィーリアは体を起こした。
(そうだ、これは夢だ。)
汗に濡れた額に手の甲を当て、辺りを見渡す。
黒を基調とした部屋の中に置かれた優美な家具と豪華な装飾品たちは、裕福さを物語っている。
その一方、朝にもかかわらず外は暗く、耳を澄ませても音は何も聞こえない。
無機質な物だけが価値を主張するこの空間は、まるで監獄のようだった。
(忘れなさいオフィーリア。あれは、夢だったのだから。)
先ほどの夢に思いをはせ、ぎゅっと瞼を閉じ、自身の体を抱きしめ、どこかであのぬくもりを求める自身の心を戒める。
時節見るこの夢は、温かく、幸せで、、、そして何度も私を苦しめる。
そっと瞼を開け、未練がましい自分を奮い立たせ、現実を見つめる。
ここは、魔の国ラウガーン。
大気中に溢れた魔素の影響で空は常に暗い雲に覆われ、日の光はめったに見ることができない。国土の大半は枯れた土地に覆われ、魔素を吸い込んだ生物が独自の進化を遂げ様々な魔物が住み着いている。
農業の発展こそ厳しかったものの、ラウガーンの歴史は魔法の発展が目覚ましく、そのおかげかこの国の人々は他国に比べ魔力が高い傾向にある。
そんな魔の国の中でも、魔法とともに暗殺の技術を磨いた一族がいた。
ラウガーン国筆頭貴族、レーグル公爵家。
レーグル家は闇に溶け込む漆黒の髪と、鮮血のような赤色の瞳を不気味に光らせる。その見た目と家業から畏怖の意味を込めて人々はこう呼ぶ、「死神の一族」と。
そんなレーグル公爵家の四女、オフィーリア・レーグル
それが私の名前であった。