14話 蜂起⑨
朝の採取依頼から始まった長い1日が、ようやく終わろうとしている。
空は暗く、3つの月が夜を照らす。月が眩しい所為か、星は見えない。
「何ボーとしてんの?」
「いや、なんでもない」
ステラと一緒に領主の別邸に着き、物陰に隠れて様子を見る。他の冒険者も物陰から見張っている筈だ。
「結構いるわねー」
「800人以上はいるな」
マリナの情報通り、別邸に洗脳された冒険者が集合している。
『フォルト』の人口は分からないが、衛兵を無力化して街を乗っ取ろうとしている割には心許ない数だが、そこは操られても冒険者。1人でも戦力は大きい。
「あの数の冒険者を洗脳できるなら蜂起も納得だわー」
「感心している場合か……どう潜入するんだ?」
「これを使う」
そう言って懐から取り出したのは黒いマント。
「このマントは『隠蔽』が付与されている遺物で、私の7つの秘密道具の一つ」
『隠蔽』の付与されたマントか。これなら何処でも侵入できるな。
「7つ道具の一つねぇ……残りの6つは?」
「さあ?」
適当に言ってんじゃないのか?
「さ、被って」
俺とステラはマントを被って、裏門に近づく。
ステラがピッキングで裏門の鍵を開けている間に俺は周りを警戒。
「開いたよ」
直に鍵を開けたステラと敷地内に入り、裏口もピッキングで開ける。
厨房から食堂に入り廊下に出るが、誰もいない。
「……やけに静かだ」
「しーっ声は消せないから」
「すまん」
ステラに注意されてなるべく音を出さずに廊下を歩く。
ステラにトントンと肩を叩かれて、ステラが指で合図を送る。
2階に行くらしい。
俺は頷きステラの後に続く。
そして2階に上がり廊下を歩く。
そしてステラがとある一室の前で止まり指で合図を送る。
ここに誰かいるらしい。
ステラに合図を送り扉を開けさせて、即座に入り発砲しようとした瞬間。
「私を見なさい」
机に座っている、白いシスター服を着たピンクのツインテールの少女と眼が合い、意識が遠のく。
「案外チョロかったわね!」
ビビが机から飛び降りるとふんぞり返る。
バンは虚ろな表情で眼の焦点が合ってない。完全に洗脳にかかった証拠だ。
「連れの女は?」
「すみません。逃げられました」
司教がステラを後を追っていたが、逃げられたらしい。謝りながら戻ってきた。
「『感知』ギフトを持つ貴方が見失うなんてね」
「どうやらこのマントの他に色々と小細工をしていたようで」
司教がバンが着けていたマントを握り締めながら悔しそうに言い訳をする。
司教の『感知』ギフトは『隠蔽』が付与されたマントなど意味がない。
だから潜入して来たバン達をあえてこの部屋に誘導して『洗脳』を掛けれる様にした。
そして作戦は成功。目標の一つでもあると同時に最強戦力の『聖人』を手に入れた事は大きい。
「まあいいわ――さて」
ビビが太もものベルトから鞭を取り出し床に振るう。
バチンッ! 床を叩く音が部屋に響いた。
「あんたのおかげでセツとマナが死んで計画も無茶苦茶よ! いくら『聖人』とはいえお仕置きが必要ね!」
ビビが獲物を甚振る目をして顔を愉悦で歪ませながら鞭をバンに目掛けて振るう。
だが――
「……え?」
洗脳されて意識がないはずのバンが、振るった鞭を篭手でガードした。
◇
(まただ)
目を開けると周りが真っ黒い空間。俺はここを知っている。
――ちっ
そして、ここにいる声の主は不機嫌そうに舌打ちした。
(そう怒るなよ)
誰か知らないけど。
――はぁ
ため息をつく声が聞こえた瞬間、俺の意識が暗転した。
「なんでよ!?」
洗脳したはずなのに、ビビの意思に反してバンが動き出す。
「ビビ様!」
異変に気付いた灰色のシスター服を着た5人の司教がビビを守るように前に立つ。
バンバンバンバンバン!
瞬間、バンは高速で銃を構えて連続で発砲。全員急所に当たり瞬く間に5人の司教は死んだ。
「ひ、ひいいいい!!」
1人生き残ったビビが恐怖で鞭を振るうが、バンは短剣を抜いて鞭を斬る。
音を超えたスピードで振るわれる鞭を斬るなんて人間技じゃない。
それを知っているビビは更に恐怖を募らせる。
「あ、ああああああ!! くるな! くるなああああ!!」
ビビはバンの目を見て『洗脳』を使うが、バンの動きが止まる事がない。
バン!
「……かひゅぅ」
バンが放った弾丸はビビの喉を撃ち抜き、ビビは自分の血に溺れながら死んでいった。
「……見て」
領主の別邸の外、洗脳された冒険者達を観察していた冒険者が仲間に声を掛ける。
「どうしたの?」
「洗脳された人たちが……」
仲間の指差した方を見ると、冒険者達が次々と糸が切れたように倒れていき、最後には青いシスター服を着たギフト教の信者達だけが訳も分からずにオロオロしている。
「これって」
「ええ。成功したようね」
見張っていた冒険者が確信して、合図を送る。
物陰に隠れていた冒険者がぞろぞろと集まる。そこには協会長のマリナや『白薔薇』のメンバーもいた。
「総員、突撃!」
マリナが先陣を切ってギフト教の信者に突撃。
急襲を食らった信者は抵抗もできず鎮圧されていった。
「私はバンの所に行く!」
「私も」
「分かった!」
ミリアとマルグリットがマリナに後を任せて屋敷に入る。
「やっほー」
「お前は!」
そこにはバンと一緒に潜入していた筈のステラが待っていた。
「バンはどうした!?」
「いやー危うく洗脳されかかったから私だけ逃げちゃった。めんご」
ステラは悪びれもなくミリア達に舌を出して言い放った。
「貴様っ!」
「まあ、冒険者達の洗脳が解けたみたいだから上手くいったんじゃない?」
「どの口が言うか!」
マルグリットが怒鳴りながらステラの胸倉を掴む。
「マルグリット、落ち着いて。バンなら大丈夫」
「ミリア」
ミリアの言葉にマルグリットは冷静さを取り戻して胸倉を放す。
「……そうだな。おい案内しろ」
「そのつもりで待ってたの」
「バンに何かあったら、貴女を殺すから」
「おー怖っ」
ミリアの静かな殺意に、ステラは身震いしたが本当なのか演技なのか。
「ほらここ」
そうして案内された扉の前にミリア達は立つ。
「じゃあ、またね~」
「あ、おい!?」
そう言い残し、ステラがいつの間にか消える。
「マルグリット。まずはこっち」
「はぁ……そうだな」
マルグリットが扉を開ける。
部屋の床は血と死体で汚れ、その中心にバンが立ち尽くしていた。
「バン! 無事か!?」
マルグリットはバンに近づき顔を見る。
「……バン?」
「どうしたの?」
「バンの様子がおかしい」
ミリアもバンの顔を見る。
バンの表情は虚ろで、目から光が消えていた。
そして何より、血に塗れてないのに、バンから血の匂いがした。
「バン! 起きろ!」
「目を覚まして!」
マルグリットバンの体をゆすり、ミリアはバンに呼びかける。
「――はぁ」
「……バン?」
バンがため息をつくと、虚ろな表情が消え、目に光が戻る。
「あれ? マルグリットにミリア?」
「……正気か?」
「? 何言ってんだ?」
「「バン!」」
正気に戻ったバンにマルグリットとミリアが抱きつく。
「ぐえっ!?」
バンの悲鳴と共に、ギフト教の蜂起と長い1日が終わりを告げた。
次回「その後」




