4話 竜人
「これは見つからない訳ね」
レンが崖下の道を覗きながらポツリと溢す。
「うわ怖っ!」
「ひえー」
ロゼとアウルムも一緒に見るが、崖下の何処までも続く……青い海? に恐怖心があるらしい。声を上げて引き下がった。
「それでどうする? 7層の道もわかった事だし引き返す?」
「うーん……」
レンの言葉に俺は考える。
個人的には行きたいが、塔を見つけるために全員歩き回って疲労もあるだろうし、コンディションも考えるとここで野営したい。しかしワイバーンの群れがいる6層ではおちおちできない。
かと言って5層に戻って野営するのも手間だしなぁ。
「みんな――」
どうしようか聞こうとして振り返ったら……皆、強い目で俺を見ていた。
……全員の意思は決まっているみたいだ。
「行こう」
「ええ」
「そうだな」
「賛成です」
「ワン!」
「「「「はい!」」」」
「了解っす!」
「ああ!」
全員が強く頷き、俺達は崖を降りて7層に続く道を歩き始めた。
「ここが7層の入り口……」
浮島をとぐろを巻くように螺旋状に続く道を降りて行き、浮島の一番下にあたる場所に着くとそこは広場になって中央に……扉があった。
扉は金属なのか石なのか、はたまた木なのか、材質は分からず取っ手も付いていて、大きさは3mはある。
なんでここに扉があるか疑問だが、ダンジョンだから俺達の常識が通じないのが身を持って分かるな。
「転移が付与された扉だろうな」
「だな……これ持ち帰ったら7層に簡単に行けないか?」
ロゼがいい考えだと言わんばかりに言う。
「無理だろ。付与するタイプは固定しないと空間が捻じ曲がって何処に通じるか分からない」
「仮に持ち帰れたとしても色々な所から反感がくるわよ」
「そうか……」
マルグリットとレンがロゼの提案を却下して、ロゼが残念がる。
「探索に近道は無いって事か……全員、準備はいいか?」
俺はドアの取っ手に手を掛けて、全員に聞く。
「じゃあ、行こう!」
全員が頷くのを見た後扉を開けようとした時。
「――ワン!!」
「――全員! 伏せろ!」
グレイの咆哮と直感で咄嗟に全員に叫ぶ。
誰も俺の言葉に疑問をもたず地面に伏せると、俺達が立っていた付近に黒い影が突っ込む。
黒い影は俺達の少し離れた地面に突っ込み、土煙を上げる。
ドォン!! ドォン!!
俺は土煙の中央に『貫通』を使って撃つ。
だが。
外したか効かなかったのか分からないが、土煙が吹き飛び、黒い影が顕になる。
見た目は6層の竜人型のモンスターだが、大きさは5mあり翼が生えている。そして手には突撃槍。
ランスを使って地面に突撃したのにも関わらず、突撃槍に傷一つない。おそらくダンジョンウエポンだ。
見た目といいダンジョンウエポンといい、俺達が遭遇してきたモンスターの特徴に当てはまるのは1つしかない。
「特殊モンスターっ!」
7層に入る前に厄介なモンスターと出会ってしまった。
「あれが特殊モンスターだと!?」
「ああ、間違いない」
「――面白い!」
初めて見る特殊モンスターにマルグリットは戦慄するが、流石戦闘好き。凶暴な笑みを隠さずに特殊モンスターの前に立つ。
「私とアイ、マイ、ミイは扉の陰に! アイ、マイは隙あらばギフトで攻撃して! メイは『鼓舞』を! グレイは私達の護衛! バンとエレ、マルグリットは攻撃! ロゼとアウルムは援護を!」
レンの指示どおり動く俺達の行動を特殊モンスターは気にもせず、翼を翻して上空に飛び上がる。
俺達の上空を旋回する特殊モンスター。
そうか! 上空から突撃するのがコイツの戦闘スタイルか。
普通の冒険者なら攻撃が届かず苦戦するだろうが、こっちは空戦を得意とする面子がいる。
「空はまかせるっす!」
「無茶するなよ!」
エレは『浮遊』で泳ぐように空を駆け、特殊モンスターに肉薄。
「おりゃあ!」
エレと特殊モンスターは上空を駆けながらお互いに攻撃する。
「私も!」
マルグリットも『転移』を連続で使いエレを援護。アイ、マイも隙あらばギフトで牽制しているが、どれも決め手に欠ける。
ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!!
俺も地上から『貫通』で撃つが、悉く避けられてしまう。
「ちっ――レン! 核石をくれ!」
「分かったわ!」
俺の意図を察してレンが背嚢から核石を出して俺に渡す。
核石を左腕の篭手に吸収し、黒白の粒子が噴出。俺は粒子を翼状にして背中に纏って空に向かって翼から粒子を噴出させて特殊モンスターに向かう。
「どうだ?」
「厄介っすね……」
俺はエレに近づき、状況を聞く。
特殊モンスターはマルグリットの連続『転移』で翻弄されているが、いずれマルグリットの体力が底を尽きてしまう。
「ははははは!」
……当の本人は楽しそうに戦っているが。
「強いし素早いし硬いし、こっちの攻撃が通じないっす」
「分かった。俺が攻勢に出るからエレは援護を」
「了解っす!」
俺は翼から粒子のフレアを噴出し特殊モンスターに向かって飛ぶ。
ドォン!! ドォン!!
俺は『貫通』を使い撃つが、特殊モンスターは避ける。
俺は飛びながらリロードして特殊モンスターに近づく。
「バン!」
マルグリットが『転移』で俺にしがみ付き、バランスを一瞬崩しかけるが粒子のフレアを操作して整える。
「どうしよう!? あいつ強いぞ!」
マルグリットはハァハァと息を切らしているがハイになっているのか、恍惚の笑みを浮かべながらギラギラした目をしていた。
「交代だ! 俺がやる!」
「そんな!?」
マルグリットは嫌そうな声を出すが、俺はエレにマルグリットを投げて特殊モンスターに肉薄する。
俺は銃口を特殊モンスターに向けるが、ジグザグに動き射線が取れない。特殊モンスターの方も突撃槍を俺に向けるがそうはさせじと軌道を変える。
俺と特殊モンスターとのドッグファイトは続くが、核石で飛んでいる俺はいずれエネルギー切れを起こす。早く決着を着けたい。
そこで俺はランスの切っ先が向けられた瞬間、特殊モンスターに向かって突撃する。
特殊モンスターも全速力で突撃槍で攻撃。
俺はランスの攻撃を紙一重で避けるが、粒子の翼に当たり片翼が霧散。航空能力が失われる。
俺は残った片翼を茨状にして突撃槍にしがみ付き、銃口を特殊モンスターに向ける。
ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!!
『貫通』でありったけ撃ち特殊モンスターの頭を吹き飛ばし上半身を穴だらけにするが、それでもモンスターは動き続ける。
「どんだけタフだよ!?」
もう生物の域を超えてるぞ!?
リロードしようにもこう暴れられたら何も出来ない。
そんな時エレがハルバートを特殊モンスターに突き刺し、特殊モンスターの動きが止まる。
そしてようやく、黒い霧になって消え突撃槍とひと抱えはある大きさの核石だけが残った。
俺は粒子の翼を再展開して突撃槍を掴み、エレは核石を回収して広場に向かって飛ぶ。
「うおおおお!?」
広場に着くギリギリの所で籠手のエネルギーが切れて粒子が四散。俺は慣性の法則に逆らえず地面をスライディングしながら着陸した。
「大丈夫!?」
「いてててて……ああ。何とか」
レンが心配して俺に駆け寄り、俺は手を挙げて返答した。
最後は格好つかなかったが大した怪我も無く勝てた。
「あー疲れたっす」
「もう少し戦いたかった……」
一緒に戻ってきたエレは疲労でその場に座り込み、マルグリットは消化不良みたいだ。
「ここはダンジョン。個人プレーしてたらあっさり死ぬわよ」
「それを言われるとそうだが……」
「適材適所よ。そもそもーー」
マルグリットにレンが説教し、マルグリットは反論しようとするが一蹴されてた。
「まあまあ、全員大きな怪我もなくてよかったじゃないか」
レンの説教が長くなりそうだったので間に入って話を遮る。
「バンっ!」
「はぁーまったく……」
マルグリットも説教が長くなると感じたらしい。止めに入った俺を感激した目で見て、レンは呆れていた。
「バンは甘いわ」
「そう言わずに、ここはダンジョンだ。説教は後で」
「……それもそうね」
俺の言い分にレンは理解しても納得出来ない感じだったが、引き下がってくれた。
「ギルマス、リーダー、これどうするっすか?」
エレが一抱えもする核石を持ち上げて俺達に聞くが……どうしろと?
「しかしにデカいな」
「ああここまで大きな核石は私も初めてだ」
領主の娘でもあるマルグリットもこの大きさは初めてらしい。
「でも『大増殖』の特殊モンスターの核石よりかは小さいな」
「アレは例外だろ」
あのスライムはモンスターも食いながら大きくなっていたみたいだし。核石も大きくなったんだろう。
結局核石とランスはレンの『収納』で持ち帰る事にした。
「ギリギリだったわ」
レンが言うには『収納』を付与した背嚢はもうパンパンだそうだ。
「もっと大きなリュックを買うべきかしらね」
「今後の事も考えるとそれも有りだな」
今後の事を考えるのは後にして、取り敢えず。
「改めて、どうする?」
全員が7層の扉を見つめる。
「覗くだけで覗くか?」
「正直もう帰りたいっす」
「……それもそうだな」
疲労が残るエレとマルグリットは帰還を希望する。
「休憩してから入るのは?」
「ここまで来たら入るのも手ですね」
比較的余裕のある残りのメンバーは入る事を提案する。
「レンはどうする?」
「……そうね。休憩してから帰還しましょう。リュックも限界だし、アタッカーも疲労があるわ」
「そうだな……俺もレンの提案に賛成だが、皆はどうだ?」
「レンとバンがそう言うなら、異論はない」
「私も」
「「「「分かりました」」」」
全員が賛成した事で今回の探索はここで終了。扉の前で休憩してからダンジョンから帰還した。
次回「先輩」




