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第6話 竜王 part1

 大昔、遥か彼方、そして今や誰もが忘れてしまった以前の時代、この星には神々が君臨し、その寵愛を受けて竜たちが空高く舞っていた。彼らは大地を奔放に駆け、雄大なる海を行き、風や水、火、そして大地の力を自在に操っていた。その美しき時代、竜たちはそれぞれの役割に従い、互いにその存在を誇った。


 竜たちは様々な色を持ち、その鱗は青い空を映し出し、緑の大地を湛え、赤い炎を語った。そしてそれぞれの色が、それぞれの力と役割を示していた。しかし、ある日、彼らの秩序はある一頭の竜の出現によって大きく揺らぐことになる。


 その新たに生まれた竜は、漆黒の鱗をまとい、まるで星々の合間に存在する夜そのもののようであった。黒い竜が生まれたという事実は、竜たちに大きな衝撃と戸惑いをもたらした。その存在は神秘的であり、未知なるものに対する恐れと好奇心を刺激した。


 竜族たちは黒き竜に「ナイト」という名を授け、彼を竜族の一員として迎え、慎重かつ大切に育てながら観察することに決めた。ナイトの到来は、新たな時代の始まりを告げる予兆のように思えたのかもしれない。その色が何を意味し、どのような力を表すのか、誰もが気になっていたのである。




 ナイトは仲間の竜たちと共に成長した。彼の漆黒の鱗はまるで夜の帳を思わせ、その中に特異な力が隠されているのではないかと噂された。しかし、幼少期のナイトは何の特徴も見せず、長老たちの不安と期待は時折入り混じった感情となって表れた。それでも、ナイトは周囲の暖かい眼差しに包まれ、一頭の竜としてのびのびと育っていった。


 時が流れるにつれ、ナイトは同年代の竜たちの間でその類稀なる才能を次第に開花させていった。雄々しく飛び回る彼の姿は、まるで黒い閃光のようだった。彼は大地を奔放に駆け、空を自由に駆け巡り、その力と速さで周囲の竜たちを魅了させた。


 ナイトはいつしか、自分が最強の竜であると信じ、無敵の存在であるかのように振る舞い始めた。自信に満ち溢れた彼の姿は、まるで何者にも縛られない自由奔放なものであった。しかし、その心の奥底には、他者とは違う自分自身の存在についての戸惑いや孤独が渦巻いていた。


 次第にナイトの自負心は、竜族の頂点である竜王の座を目指す挑戦心へと変わっていった。権力や名声ではなく、己の存在意義を問い求めるための道に挑むことを決意したのだ。彼は自らのできる限りを尽くしてその力を証明しようと、竜王への挑戦を真剣に考え始めたのだった。


 周囲の竜たちは、ナイトの強固な意志と勇気に感心しながらも、その無謀さに密かに胸を痛めた。ナイトの道は決して易しくなく、彼を待ち受ける試練は想像を超えるものであることを彼らは知っていたからだ。しかし、それでもナイトの意志は変わらずに、不動のままであった。




 ついにナイトは決意を胸に、竜王が住む聖域への道を進むことを選んだ。聖域は険しい山々に囲まれた神秘的な場所であり、そこに至る道は容易ではない。だが、野心に燃えるナイトは、数多くの竜王の臣下たちと対峙し、次々と打ち負かしていった。


 ナイトはそのたびに自らの力を見せつけ、己の力を証明することに躍起になっていた。己の強さと存在意義を再確認するため、また竜族全体にその力を認めさせるためだった。その姿は誰の目から見ても勇猛で、意気揚々としたものだった。


 彼は聖域の奥深くまでたどり着き、自分が竜王となり、この大地と空を支配する姿を夢見ていた。しかし、彼を待ち受けていたのは想像をはるかに超えた存在、銀色に輝く竜の王だった。


 その銀色の鱗に覆われた竜、竜王ケイロンの姿を目の当たりにしたとき、ナイトは何も考えられなくなった。自分より遥かに大きく、経験豊かで、何よりも全き威厳を持つ彼の姿に、ナイトは初めて恐れと共に畏敬の念を抱いた。その輝きに満ちた銀の竜には、言葉では言い表せない何かがあった。


「美しい……」


 ナイトの心に初めて芽生えた感情は、計り知れないものだった。力の追求の中で見失っていた何かを、彼はその瞬間に思い出したかのようだった。




 ケイロンは静かに、しかし威圧的でなくナイトを見つめ、柔らかに微笑んだ。そしてその口から紡がれた言葉は、ナイトの心の奥深くに届いた。「ナイトよ、君がここまでたどり着いたその強さを、そして勇気を讃えよう」と。


 その声は静かながらも深い響きで、ナイトの心に強く刻まれた。ナイトはその言葉を聞き、自分を超える存在が目前にあることを改めて悟った。その瞬間、彼は自分が何を求め、何を見つめるべきだったのか、何を手にしなければならなかったのかを初めて正確に理解したのだった。


「強さは力ではなく、自分自身の心にあるのだ」


というケイロンの言葉を彼は感じ取った。見かけの強さではなく、本当の意味での強さが何であるかを理解することこそが重要だったのだ。


 ケイロンは続けてなお優しく語りかけた。


「真の王とは己を理解し、他者を思いやることのできる者だ。この広き世界で、君が成すべきことはまだある」


 それはナイトにとって今までにはなかった挑戦であり、彼の中にある本当の使命だった。


 ナイトは自らの内なる力、そしてそれを活かすための光を見つけ、新たな決意のもとに旅路を再開することを決意した。その姿は、かつてのような傲慢を捨て去り、より深い成熟と決心に満ちていた。彼はその日以来、もはやただ強いだけの竜ではなく、他者を導くための存在となるべく心に誓ったのだ。


 彼の旅路は、星の海を駆け巡り、広大な空を渡る壮大なものだった。どこまでも続く青空の下、ナイトは様々な試練と出会い、そのたびに彼の心は研ぎ澄まされていく。彼は漆黒の翼を広げ、時には星々を相手に、時には海原を飛び越え、新しい知恵と力を身につけていった。


 その後、ナイトの物語は竜の間で、いや、さらに広がりゆく神々や人々の世界においても語り継がれることとなった。彼の存在、そしてその成長と変心の物語は、多くの者たちに勇気と智慧を与え続けた。


 やがて竜の時代が過ぎ、人種の台頭が始まった頃、ナイトという名の竜は伝説となり、その名は夜空に輝く星と共に、やがて来る者たちすべての心に刻まれることとなったのであった。姿なくとも、彼の魂は星々の光の一部と溶け合い、この世に輝き続けた。そしてその黒銀の輝きは、長きにわたり竜の間で語り継がれることとなり、神秘と希望の象徴として、多くの伝説を紡ぎ起こす礎となったのである。


 このようにして、漆黒の竜ナイトは、自らの力と知恵、そして他者への愛を内に抱きながら、この広大な世界を、そして次なる未来を旅し続ける不滅の存在として語られることとなったのであった。


 

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