2話 冒険者協会
蒸気バスに揺られて着いた、正門に盾に剣が2本交差した絵が大きく書かれた建物――冒険者協会は周囲の建物に比べて圧倒的な大きさだった。
それだけ冒険者が多いって事だろう。
「カナ、俺から離れるなよ」
「ん。分かった」
大きな扉を開けて中に入る。
中は思ったより清潔で、冒険者がたくさんいた。酒場も兼ねているのかバーカウンターやテーブルで朝から酒を飲んでいる人や、依頼書の貼られたボードを確認している者、換金所と書かれたカウンターで並んでいる人もいる。
人種も様々だが、意外と男性より女性が多いな。比率でいったら6:4程だろう。ギフト持ちは女性が多いのと関係しているんだろうか?
とりあえず奥の受付と書かれたカウンターに向かう。
受付に向かう時にいくつもの視線を向けられる。
子供連れが珍しいのか、好奇な視線が集まるが無視して、カウンターの受付のスーツに似た服を着た20歳前後の受付嬢の前に行く。
「すみません、冒険者登録をしたいんですが」
「あ、はい……そちらのお子さんもですか?」
「この子は違います」
「そうですか」
あからさまにホッとした様子を見ると、子供は歓迎されないようだな。
「登録には試験があります」
「はい」
「実戦形式の試験です」
「はあ」
「怪我をしても、当協会は責任を負いませんが……それでもよろしいですか?」
なんか、遠まわしにだが俺を登録させたくないみたいだな。見た目子供に見えるからか? 年齢制限は無いそうだけど、子供は冒険者にさせない方針なのかもしれない。
「大丈夫です。お願いします」
「……わかりました。少々お待ちください」
俺が試験を受けると知ると、周囲の冒険者達がざわめいた。
確かに見た目子供で弱そうな外見。武器も見た目短剣だけで、防具も着ていないのを見たら無謀としか思われないよな。俺だってそう思う。
少ししたら受付嬢が戻ってきた。
「お待たせしました。参加料で銀貨1枚頂きます。代金は不合格でも返金はいたしませんので」
「分かりました」
俺は財布から銀貨1枚を渡す。
「はい確かに……こちらへどうぞ」
そう言われ受付嬢に案内されたのは建物の裏手にある広い場所だった。
どうやら協会の訓練所らしく四方は壁で覆われて、階段を上って上で観覧できるようになっている。
訓練場には冒険者もちらほら見かけ、訓練している人や、上の観覧場で雑談している人がいた。
「今から登録試験を行います! 訓練場にいる方は移動をお願いします!」
受付嬢の指示の元、観覧場に向かう冒険者達。
「カナ、上に行ってな」
「うん。がんばって」
冒険者と一緒にカナを観覧場に行かせると、試験官らしき女性がやってきた。
20歳後半位だろうか、身長は2mはあり茶髪のショートカットに黒眼の鋭い目つき、白い肌に軽装の金属鎧を付けた細身ながら筋肉質な人だ。見た目といい背中の身の丈はあろう大剣を見ると、相当な力を持っているのは明らかだ。
「あんたが登録希望者かい。私は試験官ベアトリクスだ」
自己紹介されたが、威圧感がすごい。普通の人ならビビッて逃げ出す程だ。
「……バンです」
「……ほう。度胸はあるみたいだな」
気圧されることなく挨拶をした俺にベアトリクスは感心した。
「試験内容は簡単だ。私を倒すか、認めさせろ」
「認めさせる?」
「そう。負けても私を納得させれたなら合格にしてやる」
……ふむ。試験内容次第でも合否が判断されるのか。
「準備はいいか?」
「いつでも」
ベアトリクスは大剣を構えて、俺はリボルバーいつでも抜ける様に構えた。
「それでは、試験を開始します。はじめ!」
審判を買って出た受付嬢の合図とともに、試験が始まった。
◇
「はじめ!」
合図の瞬間、リボルバーを抜いて腰だめに撃つ。
ファストドロウと言われる技術だ。
バンッ!
「うお!?」
弾丸は足を狙ったが、大剣で防がれた。
嘘だろ!? 普通は目で追える速度じゃないぞ!
「へーえ、面白い武器を持ってんじゃない!」
「普通は防げるもんじゃないんですけどね!」
「そいつは残念だったね。次はこっちから行くよ!」
ベアトリクスは一瞬で間を詰めてきた。
「速っ!」
振り下ろされた大剣を間一髪で横に飛んで避け、その瞬間に発砲。
バンッ!
「うぐっ!」
弾丸は鎧が付いてない左腕に当たり貫通。ベアトリクスは呻き声をあげた。
俺は後方に走り、間合いをとりながらさらに追い討ちをかける。
バンバンバンバンバンバンッ!
腕や足を狙いながら連発するが、
「甘いよ!」
大剣を盾にしてことごとく防がれた。
でも、これで左腕は使えない。と思ったが、
「傷が……」
左腕の傷が塞がっていってた。
「やるじゃないか! 私のギフト『再生』を試験で使うなんて初めてだよ!」
「そりゃあどうも。これで認めてもらえますか?」
「いいやまだだ! 続けるぞ!」
ベアトリクスは再び両手で大剣を構えて突進してきた。
俺は後ろに下がりつつリロード。ベアトリクスに銃口を向けるが、
「おっと!」
ベアトリクスは左右にジグザグ動きながらこっちに向かって来た。
「そいつの原理は分かったよ! 連続で射る矢のようなもんだろ!」
この人対応が早すぎる! これじゃ射線が取れない。
「おらおらおら!!」
結局間を詰められて、連続で放たれる斬撃をかわす。
バンッ!
斬撃をかいくぐり、隙を見て撃つが、
「ちっ!」
金属鎧を貫通して太ももに当たるが、鎧で威力が軽減されたせいか、ダメージがほとんど無さそうで、動きが止まる事はなかった。
やっぱり鎧が無い場所を狙って撃つしかないか。
しかも重そうな大剣を振り回しているのに、動きが速いしまったく疲れるそぶりを見せない。どんなスタミナしてんだ。
「避けるのは上手いね! だがどうした! もうおしまいか?」
「なんの!」
大振りの一撃をかわして後ろに飛ぼうとしたが、
「かかったな」
どんっと、背中に何かがぶつかった。
しまった! いつの間にか訓練場の角隅にまで追い込まれた。この人、戦い方がうまい!
「終わりだ」
ベアトリクスが斬りかかる。よける事もできない。
だから、俺は奥の手を使う事にした。
一瞬の隙、斬りかかるタイミングで銃口を向ける。
ドォン!!
「な!?」
赤い光弾が、大剣を根元から砕いた。
俺のギフト『貫通』が大剣を砕いたのだ。
バンバンバンバンッ!
「がぁっ!?」
大剣が砕け、動きが止まった隙を突いて肌が露出している両腕両足に発砲。ベアトリクスは仰向けに倒れた。
「はあ、はあ、はあ……これで合格ですか」
息は絶え絶えだったが、ベアトリクスの顔に向けて銃口を突きつけて言った。
「ああ……合格だよ」
「そこまで!」
ベアトリクスが合格を言った所で受付嬢が試験終了を宣言した。
次回「冒険者」