10話 蜂起⑤
俺は目を開いて絶命したセツの瞼を閉じる。
セツの境遇に思わないでは無かったが、やっている事は間違っている。
だが、もし次があるのなら安穏の日々を願わずにはいられなかった。
「優しいね」
ミリアが、俺を抱きしめて言う。
「殺した俺が優しい訳ないじゃないか」
「そんな事ない」
俺の言葉をミリアは否定する。
「バン。とても辛そう」
「……」
「敵は殺すのは当たり前。それが悪獣だろうがモンスターだろうが――人だろうが」
「当たり前、か」
俺だってそうだ。生きる為に殺してきた。
だけど何処かで、それに納得していないんだろう。
しかし俺の中の何かがそれを抑制しようとする。完全には消せないでいるが。
記憶が戻ったら、この感覚の正体もわかるのだろうか。
「あー……イチャついている所悪いが」
バツが悪そうにマリナが俺とミリアの間に入り、
「これからについて話したい」
今後について会議を提案した。
「バン少年のお陰で枢機卿が倒され、洗脳された冒険者達の拘束が一気に進んだ」
協会のホールに冒険者達を集めて、マリナが話し出す。
「と言っても、此方が不利なのは変わらない。それに洗脳している者も健在だ。今は冒険者だけだが一般人も洗脳するかもしれない。あとウルバン領主の娘も攫われた。状況は最悪から少し良くなった程度に過ぎない」
枢機卿が倒されて希望が見えてきたところに、現実を突きつけられる冒険者達。
「だが諦める訳にもいかない」
マリナは強い目で冒険者達を見る。
「『白薔薇』を中心に戦える冒険者は打って出る。『飛脚』は情報網の作成。散開している冒険者達を奇襲し各個撃破、拘束していく」
これは俺が考えた案。数的不利を覆す策。
「ゲリラ戦を始めるぞ」
「ゲリラ戦?」
「そう。これしかないです」
俺は作戦内容を説明して、考え込むマリナを見る。
ゲリラ戦。
遊撃戦とも呼ばれる。 奇襲によって敵に損害を与え,補給路を脅かし,敵が集まる前に姿を消して打撃を免れる戦法。
ゲリラはレジスタンスや反政府の非正規軍の総称だし、向こうが反社だが分かりやすい様にゲリラ戦にしておいた。
「命令されない限りは、洗脳は簡単な命令しかされてない。つまり単純なんです」
俺が街中で戦った冒険者は全てそうだった。
命令は多分、見つけたら襲え。だ。
「頭からっぽの集団に地の利で戦う。数的不利を覆すには十分です」
「……そうだな。洗脳されるか殺されるかの二択しかないなら、反撃に出るか」
マリナは決断し、ゲリラ戦が決行された。
「バン少年、核石だ。あるだけ持って来た」
マリナに頼んで核石を融通して貰い、机に山の様に積まれた核石を見る。
「バン少年が一番負担が大きいが、これしか援助できずにすまない」
「十分です。ありがとうございます」
俺は核石を全部籠手に吸収させながら礼を言う。
「……因みに、お幾らで?」
「請求はギフト教にするから気にするな……再度確認だ。バン少年はブレイドガルと合流後、マルグリット嬢を救出」
「その後ギフト教の信者を撃破していきます」
「……頼んだ」
俺は会長室を出て協会のホールに行く。
ホールは冒険者達がごった返している。
祈る者、装備を点検する者、作戦を確認する者等、作戦前に各々準備をしている。
「バン」
ホールを抜け、出口の前にミリアが待っていた。
「気をつけて」
「そっちも」
――チュっ
ミリアが俺にキスをすると、俺達を見ていた冒険者達が野次を飛ばす。
「ヒュー!」
「お熱いことで!」
「結婚式は呼んで下さい!」
冒険者達は好き勝手言う。作戦前の光景とは思えないが、これが冒険者と言うものだろう。
野次とミリアの叱責を背にして外に出て、俺はバイクに跨る。
先ずはカナとグレイと合流だ。
◇
バイクを飛ばし、街中を駆ける。
途中で洗脳された冒険者と何度か出くわすが、リボルバーで行動不能にしていく。
ライフルを破壊されたのは痛いな。運転しながらだとリロードに時間が掛かる。
だが、無いものねだりしてもしょうがない。現状でどうにかするしか無いか。
そうしてやっと城門を潜り街の外に出て、カナと別れた森に入る。
「カナー! グレイー! 何処だー!?」
「バン!」
「ワン!」
俺の呼ぶ声にカナとグレイが気付いて俺に駆け寄り抱きつく。グレイも俺の足に頭を擦る。
「何があったの? お姉ちゃん達は無事?」
「それについてだが、落ち着いて聞いて欲しい……ギフト教が襲って来た」
俺の言葉に、カナは目を見開き、顔を真っ青にする。
「はあ、はあ、はあ……」
余程ショックなのだろう。息が荒い。
「カナ。呼吸をゆっくり。落ち着いて」
「……すぅ、はぁ」
「よし、いい子だ」
俺はカナの頭を撫でて褒める。
「……バン。私の事、聞いた?」
「……ああ」
カナに嘘は通じない。俺は正直に答える。
「……ごめんなさい。ひぐ……私のせいで…ぐす」
「カナは悪く無い。あいつらの目的は別だ」
俺は泣きながら謝るカナを抱きしめる。
「俺の目の前にいるのは『聖女』じゃない。カナと言う1人の女の子だ」
「バン……」
「酷い目にあったのも知っている。大丈夫。俺が必ず守る」
「うん」
「クゥーン」
グレイもカナを慰める様にカナに頬擦りする。
「バン、グレイ、ありがとう」
「どうって事ないさ」
「ワン!」
泣くのをやめ、笑顔を見せてくれたカナに、俺は微笑み返した。
「グレイ、頼みがある」
「ワン?」
首を傾げグレイに俺は真剣に言う。
「マルグリットが攫われた。グレイの鼻が頼りだ。探せるか?」
「マルグリットお姉ちゃんが!?」
「ワゥ!?」
まぁ、あのマルグリットが攫われたって聞いたら驚くわな。
「グレイ、頼めるか?」
「ワン!」
流石。頼りになる。
「よし、行こう」
俺達は森を抜け、バイクに跨り『フォルト』を目指した。
次回「蜂起⑥」




