11話 蜂起⑥
俺達はバイクで再び『フォルト』の街中を駆ける。
「……怖いか?」
俺の前に座るカナに聞く。
「ううん大丈夫。バンがいるから」
カナは落ち着いた様子で返事した。
……うん。これなら大丈夫そうだ。
「ワン!」
カナに抱きしめられているグレイが忘れるなと言わんばかりに鳴く。
「ん。グレイも頼りにしている」
「まず家に戻ろう。レン達が待っている」
俺達は家に向かいバイクを走らせる。
途中洗脳された冒険者達と出会うが無視だ。
カナに血を出来るだけ見せたくは無い。
「バン! カナちゃん! グレイ! 無事だったのね!」
家に着いた俺達を見て、出迎えたレンがホッとする。
「本物か確認しなくていいのか?」
「カナちゃんとグレイがバンを見間違うはずないじゃない」
「あ、はい」
冗談交じりで言ったが、素で返された。
俺よりカナとグレイの方が信用されているのね。
「外はどうなっているの?」
俺はチラリとカナを見る。
カナは俺を見つめ返して頷く。
……そうか。カナは覚悟を決めたか。
「状況は――」
俺はギフト教の存在に目的、カナの出自や扱われ方、今後の目的を話す。
「カナちゃん!」
「むぐっ!?」
話を聞いたレンは突然カナを抱きしめた。
「辛かったね。でももう大丈夫よ! 私達は味方だから!」
「……ん。ありがと」
この場にカナを責める者は一人もいない。本当にいいやつらだ。
「しかし、バンも厄介な事に巻き込まれたな」
「全くだ」
ロゼの同情の言葉に俺は頷く。
「この礼は、しっかりさせてもらわないとな」
「どうするんです?」
「マルグリットの救出後、奴等を皆殺しにする」
アウルムの問いに答えた俺を、全員がギョッとした目で見る。
「……何?」
「いや、バンがそんな事言うなんて」
「意外だな」
「あっさりと、とんでもない事いいますね」
付き合いが長いレンとロゼとアウルムがそう言うが俺も狙われているし、何より堪忍袋の尾がもう切れている。
こんな気持ちは前領主のクソジジイがカナを誘拐して以来だ。
「カナを頼む」
「ええ。全力で守るわ」
「任せろ」
「バンとグレイもお気をつけて」
「ノアも帰りを待っています」
「「「「ちゃんと帰ってきてください」」」」
「行ってらっしゃいっす」
「お嬢様を頼みます」
「ああ。グレイ、行こう」
「ワン!」
全員に見送られて、俺とグレイは街に出る。
「クンクン」
「分かりそうか」
「ワン!」
マルグリットの匂いが分かるようだ。グレイに連れられて街中を歩く。
追跡中、洗脳された冒険者達も姿が見えない。ミリア達の作戦が上手くいっているのか、なんだか不気味だ。
「バン」
そこに、冒険者達を連れたミリアと会う。
「ミリア? 作戦中か?」
偶然とはいえミリアと会うとは。
「……そう」
「丁度良かった。ギフト教の連中は――」
「ガウ!」
ミリアに質問しようとした時、グレイが剣を咥えてミリアに切りかかる。
だが、背後にいた冒険者達が立ちふさがりグレイと戦闘が始まった。
「グレイ!?」
グレイの行動に疑問を持ったが、よく見ると、冒険者達の表情は虚ろだ。明らかに洗脳されている。
そして、俺はレン達との会話を思い出す。
――ギフトで変身できる奴がいる!
「お前は誰だ?」
「……ふむ、もうバレたか」
ミリアの姿が変わり、白いシスター服の茶髪の女性に変わる。
「名乗っておこう『聖人』よ。我はマナ。枢機卿の地位を賜っている」
「お前がマルグリットを攫ったのか?」
「そうだ。我の『変身』のギフトで『聖人』に化けさせてもらった」
「そうか……お前がマルグリットを攫って仲間を傷つけたんだな!」
バン!
俺はマナの足に発砲。
殺しはしない。マルグリットの居場所を聞き出さないといけないからな。
「ふむ」
カキンッ!
だが、鳴るはずのない金属音が響き、弾丸が弾かれる。
「どういうことだ?」
シスター服を見る限り、金属鎧を着ているように見えない。
「何、『変身』は人にだけなれる訳ではない」
そう言うと、マナは前かがみになり、足が動物を思わせる形状になって跳躍。腕を鋼鉄状にして殴りかかる。
こいつ! 人以外、いや無機物にも変身できるのか!
俺は咄嗟に篭手から粒子を出して盾にして防御。
「ぐうううっ!」
それでもマナは止まらず、俺は盾ごと吹き飛ばされた。
「……ふむ。流石『聖人』。良き力だ」
マナは『変身』を解き、吹き飛ばされた俺を見る。
「くそ」
幸い大きな怪我は無いが、『変身』は応用力が高いな。
「セツの『結界』並みに厄介なギフトだな」
「……セツに会ったのか。そしてセツは敗れたのだな」
マナは目を瞑り黙祷を捧げる。
「では、敵討ちをしないとな」
マナは今度は両腕を剣にして足を動物の足にする。
そして素早いスピードで俺に肉薄。
――キン!
俺は斬撃をリボルバーで受け止める。
俺は短剣を抜き斬りつけるが、体を鋼鉄にして防がれる。
銃口を向けたいが、斬撃が速くてリボルバーと短剣で受けるのがやっとだ。
「俺を捕まえるんじゃなかったのか?」
「セツから聞いたみたいだな。だが『聖人』に四肢は要らぬだろ」
「そうかい!」
そしてお互いに斬り付け合うが、どっちも致命傷に至らない。
「ふむ、ならこれでどうだ?」
今度はマナの腰から先端が槍状になった尻尾が生えて俺の足に突き刺そうとする。
俺は篭手から粒子を出して盾にして尻尾の攻撃を防ぐ。
「随分鍛えているな。それに適応力も高い」
「戦いながら喋るなんて余裕だな!」
剣とリボルバーの鍔迫り合いをしながら喋りかける。
「そうでもない。殺す気でやっているが?」
「こっちもそうだ」
俺は余裕がないって言うのに。
「……其方の目的はなんだ?」
「何?」
「何の為に冒険者になり試練場に向かう?」
鍔迫り合いをお互い止め、距離を置くとマナが俺に聞いてきた。
「……俺には記憶がない。だからダンジョンを攻略して記憶を取り戻す」
「なるほど……我と同じか」
同じ?
「其方は記憶を戻す為に、我は元の姿を戻す為に試練を受ける」
「元の姿を戻すだと?」
「我は『変身』を使いすぎてな……本来の姿を忘れてしまったのだ」
『変身』のギフトにそんな副作用が。
「自業自得だろ?」
「そう言われると反論できぬが……なあ、我と一緒に来ぬか? 目的は一緒の筈だ」
「断る」
「残念だ」
俺が断ると思っていたのだろう。今度は全身の姿を変える。
体は大きく、頭は獅子に体は鋼鉄に、両腕は剣に、足は動物の足に、背中には翼、腰には先端が槍になった尻尾。
正に異形。全てが戦うための機能に特化した姿だ。
マナは翼で羽ばたき、空を飛ぶ。
俺も篭手から粒子を出して翼にして背中に纏わせ、翼から粒子のフレアを出して空を飛ぶ。
「ははは。本当に其方と我は似ている!」
「嬉しくないな」
マナは翼を羽ばたき、俺に接近して剣を振りかざす。
俺は更に高度を上げ、銃口をマナに向けるが、マナはジグザグに動き上手く狙いが定まらない。
「無駄だ」
マナは更に速度を上げ、尻尾を伸ばして突き刺してくる。
俺はリボルバーで受け止めるが、リボルバーが弾き飛ばされた。
「終わりだ」
マナは両腕の剣で斬り付けるのを短剣と篭手で、尻尾の攻撃を新たに粒子を出して盾で防ぐ。
「意外と粘るな……だが」
マナは首を伸ばして鋭い牙で俺に噛み付こうとする。
ドォン!!
「……な?」
俺は粒子で作った第3の腕でリボルバーを手元に戻して持ち、『貫通』で発砲。
「落ちろ」
『貫通』の光弾はマナの腹に大穴を開け、マナは力を失い地上に落下していった。
俺は地上に降りて粒子を四散。マナに近づく。
倒れているマナは人間の姿に戻っていた。
「……負けたか」
まだ生きているが、虫の息だ。
「……マルグリットは何処だ?」
「ふむ……我は敗者だが、意地がある。言わぬよ」
「そうか」
俺はマナの口を開けて銃身をねじ込む。
バン!
弾丸は口内から脳天を貫く。こっちが苦しませずに確実に殺せる。
死んだマナの顔がどんどん変わっていき……しわくちゃな老婆の姿になった。
「……良かったな。最後に本当の姿に戻れて」
まあ、これが本当に本人が望んだ姿なのかは知らないが。
「ワン」
「グレイ。そっちも終わったか」
グレイも戦闘を終えて、俺に近づく。
冒険者達は全員怪我を負っているが、命に別状は無さそうだ。
「ちゃんと手加減できたみたいだな。偉いぞ」
「ワン!」
俺がグレイの頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振る。
「バンさん!」
すると上空からハーピイの女性が俺の前に降りてきた。『飛脚』のメンバーだろう。
「異形のものとバンさんが空で戦っているのが見えたので来ましたが、終わったみたいですね」
「ええ。枢機卿の1人を倒し、洗脳された冒険者を行動不能にしました。報告と人をよこして拘束を」
「分かりました!」
ハーピイの女性は翼を羽ばたき飛び立つ。これでここ一帯は一段落ついた。
「ふう」
流石に枢機卿2人との戦闘に疲れた。雑嚢から回復薬を取り出し一気飲み。グレイにも飲ませる。
「グレイ、頼めるか?」
「ワン!」
俺はグレイに頼みマルグリットの捜索を続行した。
次回「蜂起⑦」




