8話 蜂起③
俺はバイクに乗り協会を目指す。
――ブロロ!
俺の存在に気付いたのか、数台の車で俺を追いかける連中がいる。
運転手している冒険者の目を見て分かる。操られているな。
「――すまん」
バン!
俺は車のタイヤにライフルで撃つ。
車はバランスを崩して横転。冒険者に怪我がなければいいが。
俺は片手でライフルのレバーをコッキング。装填してまた撃つ。
それを繰り返してカーチェイスを続けながら追っ手を巻き、協会の前に着く。
協会の前では操られた冒険者が中に押し入ろうとし、協会側はバリケードを作って篭城している。
協会側も冒険者達が操られているのが分かっているのか、迂闊に手が出せないみたいだ。
俺は背後から冒険者の足に向かって発砲。ライフルを全弾打ち尽くした頃にはバリケード前の冒険者は行動不能になった。
俺はライフルをリロードしながら協会に歩く。
「止まって」
バリケードの前にいたミリアが俺を止める。
ああ、またこのパターンか。
「バン、貴方は正気?」
「ああ。証拠を見せようか? ミリアはベッドの上では意外と積極的で攻めるのが好きだ。後は――」
「正気ね。こっち来て」
俺の話を遮る様にミリアが正気だと判断して、俺を協会に招き入れる。
「状況は?」
「冒険者の8割は操られている。『洗脳』のギフトで間違いない」
『洗脳』か。また厄介な。
「解除方法は?」
「ギフト持ちを倒すしかない」
「それは……」
『フォルト』は広い。ギフト持ちを探すのは困難だ。
「冒険者達を全員行動不能にするのは?」
「現実的ではない。冒険者は1000人以上はいる。こっちは戦えるのは約100人」
それは、明らかにこっちが不利だな。
「それに操られている冒険者を殺す訳にはいかない」
それで余計に身動きが取れないと。
「バンさん。協会長がお呼びです」
俺とミリアが話している時、受付のカルラが呼びに来る。
「分かりました」
「何かあったら教えて」
ミリアとの会話を打ち切り、俺はカルラに連れられて会長室に入る。
「急ですまない」
「いえ。……状況は?」
「十中八九、ギフト教の仕業に違いない」
やっぱりか。マリナも非常に不味い状況だと分かっているだろう。顔に焦燥が浮かんでいる。
「『魂の解放者』は来られなかったのか?」
「ええ。敵の襲撃を受けて行動不能に。あとマルグリットが攫われました」
「何だと!?」
マリナは予想だにしなかったのか、明らかに動揺した。
「それはまずいぞ」
「ええ。人質としてもってこいです」
「人質を餌に領主と交渉……いや、誘き寄せて洗脳が目的か」
「多分……マルグリットの救出に力を貸して欲しいですが」
「この状況では難しい」
だよなぁ。
「となると、この状況を作り出した元凶を叩くしかないですね」
「それは分かっているのだが……」
防衛で手一杯で、仮に反撃に出れたとしても洗脳されたらキリがないか。
「領主に連絡は?」
「『飛脚』に頼んでいるが、距離が距離だ。早くて騎士団が来るのが4日後。国軍は更に遅い」
「それまで俺達が生きてればいいんですが」
「全くだ」
お互い皮肉を言うが、状況は好転しない。
「こうなったら俺1人で打って出ます」
「どうするつもりだ?」
「街の外でブレイドガルのグレイを待たせているので、グレイにマルグリットを見つけてもらうつもりです」
「ブレイドガルか……飼っているのは知っていたが」
マリナはブレイドガルを知っていたのか。
「ブレイドガルは賢いし嗅覚も優れている。捜査に一役買ってくれるだろう」
「ええ。それではこれで――」
「協会長大変です!」
話が一段落して急ぎ足で部屋を出ようとした時、カルラがノックもせずに慌てて部屋に入ってきた。
「どうした?」
「洗脳された冒険者を先導して白いシスター服の女が協会の前に現れて、ギフト持ちの少年を出せと要求しています!」
ギフト持ちの少年…俺の事か。
「白いシスター服……ギフト教の、それも枢機卿クラスだぞ」
「枢機卿?」
「ああ、教皇の次に地位がある者たちだ。全員強力なギフトを持つといわれている」
宗教に詳しくない俺にマリナが説明してくれた。
「冒険者を先導しているとなると、その枢機卿が洗脳をしている可能性があるな……枢機卿が来たとなると、腕に自信があるのか、策があるのか」
「どちらにしても、向こうから来てくれて手間が省けました」
俺はライフルとリボルバーの弾装を確認して部屋を出ようとする。
「行くつもりか?」
「ええ。このチャンスを逃す手は無い」
「……そうだな。私も行こう」
マリナも覚悟を決めて壁に飾ってある槌を手に取り俺に続く。
「外に出るのはバンさん1人だけだと言ってきています」
「分かりました。行きます」
協会を出る途中、ミリア達が心配そうに俺を見るが、俺は安心させるように笑う。
外に出ると、黒髪を綺麗に揃えた白いシスター服を着た女性が3人の青いシスター服の女性と大勢の冒険者達の前に立っている。
白いシスター服――あれが枢機卿か。
「貴方が『聖人』ですか?」
「『聖人』?」
なんだそれ? ……兎に角、少しでも情報を得るために話を合わせよう。
「『聖人』とはギフトが使える男性の事です」
「初耳だな。確かにギフト使えるが……ギフト教の教義か?」
「はい」
カマを掛けて見たが、当の本人は隠すつもりも無さそうだ。
「申し遅れました。私はセツ。ギフト教の枢機卿の地位を賜っております」
「バンだ」
「お手数ですが、我々と来て貰えますよね?」
セツと名乗った枢機卿は俺が断ると微塵も思っていないらしい。確信を持って俺に言う。
「なぜ俺が?」
「『聖人』には使命があります」
「指名? 具体的には?」
「ご存知でしょうが、ギフト持ちは遺伝しやすい。『聖人』とギフト持ちの者との子供は尚更です」
「……要は種馬か」
俺は繁殖用の雄って訳か。反吐が出る。
「天使に至る試練は過酷です。ギフト持ちは多いに越したことは無い」
「その天使って言うのは良く分からないんだが?」
「ギフト持ちは神に認められた者。そして神に仕えるための試練場として冒険者がダンジョンと呼ぶものが出来ました。試練を突破した者が天使となり群衆を導き、対価に望みが叶うのです」
そうか。ダンジョンを攻略した者の願いが叶うと言うのをそう解釈しているのか。
だが、
「……その話だと、ギフト持ちしかダンジョンを攻略できないって言ってるみたいだが?」
「当たり前じゃないですか。神の試練場です。劣等人にどうにかできる訳がありません」
劣等人。その言葉だけでこいつらとは相容れないのが分かった。
「言いたい事は分かった」
「そうですか。……それではこちらからも質問しても?」
「話せる範囲でなら答えよう」
「『アルカナ』は何処にいますか?」
「『アルカナ』? 誰だそれは?」
「ああ、あの子は本名を名乗ってなかったのですね」
……あの子? 待て、こいつは何を言おうとしている?
「おい、何を――」
「貴方の傍にいる、カナと呼ぶ少女の本名はアルカナ。ギフト教の『聖女』です」
次回「蜂起④」




