9話 蜂起④
「カナが、ギフト教の『聖女』?」
何か隠しているのは知っていたが、真実を知った今なら分かる。喋りたくない訳だ。
「ええ。元々捨て子だったアルカナですが、万物を見るギフトは正に『聖女』に相応しい!」
セツは祈りを捧げながらうっとりとした表情を浮かべるが、俺はそんな事気にもせず質問する。
「俺がカナと出会ったのは森の中だ。それに身なりもボロボロで腹も空かせていた。よくそれで『聖女』なんて言えたな」
俺はカナと初めて出会った時の事を思い出して、怒りを抑えながら言う。
「アルカナには『聖女』としての振る舞いも求められています。故に調教を行っていましたが、隙を突かれて逃げてしまわれました」
「調教だと? ふざけるな!」
俺は怒りを我慢できずにセツに怒鳴る。
「カナを何だと思っている!?」
「ギフト持ちを見い出す、ギフト教の『聖女』ですが?」
セツは不思議そうに首を傾げる。
もういい。こいつの言葉をもう聞きたくない。
「しかし逃げられた時は焦りましたが、『聖人』を見い出すとは。これは運命です……さあ、『聖女』は何処に――」
バン!
俺はライフルの銃口をセツに向けて撃つ。
「――危ないですね」
だが、セツの前に青い透明な壁が現れて防がれた。
「私のギフト、『結界』ではそんな攻撃は無力です」
「そうかよ」
「因みに、こんな事も出来ます」
セツが掌を俺に向ける。
直後、『結界』が現れてライフルを真っ二つにした。
「なっ!?」
「『結界』は守りだけじゃないのですよ」
攻防一体のギフトか。厄介な。
「あとは――アレを」
「「「は!」」」
青いシスター服を着たギフト教の信者が高速で動き俺を包囲。
「ぐっ!?」
俺の体が突如、地面に押し付けられた。
なんだ? 体が動かない!
「私の3人の部下は『念動』『拘束』『停止』のギフトを持っています。これで動けないでしょう」
捕獲に向いているギフトって訳か。
だが、
「こんなので、俺を止められると思うな!」
俺は籠手から粒子を放出。
粒子は手の形を取り、第3の腕としてホルスターからリボルバーを抜き、『貫通』を使い発砲。
ドォンドォンドォン!!
油断していたのか、ギフトの使用で何も出来なかったのか、セツが『結界』を張るが、光弾は『結界』を貫通し、それぞれ信者の胸や頭に命中。当たった箇所は大穴が空き、又は吹き飛ぶ。即死だ。
拘束を解かれた俺は起き上がり、第3の腕からリボルバーを受け取って、セツに向けて撃とうとしたが――
「そこまでです」
セツは洗脳された冒険者達に合図を送り、急襲をかけさせる。
俺は粒子を翼にして背中に纏わせて空に逃げる。
「やれやれです」
セツは面倒くさそうに首を横に振ると、掌を俺に向ける。
ドォン!!
俺はそこに『貫通』を使い発砲。
だが、
「なっ!?」
洗脳された冒険者達がセツを守り、光弾は冒険者に命中。貫通して4人の冒険者を殺してしまった。
同時に『結界』が粒子の翼を両断。俺は地面に落ちる。
「ぐっ!」
幸いギリギリで翼を再展開出来て、落下の衝撃を抑える事が出来たが、多少のダメージを受けた。
「素晴らしい! 流石は『聖人』。私の天敵と言ってもいいギフトをお持ちだ!」
何が嬉しいのか、セツは興奮しながら余裕そうに両手を広げる。
「だが悲しい事に、貴方は冒険者や劣等人に情を抱きすぎだ」
そう言ってセツは合図を送ると、冒険者達は其々の武器を己の首に押し当てる。
こいつ、冒険者達を人質に取りやがった。
「こうすれば、貴方は何も出来ないでしょ?」
「……」
「冒険者達には貴方が私に攻撃する素振りを見せたら自ら命を断つ様に命令しました。さあ、大人しく私の言う事を聞いて貰いましょうか」
俺の沈黙に有効だとセツは確信する。
「バン!」
すると成り行きを見ていたミリア達が協会から出て来ようとするが、
「おっと」
「なっ!?」
セツは『結界』でミリア達を建物ごと封じ込める。
「貴女達は優秀な冒険者だ。後でゆっくり洗脳させて貰います」
「ふざけるな!」
ミリア達は『結界』を攻撃するが、『結界』はびくともしない。
「まったく。これだから冒険者は」
セツはやれやれと首を振り俺に視線を向ける。
「『聖人』。もういいでしょ? 貴方は何も出来ない」
「……」
「何、貴方の使命は極上の快楽だと約束しますよ」
「……一ついいか?」
「……何です?」
俺の様子を怪訝に思ったのか。セツは警戒しながらも俺の話を聞く。
「誰が冒険者達を洗脳したんだ?」
「……答えるとでも?」
「そうか。残念だ。お前が洗脳した訳じゃないんだな」
「――!」
自身の返答の失敗に気づいたセツは動揺するが、直ぐに冷静さを取り戻す。
「……それを知ってどうするんですか?」
「何。あんたを殺せば直ぐに終わると思っただけだ」
「私を殺す? 人質がいるのに? それとも見殺しにして私を殺すとでも?」
セツは余裕の笑みを浮かべながら俺に聞く。
「いや。冒険者達は守る。おまえは殺す。それだけだ」
「――戯言を!」
ここでセツは初めて余裕を無くして、怒りの表情を浮かべる。
「『聖人』だからと多めに見れば図に乗って! もういいでしょう。自分の立場を分からせてあげます! 痛めつけて上げなさい!」
セツは冒険者達に合図を送が、冒険者達は微動だにしない。
「何しているのですか! 早く――」
しなさいと言いかけて冒険者達の方を向くと、セツの動きが止まる。
無理もない。洗脳された冒険者達は全員、黒白の茨で全身を縛られて身動きが取れないからだ。
「これは? ――っ!」
ドォン!!
事態を察したセツだったが、時既に遅く、咄嗟に『結界』を張ったが、『貫通』の前では無意味。
セツは腹に大穴が空いて、仰向けに倒れた。
「……ふう」
戦いが終わって俺は息を吐く。
「バン! 無事!?」
『結界』が解けて外に出られる様になったミリアが俺に駆け寄る。
「ああ。大丈夫」
「よかった……あれは?」
「籠手の能力だ」
俺は籠手から気付かれない様に粒子を茨状にして出し、地面の下から冒険者達を拘束した。
咄嗟だったが上手くいった。
「バン少年」
「会長。今のうちに洗脳された冒険者達の拘束を」
「ああ」
マリナは指示を出して、洗脳された冒険者達を拘束していく。これで一安心だ。
「……」
俺は殺してしまった冒険者達の死体を見る。罪悪感は勿論あるが、冷静な自分に嫌気がさす。
「バン少年。気にする事はない。全て不測の事態だった。君は最善を尽くした」
「……会長」
指示を終えたマリナが俺の元に来て慰めの言葉を言う。
「冒険者に死はつきものだ。だから死んでいった者達の為にも、冒険者達は前に進むしかない」
「……そうですか」
それが、死んでいった冒険者の慰めになるといいが。
「それに、まだやる事がある」
「はい」
そうだな。クヨクヨしてられない。
俺は倒れたセツにリボルバーを構えながら近づく
「…ヒュー…ヒュー」
腹に大穴が空いてもなお、まだ息がある。
だが致命傷だ。もう助からない。
「……質問に答えたら楽にしてやる」
「……答えるものか」
こいつなりに、意地がある様だ。
「…この世界は…醜い…腐って、いる……私は…この、世界に…居場所が、なかった」
「……」
不意に、いつかの話を思い出す。
――もしかしたら、カナちゃんは魔女って呼ばれて迫害されたのかも――
もしかしたら、ギフト教の信者は魔女と呼ばれて迫害された者達の集まりだったのかもしれない。
「私に、は…教皇、様だけ、が全て…だ…教…皇様ぁ」
セツは、まるで母を求める子供の様に教皇を求め、その声は弱まり、目から光が消えて死んでいった。
次回「蜂起⑤」




