5話 レント・ウルバン
ウルバン領新領主、レント・ウルバンは執務室で書類の山に埋もれていた。
父である前領主の引継ぎも無く、父のやらかしや横暴な手口の証拠等が見つかり内々に処理、エルド領との内乱の危機を避ける為ダンジョンの所有権の折衷案等の話し合い、『ディアール』に新しい駅の建造等で忙殺されていた。
まだ40歳だがここ最近のストレスで一気に老け、髪の毛も抜けてる気がする。
中間管理職を思わせる中年男性は、今回はストレス発散も兼ねて商隊を招き、珍しい物やかの有名なロガーティア殿の加工した核石を衝動買いしていくらか満足した時だった。
コンコン
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのは愛娘のマルグリットと先ほども見たロガーティア殿、そして白いエルフの少女と諦めた目をした少年だった。
「父上。報告があります」
こういう時の娘は碌な話をしない。
「……なんだ?」
「私、この少年と結婚しようと思います」
ほら、やっぱり碌な事じゃなかった。
「駄目だ」
「何故です?」
「お前は領主の跡取りだぞ。どこぞの馬の骨とも知らぬ男と結婚させるわけにはいかんだろ」
レントの主張は正しい。
実際、紹介された少年もウンウンと頷いていた。
それを見たレントは察した。
「ああ……娘に巻き込まれたんだなぁ」っと。
「馬の骨ではありません」
娘が反論する。
「この少年。バンは祖父が担ぎ上げた『巨獣殺し』の英雄です」
「なに!?」
この少年がか!?
父がやらかした案件でも最悪の部類に入る被害者の少年が娘と結婚だと?
「実際、祖父のした事の謝罪をすると言っていたではないですか」
「それと結婚とは話が違うと思うが……」
私、間違った事言ってないよな?
「バンはギフト持ちです。私がバンと結婚して謝罪の代わりになる。ウルバン領の後継者は男でもギフト持ちの可能性がある。どちらもいい事づくめではありませんか」
「それはそうだが……」
確かにギフト持ちは貴族でも箔がつく。男なら尚更だ。
「と言う訳で、私は結婚してバンに付いて行き、彼が所属するギルド『魂の解放者』に入ろうと思います」
「冒険者になるつもりか!?」
バン少年がここに留まるならまだ知らず、『フォルト』でダンジョン探索するつもりか!?
「何か不都合でも?」
「あるに決まっている! お前は私の娘だぞ!? そんな危ないことさせる訳にはいかないだろ!」
「しかしバンには目的があってダンジョンを攻略せねばならないのです」
「目的? 金ならやる。結婚も認めよう。だからここに残ってくれ」
私はバンに懇願するが。
「……すみません。お金じゃないんです。どうかマルグリット様の結婚を諦めさせてください」
バンは悟った目で私に懇願した。
「……娘がすまん」
「……いえ」
お互い何かシンパシーを感じ、同情を禁じえなかった。
「旦那様。私は諦めんぞ?」
あ、これは何を言っても駄目なやつだ。
私は早々に娘の事について諦めた。
「……所で、後ろのエルフの2人は? 1人はロガーティア殿だと知っているが?」
私は話を切り替えて、2人のエルフについて聞く。
「初めまして。『白薔薇』のギルドマスターのミリアです」
そう自己紹介すると、優雅に一礼する。
なんと、この少女が3大ギルドの一角のギルドマスターだと。
「この2人もバンの妻と夫です」
「……は?」
妻と夫?
「なに言ってるんだ? 結婚するのはマルグリットでは無いのか?」
「ええ。私と3人で夫婦になります」
「……娘よ。頭は大丈夫か?」
「父上、酷い事言いますね」
言いたくもなるわ。幾ら結婚に寛容だからってそれはないだろ?
「お前は多夫多妻でいいのか?」
「違います一夫一夫二妻です」
もう娘が何を言っているのか分からない。いや、分かりたくない。
「つまり……ロガーティア殿もバン少年と結婚すると?」
「そうですじゃ」
ロガーティア殿は少女の様に笑顔でバン少年の腕を組んだ。
バン少年は死んだ目をしていたが。
ロガーティア殿は見た目は可憐な美少女だが、実際は男だ。
そっちの気があるならいざ知らず、バン少年を見るとその気は無さそうだが……。
「……娘よ。それでいいのか? 自分の将来をもっと考えろ」
私は娘を諌めるが、
「いいえ、もう決めた事です」
娘の決意は揺るがなかった。
「……分かった。好きにしなさい。ただし付き人をつけるからな」
実際、娘の行動力は計り知れない。何をしでかすか分からないから監視が必要だ。
「分かりました……ではこれで」
マルグリットはバン少年を引きずりながら部屋を出る。
バン少年の助けを求める目を見るが、何も出来ず目を逸らした。
「……胃が痛い」
折角領主になって落ち着いてきたのに、また胃薬の量が増える一方だ。
せめてバン少年の奮闘に期待しよう。
◇
「なんとかなったな!」
なんともなってねえよ!!
貴賓室に戻って意気揚々と喋るマルグリットに怒鳴りたいが、ぐっと我慢した。
「本当に冒険者になるつもりですか?」
「ああ。あと敬語はいらないぞ旦那様」
いや、結婚する気無いんだけど……もう、ここまで来たら無理か。
俺は抵抗するのを諦めた。もうこのまま流れに乗ってしまえ。
「心配するな。私が強いのは知っているだろ」
「まあそうだけど」
ギフト無しの戦いとはいえ、かなり苦戦したしな。
「使わなかったが、私もギフト持ちだ」
「あ、そうだったんだ。どんなギフトか聞いても?」
「いいぞ。私のギフトは『転移』だ」
転移? 瞬間移動か!
「まあ、見てな」
すると一瞬で前にいたマルグリットの姿が消え、俺の首を後ろから抱きしめていた。
豊満な胸の柔らかさを背中に感じる。
「どうだ。『転移』は私が見える範囲なら何処にだって移動できる」
「すごいけど……そろそろ離れてくれない?」
「なんだ? ムラムラしたか?」
「違う!」
エルフの幼馴染コンビの視線が怖いんだ!
「ずるい」
「ワシもじゃ!」
「おわっ!?」
2人も俺に抱きついてもみくちゃ状態になった。
そんな俺達をマルグリットに使えていたメイドは冷ややかに見ていた。
暫くもみくちゃににされたが、皆満足したのか俺から離れて今後の事を話した。
「あ、ワシ、バンの家に住むから」
「はい!?」
ティアが、俺の家に住むと宣言した。
「店はどうするんだ?」
「勿論続けるぞ。ただ家をバンの拠点に移すだけじゃ」
それでいいのか?
「なに、お主達が獲ってきた核石を少し融通してくれたらええ。そしたら店と加工師の仕事に専念できる」
ああ、核石を買うためにカジノとかでバイトしてたもんな。
「俺は別にいいけど、帰ってからみんなの話次第だ」
「うむ」
ティアは満足げに頷いた。どうやら断られる事が無いと確信しているだろう。
「私もバンの家に住もうかしら」
「それは無理だろ」
ミリアは『白薔薇』のギルドマスターだ。拠点を離れる訳にはいかない。
「ま、暫く通い妻ね。今後については考えがある」
そう言うとミリアはニヤリと笑った。
なんか悪巧みしそうだな。
「そういえば何時『フォルト』に帰るんだ?」
滞在期間まで聞いてなかった。
「2日後に『ティアール』を出る予定」
「さて、なら私は準備をするか」
マルグリットは本気で俺達に付いて行くつもりらしい。自室に戻って荷造りを始めるつもりだ。
「ああ、私の付き人もギルドに来るからよろしくな」
「誰が来るんだ?」
「ずっとそこにいるメイドのリンだ」
そう言うと、マルグリットは扉近くに待機していたメイドを紹介した。
「お嬢様専属使用人のリンです。今後ともよろしくお願いします」
そう言って綺麗にお辞儀をする。
「あと、リンはギフトは持ってないが、対人戦闘は得意から頼もしいぞ」
ノアもそうだけど、メイドに戦闘力はいるのか?
はあ……これからまた大変な事になりそうだ。
次回「結婚騒動」




