1話 ダンジョン都市フォルト
2章の始まりです
列車に揺られる事半日。
これといったトラブルも無く順調に列車での旅は続き、4つの駅を通過して、日が傾きかけた時、
「バン! 見えて来た!」
「え、俺にも見せて」
少し前に目覚めたカナが窓を覗いて言ってきたので、俺も車窓から覗きこむと、大きな城壁に囲まれている都市が見えた。
「あれが『フォルト』か。結構デカいな」
「おー大きいね」
あの都市に、ダンジョンがあるのか。
「……いよいよか」
「ん?」
「ああいや、あそこから始まるんだな、て思って」
「うん、がんばって。記憶戻るといいね」
「ああ。ありがとう」
やがて列車は速度を落としつつ城壁のトンネルを抜けて、駅のホームに着いた。
駅のホームは村の木造と違い、柱から床まで頑丈そうなな石造りでできている。
「んー。やっと着いた」
他の冒険者達と一緒にホームに降り立ち背伸びをする。ずっと座りっぱなしだったから体がカチコチだ。
懐中時計を見ると針は5時を差していた。
「急いで女将さんに教えてもらった宿を探さないと」
「『日溜まり亭』だっけ?」
実は一昨日、宿泊延長時に『フォルト』に行くと伝えたら女将さんの妹の旦那さんが経営している宿があると紹介してくれて、地図も貰った。
駅のホームを出て改札口の駅員さんに切符を渡して駅を出る。
「おおー!」
街並みを見てカナは仰天していた。
ココ村と違い、建物はレンガ積みでできていてあちらこちらの建物の屋根の煙突から煙が出ている。道路も舗装されており歩道と車道に分かれて蒸気自動車が何台も走り、街灯が等間隔に立ち並んでいた。
歩道は冒険者らしき武器を持った人や鎧を着ている人だけじゃなく、ファンタジーらしく耳が長い人や獣耳や角が生えている人、下半身が馬の様になっている人等様々な人種が歩いていた。
蒸気機関があると言っても、勝手に中世に近い世界だと思っていたが、街並みはスチームパンクに近い。大きな都市は思ったより文明は発展しているようだ。
「バン! 街見て回ろうよ!」
「気持ちは分かるが、まずは『日溜まり亭』に行こうな」
「えー」
興奮して街を探検したいカナを宥めて、地図を見ながら『日溜まり亭』を目指す。
大通りを真っ直ぐ行ってから路地に入り、何度か迷いながら暗くなる前にようやく太陽の描かれた絵の下に『日溜まり亭』と書かれた看板を見つけた。
外見はこじんまりしているが見た目は綺麗だ。女将さんには悪いが薄暗い路地を歩いているうちに大丈夫かと心配したが安心した。
「こんばんはー」
挨拶しながら扉を開けるとドアに付いていたベルが鳴り、カランカランと玄関に鳴り響く
「いらっしゃい!」
奥から『木漏れ日亭』の女将さんに似た30代程の赤毛の女性が出てきた。
「ココ村の『木漏れ日亭』のアンナさんとメイナさんの紹介で来たんですが、宿泊できますか?」
「まあ、姉と姪っ子の!? うれしいねぇ。2人は元気にしていたかい?」
「はい。見る限り元気でやっていました」
「そうかいそうかい……あ、話が逸れたね。宿泊はできるよ。二人部屋でいいかい?」
「はい。二人部屋で10日お願いします。延長するかもしれませんが」
「いいよいいよ! むしろありがたいくらいだ! 10日なら朝昼夕食風呂付きで銀貨7枚と大銅貨9枚だよ。悪いけど、今日の夕食は出す分がもう終わっちまったから外で食べてね。大通りに出れば屋台や酒場があるから」
「分かりました」
俺は財布から金貨1枚出しておつりで銀貨2枚と大銅貨1枚もらう。
これで残りの所持金は金貨4枚、銀貨6枚、大銅貨7枚、小銅貨2枚だ。早く冒険者になって稼がないと。
「毎度! 部屋に案内するから付いておいで」
女将さんに連れられて、2階の階段を上がってすぐある部屋に案内された。
「これが鍵ね。私は女将のカンナだよ。朝食は朝7時から9時までに1階の食堂に来な」
「ありがとうございます。しばらくお世話になります。ところでお風呂はどこにありますか?」
「風呂は1階の奥にあるよ。使うとき従業員にいいな。それじゃごゆっくりー」
鍵をもらって女将さんが離れた後、鍵を開けて中に入る。中は2つのベッドの間に机と椅子が2つあり、壁に時計が立て掛けてありクローゼットもある広い部屋だ。
「とりあえず荷物を片付けよう」
「うん」
と言っても荷物をクローゼットに入れるだけだが。
「飯を食いに行くついでに軽く街を見回るか」
「わーい!」
嬉しそうに万歳するカナと部屋を出て施錠した後、宿を出て街に出る。
大通りに出ると街灯が灯り夜道を明るく照らして、夜になったせいか歩道には屋台が並んでいた。
屋台を見て回り、肉の串焼きや肉まんに似た饅頭、揚げ物等歩く度に屋台で買い、食べ歩きをすることにした。
「モグモグモグ!」
俺は3件目のスープで満腹になったが、カナはまだまだ食べるき満々だ。次何食べようか屋台を物色している。
相変わらずよく食べるな。どこに入ってるんだろう? まあ、いっぱい食べて大きくなれよ。
「ごちそうさま」
カナは9件目のフルーツたっぷりのクレープを食べてようやく満足したので宿に戻る。
冒険者協会が何処にあるか食べ歩きがてら見回ったけど、よく分からなかったな。明日女将さんに聞いてみるか。
風呂に入って夜も更けたし、カナも眠そうなので眠ることにした。
◇
翌朝。
「ふああ~~」
よく寝た。連日の旅の疲れが出てきたのだろうか?
「……ん?」
なんだ?
目が覚めたら、ベッドの横が膨らんでいて、なんか動いてるし、なんだか温かい。
……もしかして。
ぺろっ、と掛布団を捲ってみる。
「……やっぱり」
布団に潜り込んでいたカナが身体に密着して、すぅすぅと寝息を立てていた。
何時の間に布団に入り込んだんだ? 気付かなかった。
「おーい、カナー、起きろー」
寝ているのを起こすのは可哀想だが、肩を揺さぶって起こしに掛かる。
「んん~……おはよう」
カナは目を擦りながら目を覚ました。まだ寝ぼけているみたいだが。
「ああおはよう。早速で悪いんだが…」
「ん~?」
「なんで俺のベッドに入っていたんだ?」
「だって、寒かったもん」
「もんって……それなら毛布を出せばよかったじゃん」
「ん~……でも面倒くさかったし、こっちが暖かいから」
そう言って、カナは俺に寄り添って腕に額をグリグリ押し当ててきた。
「はぁ……しょうがねぇなー」
俺は諦めて、カナの頭をナデナデしていたらやがて目が覚めたのか、
「……あ!」
カナは顔を赤らめて慌てて離れた。
「ははは。可愛いものが見れた」
「もー!」
カナは怒っている様に見せているが照れているだけなのが丸分かりだ。
「悪い悪い。ほら、もう朝飯の時間だ」
「むー」
むくれるカナと着替えて1階の食堂に向かい朝飯を食べる。
さすが『木漏れ日亭』の女将さんが薦めるだけある。朝食はパンとスープ、ベーコンを焼いたものだがどれもうまい。
「モグモグ!」
カナも機嫌が戻って朝飯に夢中だ。
朝飯を食べ終えて、食器の片付けをしている従業員に話を冒険者協会の場所について聞いた。
話を聞くと、大通り出たら協会行きのバスがあるらしい。バス停があるから探して乗ればいいとの事だった。ちなみにこの宿から歩くと1時間は掛かるらしい。それならバスに乗る。
従業員さんに礼を言って、部屋で装備の確認をして宿を出るまではいいが……。
「……ええと、付いてくるの?」
「うん」
カナが付いてくる気満々だった。
「街は散策しないし、面白い事もないと思うよ」
「へいき」
「……なにがあるか分からないし、絡まれるかもしれないし、危険かもよ?」
「だいじょうぶ」
あ、これ何を言っても無駄なパターンだ。この子にこんな頑固な一面があったんだな。
「はあ、分かったよ」
俺は諦めて、カナと一緒に大通りに向かって歩き出した。
次回「冒険者協会」