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第8話 ゴブリンキングとマジックウェポン


 何度も響く乾いた炸裂音が、自衛隊の扱う銃だと気づいたのは、透とセラのいるコンビニに血まみれの住人数人が入って来てからだった。




「助けてください!! 娘が… 化け物に… 血が止まらないんです!」




 頭から血を流している女の子を抱きかかえながら店内に入ってきた母親らしき女性は、透に助けを求めてきた。

 助けを求められても透はタダの高校生なのだ…

 応急処置の仕方など知る訳もなく焦るが、そこにセラが透を押しのけて血まみれの女の子の前に立つと、腰に付けていたポーチの中から綺麗な小瓶を取り出して、中身の液体を女の子の頭から振り掛けた。


 その液体は淡い光を放ち傷口を癒していく。


 見る間に傷が塞がって女の子は目を覚ますのだった。




「あ、ありがとうございます!! えっと… エルフさん!?」




 母親はセラが日本人の姿をしていなかったからだろうか、すぐに耳が長い事に気づく。

 しかし、セラは日本語が分からないのでお礼を言われている事すらも解らず、真剣に女の子の様子を窺っていた。




「セラ… このお母さんがありがとうだってさ… それにしてもセラは凄いな…」


「そ、そんなに凄くなんてないんだから! ただのポーション使っただけじゃない! ポーションじゃ腕とか切り落とされた再生させられないんだから気をつけるんだぞ♪」




 お礼を言われ褒められたのがよほど嬉しかったのか、セラは顔を赤く染めながら女の子の頭を撫でる。




「ありがとう♪ キレイなお姉ちゃん」




 透が女の子もお礼を言ってるとセラに伝えると、何故か不思議な踊りをしながら喜ぶ姿を見せるのであった。


 そんなやり取りをしている間、コンビニの外では住人達を守っていた自衛隊員達は1人また1人と倒れていく。




「セラ! 踊ってないで外を見ろって! なんかヤバそうだぞ…」


「うん? あっ… 拙いわね… ホブゴブリンに、ジェネラルゴブリンまでいるわ!」


「それって強いのか?」


「まー、私ならなんとか出来ると思うけど… って!? ちょっと待って… あの奥にいるの… ゴブリンキング…!? あれは私1人じゃ無理… Sランクの冒険者が必要よ…」


「Sランクって… ちなみになんだけどさ… セラは何ランク?」


「Aランクよ! 何よ?悪い? Sランクなんてホントに、ごくわずかの一握りの強い人しかなれないんだからね!」




 そんな話しをしている中でも、外では自衛隊の人達が必死で戦いを繰り広げていた。

 自衛隊員の扱う小銃や狙撃銃では、ただのゴブリンは倒せても数が多い上にゴブリンジェネラルや、ゴブリンキングにはあまり効いている様には見えなかった。


 透は自衛隊員の戦闘を見守るしかできない自分に苛立ちを覚えるが、魔法もつかえないし武器など扱った事もないのだ。

 倒れた自衛隊員の銃を拾って応戦など、アニメや映画の世界だけだろう。


 その時、耳を劈く音が聞こえ、ゴブリンジェネラルの上半身が消し飛ぶ!


 キャタピラーの駆動音が勇ましい自衛隊の戦車が、此方に近づいてきて、次々に砲を放ちゴブリン共を粉微塵にしていくのだ。

 コンビニにいた住人達は歓声を上げて、これで助かったと安堵した時であった。


 3メートルはある大きな身体で戦車に近づき、砲弾を物ともせず片腕一本で弾き返していくゴブリンキングが、雄叫びを上げる。

 その振動でコンビニのガラスが割れ、店内が丸出しになってしまう。


 ゴブリンキングは戦車に体当たりをくらわすと、衝撃で戦車は宙を舞い弾き飛ばされ、大破して逆さまになったまま煙を上げていた。


 透や住人達は唖然とするなか、セラだけは状況を正しく判断して動き出す。

 店の外で転がっている倒れた自衛隊員の狙撃銃を拾い、傍にいた生き残っていた自衛隊員に何やら話している。




「おい、おい、こんな時にナニやってんだよ!? セラは…」




 セラの動きに気づいた透は、店外の自衛隊員とセラの下に向かう。




「いやー、すみません… この子が何やらご迷惑をおかけしたようで」


「君はこの子の知り合いか!? 危ないから銃を返せと伝えてくれ! 言葉が通じないんだ! それに、早く逃げろ!!」


「トオル! このマジックウエポンの使い方教えて! このマジックウエポンと私の魔法なら… もしかしたらゴブリンキングにダメージを与えられるかも…」




 セラは狙撃銃を手にしながら、透に尋ねてくる。




「マジックウエポンって… それ、魔法関係ない武器だし… 銃刀法違反になっちゃうから、早く返して逃げようぜ!」




 セラと言い合っている間に、ゴブリンキングはどんどんと近づいて来ており、隣りにいた自衛隊員は銃で応戦を始めた。




「ゴチャゴチャ言ってないで、早く銃を置いて逃げなさい!」




 隣りにいた自衛隊員の言葉に、透はその場を離れようとするが、セラは自衛隊員の真似をして、撃鉄を起こし、引き金を引いてしまう。


 狙撃銃の大きな炸裂音が響くが、弾丸はゴブリンキングには向かわず明後日の方向へ飛んで行ったのであろう…




「「何やってんの!?」」




 透と自衛隊員は、驚いてセラを見るが、何やらブツブツ独り言を言っている。




「なるほど… これを引くと何か硬い物が飛んでいくのね… 反動が凄いから風魔法で固定して… 魔力をここに流し込んでみれば…」




 そんな中でも、ゴブリンキングは嫌な笑みをしながら近づいてくるのだ。




「なんかヤバいって! セラ! 逃げるぞ!」 




 透はセラの腕を取り、その場から離れようとしたのだが、セラは透の腕を振りほどいて、狙撃銃を構える。


 セラの身体から何か淡い光の様な物が、狙撃銃に流れ込んで行く。


 透はその幻想的な光景に釘付けになってしまう。




「君達! 早く逃げるんだ! 何をボォーっとしてるんだよ!?」




 自衛隊員が声を荒げた瞬間、セラの持つ狙撃銃から爆音を轟かせて、何かが放出された。

 それはまるで、銃身から竜巻が放たれた様に見え、辺りの瓦礫などは吹っ飛んで行く。


 ゴブリンキングは、戦車の砲撃を弾いた様に片手で、それを迎え打とうとしたのだが、竜巻を纏った弾丸は、ゴブリンキングの腕ごと吹き飛ばしてしまった。




「・・・」


「ウソ~!? このマジックウェポン威力高過ぎよ!!」




 撃った本人のセラも驚きを隠せない。




「いや… その狙撃銃は… そんな威力ないと思うぜ…」




 透は隣りでポカーンとしている自衛隊員に話しかけてみた。




「あの… あの銃って… あんなに威力があるもんなんすか…?」


「えっ!? あんな威力ある訳ない… って! いやいや、君達、それ銃刀法違反だからね!? 何やってんの??」


「ほら、そこは緊急事態って事で… なんとか穏便に済ませて? とかはダメ?」




 自衛隊員と透が話し込んでいると、ゴブリンキングが失った腕を押さえながら、敵意剥き出しに吼えて走ってくる。




「2人とも! 戦闘中に何遊んでるのよ? バカなの? この国の兵隊は?」


  


 セラは狙撃銃を構えたまま走り出し、ゴブリンキングと接敵する瞬間、華麗に宙を舞ったのだ。

 物理的に…

 空を飛んだとも言う。




「なっ!?」




 自衛隊員は驚きの声を上げるが、透の目にはまるで妖精が踊っているかの様に見え、逃げるのも忘れ見入ってしまった。


 セラは空中で体勢を整え、ゴブリンキングに狙い澄ませ、次弾を撃つ。


 上空から放たれた、竜巻が宿った超音速の弾丸を、ゴブリンキングは肉切り包丁の形をした大剣で受け止めるが、その大剣を破壊して貫き、そのまま残っていた片腕も吹き飛ばしてしまった。


 大きな音を立てて転がり、片膝を付いてなんとか立ち上がろうとしているゴブリンキングの前に、セラがストンと着地する。




「これで終わりよ!!」




 セラはそう言い、引き金を引く。




「・・・」




 カシャ、カシャと何度も引き金を引いているが、弾はうんともすんとも言わない。




「えーと… どーしよー!? トオルー? このマジックウェポン壊しちゃったかも? テへ♪」


「テへ♪って、あざと可愛いから許すけど… 後でなんか面倒事になりそうな… 俺が言える事は捕まるなよ!」


「キ、キミタチ… あれ… まだ動いているんじゃないか…? 早く逃げろ! お嬢さん!」




自衛隊員の日本語が解らない、セラはキョトンとしてから、後ろから感じる、ゴブリンキングの殺気に振り向く。

 

 一瞬の気の緩み…

 少しどこか抜けているエルフの女の子。

 これがセラが、Sランクの冒険者になれない理由かもしれないな…


 そんな事を、セラに向かって走れ出していた透は考えていた。

 何の為?

 透自身もよく解ってやった行動ではないのだ。


 身体が勝手に動いたというのが、正しい。


 透はセラを突き飛ばす。




「えっ!? トオル!?」




 セラが見た物は、両腕を失ってもまだ、戦意を失わずに凄い形相で、透の肩口に噛みついているゴブリンキングの姿であった。




「っう、ぅぁあ"あ"あ”あ”ーー!?」




 大きな悲鳴を上げている透に噛み付き、肩口を大きく食い千切って肉を咀嚼するゴブリンキングだったが、何故か突然苦しみもがき出した。




「グッ、ギャギャギヤーー!?」




 透より大きな悲鳴を上げて転げ回る、ゴブリンキングの顔はボコボコと腐る様に膨らみ、一瞬で破裂していき、それは身体全体に広がり、遂には拳大の魔石と言われる物を残し、消滅してしまったのだ。


 茫然とするセラ。


 しかし、透はまだ声を上げて苦しんでいた。

 嚙み千切られ飛び散った大量の血液が、まるで生きているみたく透の傷口に集まり、気付くと傷痕は一切無くなっている。


「ぅわああーー・・・あれ? 痛くない? うん? 治っちゃった… テへ♪」


 透はベロを出して、あざと可愛いポーズをとるのだ。


「テヘ♪とか、キモ… この国の男… トオル、キモ…」


 戦いの終わった地には、セラの声だけが木霊したのだった。









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