15話 その後
ギフト教の蜂起から数日後。
洗脳された冒険者達は目を覚まし、特に体に異常はなかったが洗脳された時の記憶は無いらしい。
だが本人達に罪はなくても油断と怠慢が招いた結果として、罰として1ヶ月の街の奉仕を命じられた。
罰といっても給料は出るし、どちらかと言うと冒険者のイメージアップ戦略の一つだろう。
そして『明けの明星』だが、ギフト教に操られた事、ギルドマスターのガイが行方不明になった事で解散命令が出された。
一応『明けの明星』は被害者だが、そのままと言う訳には行かないらしい。
今後『明けの明星』のメンバー達は、複数のパーティに分かれて細々とダンジョン攻略に励む者、故郷に帰る者に分かれた。
そして3大ギルドの一角が消えた事で『白薔薇』と『飛脚』が同盟を締結。『ギルド連合』なるものを創設した。
何でもギルド同士の交流や情報交換を主にやっていき、蜂起の様な事態を減らそうと考えたようだ。
ちなみに『魂の解放者』も『白薔薇』と同盟を組んでいた事で勝手に加入されていた。
まあ、メリットが大きいので特に文句は無いが、事後承諾はやめて欲しい。
あと肝心のギフト教だが、今回の蜂起で完全に犯罪組織として認定。
捕虜にした大司教を尋問して拠点や構成人数を吐かせているらしい。
今後国軍が動き、ギフト教の信者達を取り締まる事になった。
「アウルム。故郷に帰れるんじゃないか?」
それを聞いた俺は、かつてギフト教の信者であった親戚に家を追い出されたアウルムに聞くが、
「今はここが私の家です。故郷より居心地いいですし」
と言って、故郷へ帰還せずにこのままギルドメンバーとしてやっていくと言った。俺としても嬉しい限りだ。
「バン少年。今回はご苦労だった」
「ええ。本当に大変でした」
俺はマリナに呼ばれて協会の会長室を訪れる。
「それで、今回はどんな用事で?」
「今回の蜂起で一番の功労者は君だ。その事を領主に報告したら報奨金が出た」
そう言ってマリナが金貨が入った大量の大袋を机の上に山積みにして置く。
「こんなに?」
「孫の代まで遊んで暮らせる額だぞ」
そんな大金を雑に扱わないで欲しい。
「後、ここから核石の代金を差し引くと――」
「ちょっと待ってください! 核石は払わなくていいって言ったじゃないですか!?」
「冗談だ」
マリナの冗談は分かりづらい。
「それで相談なんだが」
「なんです?」
「この金だ。口座に振り込むのもいいが、投資してみないか?」
「投資?」
協会が何か事業を始めるのか。
「ああ。今回の件で冒険者の数も減り、それは核石の収入も減ることにもなる」
核石は都市のライフラインだからな。死活問題になるだろう。
「そこで冒険者育成所を建設しようと思っている。冒険者になりたがる者は今後そこで訓練を受けてもらい、後進を育成するのだ」
「なるほど……それで資金が必要だと」
「ああ。投資してくれたら今後協会の利益の一部をバン少年に支払っていくつもりだ」
ふむ。……長い目で見れば利益にはなりそうだ。
別に今は金に困ってないし、異存は無いな。
「分かりました。構いませんよ」
「助かる!」
マリナもホッとした様子で俺に礼を言う。
「後もう一つあるんだが……」
「また?」
「核石の研究にも投資をしてもらいたい」
「核石の研究?」
「ああ。核石は生活には欠かせないものだ。加工師に決まった回路を刻ませて、今の生活の基盤にしているが、今後核石の収入の減少も予測して、質が悪い核石でも性能のいい様にする研究をしている」
「……それは国家プロジェクトなのでは?」
協会の業務の範疇を超えてるぞ。
「言いたい事は分かる。だが核石が大量に獲れるのは『メキド』ダンジョンだけだし、研究機関も『フォルト』にあるのが……予算を増やせと言って来てな。国も領主もこれ以上増やせないからと協会にお鉢が回ってきた」
「……協会って、国の機関なんですか?」
「いいや。分かりやすく言えば大きな商会だと思ってくれればいい」
初耳だ。
「研究が成功して利益が出たらちゃんと返す。……それでどうだ?」
「どうって……育成所と違ってリターンが未定なんですが」
正直、今はメリットがあまり感じられない。将来は分からないが。
「そうだよな」
マリナも俺の問いに予想していたのか、大きな落胆はなかった。
「せめて優秀な加工師がいてくれれば、向こうも納得してくれると思うのだが……」
マリナは国から圧力を掛けられているのか。ストレスで胃に穴が開かなければいいが。
優秀な加工師ねえ……。そうだ。
「……報奨金から投資してもいいですよ」
「いいのか!?」
「その代わり、条件があります」
本人のやる気次第だが。
「と言う訳で、研究機関で働いてみないか?」
「やるのじゃ!」
マリナからの打診を店番をしていたティアに伝えた所、にべもなく食いついた。
「核石の研究が出来て予算にも困らない! 夢のような環境じゃないかぇ!」
ここまでテンションの高いティアを見るのは初めてだ。
「流石ワシの旦那! 好き! 愛しているのじゃ!」
「むぐっ!?」
そう言って俺に抱きつき、濃厚なキスをする。
「むちゅ~」
「むー! むー!」
離せとばかり背中を叩くが、一向に離れようとしない。
「――ぷはぁ!」
「ぜー…ぜー…」
ようやく満足したのか、ティアの唇が離れ、俺は息も絶え絶えになった。
「ふふふ……未だに初心なやつのぅ」
「……うるさい」
悪かったな。
「働くのはいいとして、この店はどうするんだ?」
折角の武具店。繁盛してないとはいえ、閉店するのは惜しい。
「それなら心辺りがあるのじゃ」
「へぇ」
ティアにそんな人脈があるとは。
「ワシの甥っ子でのぅ。行商をしておって近々『フォルト』に来る筈じゃ。その子に頼もう」
「頼めるのか?」
「自分の店を出したいと言っておったしのぅ。大丈夫じゃろ」
ティアの身内なら安心だろう。
「じゃあ、協会に行ってくれるか?」
「分かったのじゃ!」
そう言うとティアはバニー姿に白衣のまま外に出ようとする。
「まずは着替えろ!」
こうしてティアは研究機関で働く事になり、近い未来、多少のトラブルを起こしつつも核石の性能の向上に一役買うことになる。
◇
「失敗したか……」
ギフト教の隠れ家の一室。教皇は目を瞑り思案する。
教皇のギフトは『模倣』。ギフトを文字通り模倣する力だ。
条件はギフト持ちに触るだけ。
教皇は『模倣』を使い多くのギフトを得て、ギフト教を作った。
信者達に教皇が神にも似た存在だと思われていたのは、すべて『模倣』のおかげだ。
教皇は『模倣』で得た『平行思考』で今後のシミュレートしていく。
枢機卿は破れ、信者達も捕まっていく。司教、大司教クラスも現状を打破する力は無い。
「……今は雌伏の時か」
そう結論付けた教皇は力を貯めて組織が再生するのに力を注ぐ事に決めた。
その時、
「――誰だ?」
『模倣』で得た『感知』に引っかかり、その方向に『炎術』で火の玉を放つ。
だが、『感知』の反応は消えない。
「ちっ」
教皇は『結界』を張り、身を守る事にした。
だが――
チクリと、首筋に針が刺さったような痛みが走る。
「なっ!?」
「残念でした~」
結界内に侵入したのか、最初から結界内部にいたのか、道化師の姿をした女――ステラが教皇の後ろにいた。
「貴様っ! 何をした!?」
「依頼であんたの隠れ家が分かってね。悪いけど毒を盛らせてもらったの」
毒。それを聞いた教皇は『浄化』を使い解毒を試みる。
「無駄無駄。あんたの事はよく知っているから…『模倣』は確かにギフトを模倣できるけど、でもそれは本来の力を引き出せない。所謂劣化コピーね」
「……何故それを知っている?」
『模倣』も完璧ではない。それを知っているのは自分だけの筈だ。
「だからあんたに解毒不可能なとっておきの毒を使ったわ」
「くっ」
毒が回ってきたのか、教皇は立ってられなくなり、床に倒れる。体が動かず、全身に痛みが広がる。
「ところで……私の顔を忘れた?」
「……何?」
意識が飛ぼうとする中、教皇は女の顔をよく見る。
「――そんな」
ありえない。
なぜなら、目の前にいる女は、自分が殺したはずだ。
「思い出してくれて良かった……姉さん」
ステラはかつて、野心にとりつかれて自分を殺しかけて故郷の村を焼いた姉に、憎しみを込めた目で見る。
「……う」
「あんたに復讐するこの日をどれだけ待ったか、分かる?」
「……た、助けて」
教皇の痛みは更に激しくなり、妹に助けを求める。
「全身痛いわよね。その痛みは、私と、家族と、故郷の人達の恨みよ。存分に味わいなさい」
「……」
教皇はもう喋ることすら出来ず、全身を痙攣させるだけだった。
「……」
それをみたステラは無言で部屋を出る。アレは間も無く死ぬだろう。
これで長年の復讐は終わった。
「さて、これからどうするかな~」
何でも屋は情報収集する意味もなくなったし、廃業するか。
これから冒険者として生活するのもいいかも。
ステラは何の未練も残さず、その場を後にした。
こうしてギフト教は完全に壊滅。この世から存在が消えた。
8章 完




