第3話 エルフの矜持
「ふざけやがって… あの、クソドラゴン!」
最後に見たドラゴンへの愚痴を吐きながら透は目を覚ます。
既に周りは暗くなっており、夜の8時くらいだろうか。
周りを見回しながら、透は自分が気を失っていたことを理解し、家の惨状からあれが夢ではなかったのだと思いに耽ながら、ガシガシと右手で頭をかく…
「あれ…? 右手… ある?」
透は頭を掻いていた右手を目の前に戸惑い、もう1度周りをみわたした。
瓦礫がそこら辺に散らばり、住んでいた透の家の屋根は、どこかに吹っ飛び、柱と壁がかろうじてあるだけのあばら屋に変貌しているのだ。
あれは夢だったのか現実だったのか、はたまた自分は頭がおかしくなってしまったのか?
悩み込んでいると、気を失う前に聞いた、あのエルフのような女の子の声が聞こえてきた。
しかし、今度は話している内容が何故かすんなり理解できる。
「そこのアナタ、そんなに呆けていないで、ちょっとは竜王様に感謝したらどうなの? 竜王様に右腕を献上できた上に血まで頂けて再生できたんだから!」
「献上…? 再生…? って、オマエは誰だ!? あのクソドラゴンは何なんだよ!?」
透の返答に気を悪くしたのか、エルフの女性はスタスタと目の前までやってきて声を荒げた。
「レディーに向かって、オマエとは何よ! この国の男は礼節がなってないわ… 最初は凄い建物ばかりで高度な文明国だと思ったのに… 拍子抜けよ… こんな国が日出処の星だとでも言うの…!? ・・・・ 」
エルフの女性は、思案しながら透を睨みつける。
その迫力に少し引きながら、透は問い直す。
「俺の名前は、児玉 透と言います えーと… 献上…? した右腕が再生しているのは何故でしょうか? そもそもあのクソドラゴン様は何なんですか!? レディー?」
「レディーの後ろに?が付いてる気がするけど… まあ、いいわ! 教えてあげる! 私の名は、セラフイム・フィンセント・ヴィレム・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニよ!」
「ちょっとまて… それは名前か!? 呪文か!?」
「やっぱり失礼男ね! 私の名前をバカにする事は、エルフをバカにする事と同義なんだからね! もう戦争よ!? ヒューマン滅ぼすわよ?」
「OK… セラフイム・フィンセント・ヴィレム・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ・・・さん… 先を続けくれ…」
「一発で私の名前言えるなんて何気に凄いわね… コホン! えっと… アナタが右腕を献上したクソドラゴン様こそがこの世界で最強の王にして、至高の存在、もう神と言ってもいいわね! ・・・ って、誰がクソドラゴンよ!?」
「えぇー 今度はそこかいー?」
話しが進まないようなので、エルフの女の子の言う事を要約すると、透が浴びたドラゴンの魔力が宿った血の力で、身体の構造を造りを変え、再生能力を獲得させ、付随してこの世界の言語まで覚えられたのらしいのだ。
もし、邪な者が竜王の血を体内に取り込めば、身体が腐りながら破裂して即死亡するらしいのだが、透の右腕が再生し生きているということは一応、邪な部類の人間ではないとドラゴンに認めてもらえたようだ。
「うん… 解ったような解らないような… とりあえず俺は、あのドラゴンのせいで死にかけて、ドラゴンのおかげで生き延びたと… プラス・マイナス・ゼロってことだな! それにしてもなんであんな化け物がこんな所にいるんだよ…」
透はぼやきながらエルフの女の子をまじまじと見る。
その視線に気づいたエルフの女の子は、気持ち悪そうに応えた。
「ちょと… 私が超絶美人だからって、そんなにイヤらしい目で見つめないでくれる? えっと… 名前… ドブガエル?」
「名前、トオルな! ドブガエルって微妙にルしか合ってねーよ? 全面戦争ですか!? 超絶美人な、セラフイム・フィンセント・ヴィレム・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニさん!」
「もう… 美人なんて他人から言われると照れる… あっ! 私のことはセラでいいわよ?」
「おい!コラ! セラって… エルフの矜持はどこいったよ… 俺の脳みそフル回転を返せや…」
無駄なやり取りのその後、セラから何故こんな事になっているのか説明されたのだった…