4話 マルグリット・ウルバン
そして冒頭に至る。
「ほらほら!」
マルグリットの攻撃はフェイントも入れて隙が無い。
なにより立ち回りが上手くて、俺が銃口を向けてもその場に居ない事がある。
「やりにくいな!」
俺は愚痴りながらマルグリットの間合いからバックステップで離れる。
「ここは俺の間合いだ!」
バンッ!
キンッ!
「マジか!?」
俺が撃った弾丸はマルグリットによって斬られて、真っ二つになった。
「軌道が単純な分、斬りやすいな!」
だからさっき、軌道を見るために肩への弾丸を無視したのか!
というか、ナチュラルに弾丸を見て斬るな!
バンバンッ!
俺は連射して距離を取る。
だが、
「ちっ」
弾丸は斬られてマルグリットは俺に肉薄する。
「はあ!」
マルグリットの大剣を紙一重で避けて、俺は左腕から短剣を抜き斬りつける。
「甘いよ!」
だが、短剣は空を斬り、マルグリットの大剣が俺の脳天を斬りつける。
俺はかろうじリボルバーで受け止めるが、マルグリットの全力の斬撃に耐え切れず、リボルバーは俺の手から離れ、明後日の方に飛んでいった。
俺は短剣を右手に持ち替え、逆手で持ってマルグリットに近づく。
「そう来なくっちゃな!」
マルグリットも大剣を振りかざし、俺に一撃を加えようとする。
その一閃を篭手で払い、短剣でマルグリットの腹を刺すが……。
「惜しかったね」
短剣は刺さらず、服で邪魔された。
「私の服は特別製でね、その程度の刃は通らないよ」
だろうな。そう思ったよ。
俺は短剣を捨てて、リボルバーを呼び寄せて零距離で腹を撃つ。
バンバンバンバンッ!
「うぐっ!?」
残りの弾丸を撃ち込み。流石に効いたか。マルグリットがその場に蹲り、動かなくなる。
俺はリロードをしたその時、訓練場の四隅に立てられた柱が光り、マルグリットが光に包まれた。
どうやら致命傷と判断され、遺物が動いたみたいだ。
「そこまで!」
ミリアが試合を止め、勝負が終わった。
「……ははは。負けたか」
マルグリットは仰向けになり空を見上げるが、どこか清々しい顔をしていた。
「流石英雄。私も修羅場を潜ってきたが、全力を出しても敵わなかったな」
「だから、英雄呼びは止めて下さい」
「なあ、最後のはなんだったんだ?」
「武器の能力です。ギフトじゃありません」
「そうか……私の装備も遺物だから文句は言えないな」
まったく効かなかったけどな。とひとりごちる。
「ちなみにどういった能力で?」
気になったので聞いて見た。
「剣は折れないし刃こぼれもしない、服は金属鎧より丈夫で勝手に直る」
……そんな装備で戦ってたのか。チートすぎだろ。
「それで、満足しましたか?」
「ああ。ギフト無しでもここまで強いとはな」
俺は手を取り、マルグリットを起こす。
「次は私」
武器欲しさにミリアがやる気満々だった。
「そうだな! ミリア嬢とも戦いたかった!」
そう言うと回復薬を飲んで体力を回復して、ミリアと闘いの準備をする。
元気だな。
「では行くぞ!」
「ええ」
こうしてミリアとマルグリットの試合が始まった。
俺の見立てでは、マルグリットの戦い方が獣の様に荒々しく本能に従って戦っているのに対して、ミリアの戦い方は蝶の様に舞、蜂の様に刺すと言った技量の戦い方だった。
勿論マルグリットも技術が無い訳ではないが、技量は圧倒的にミリアが上だが力はマルグリットの方が上だ。
正に力対技術の戦い。それ故に戦いは拮抗していた。
マルグリットの剣をミリアは避け、時には細剣で受け流し、逆にミリアの細剣をマルグリットが受け止めて迎撃する。
ミリアが以前使っていた氷は出してない事から、あれはミリアのギフトなのだろう。
そうして暫く斬り合いが続いたが、2人とも突然動きを止めた。
「これ以上は無駄だな」
「そうですね」
結局2人の戦いは、決着がつかず引き分けに終わった。
「いやー2人とも強かったな!」
俺達は貴賓室に連れられてマルグリットとお茶を飲んでいた。
流石領主の城。お茶も菓子も上質で美味い。
「さて、報酬の件だが……ミリア嬢は武器でいいんだな?」
「はい」
「バン君は?」
「ミリアの報酬の追加でいいですよ」
欲しい物もないし、ミリアに貸しを作っておくのもいいだろう。
「君は謙虚だな」
「そうでもないですよ?」
ミリアの報酬も打算だし。
俺はお茶を飲みながら菓子を頬張っていると、
「ふむ……バン君。なら私と結婚する気はないかね?」
「ぶっ!?」
思わぬ提案に、俺はお茶を吹き出した。
「な、何を急に!?」
「何、私は結婚するなら私より強く可愛い者じゃないと嫌だと常々思っていてね」
可愛いと言われても嬉しくない。
「どうだね、結婚したならこの私を好きにしていいんだぞ?」
マルグリットはその圧倒的な肢体をくねらせて誘惑してくる。
「マルグリット様。冗談も程々に」
ミリアが微笑みながらマルグリットを嗜めるが、目が笑ってない。
カナと同じ、底知れぬ恐怖を感じた。
「ミリア嬢、私は冗談を言ったつもりは無いのだが?」
マルグリットはミリアの眼を見ながら真剣に言った。
「将来ウルバン領の運営はどうするんです? 後継は貴女1人でしょう?」
「それはバンとの子供に任せる」
「騎士団を率いていると聞いた事がありますが?」
「そっちは実質副団長に任せているからな。私は戦闘特化だ」
俺に話を聞かずに勝手に話を進めないで欲しい。
「ミリア嬢。まさかバン君と交際をしているのかね?」
「い、いえ……そういう訳では……でも何時かは」
ミリアが顔を真っ赤にして否定する。最後は小声でよく聞こえなかったが。
「ふむ……」
そんなミリアを見ながらマルグリットは考え込む。
「それではこうしよう。バン君は私の夫。ミリア嬢は私の妻だ」
どうしてそうなる?
「なに、私は可愛く強い者が好きだ。男でも、女でもな。攻めも受けも好きだ」
とんでもない変態だぞこの令嬢。
「駄目です」
そうだ。ミリア言ってやれ。
「先約があるので」
「先約?」
そんな話聞いてないが?
「バンの妻は私。そしてティアがバンの夫」
2人でなんか企んでいると思っていたがそんな事考えていたのか!?
「ミリアさん!? そんな話聞いたこと無いんですが!?」
そもそも俺はノンケだ。
「カナという最大のライバルがいる以上、私達は結託した」
「そもそも俺はロリコンじゃない!」
「今はでしょ? 10年後は?」
10年後か……唯でさえ美少女なのに、将来は美女になるに違いない。
「将来は知らないけど、カナとは兄妹のような関係だ。いずれ兄離れするだろうよ」
「……やれやれ」
ミリアは呆れたように首を振った。
「バンは女心が分かってない」
「なるほど……鈍感か。苦労しそうだ」
ミリアは難癖をつけ、マルグリットはなんか納得していた。
なんか腹立つ。
「バン! 話は聞かせてもらったのじゃ!」
何処で聞いていたのか、ティアが部屋の扉を開けて入ってきた。
また話がややこしくなりそうだ。
「何処で聞いてたんだよ?」
「面白そうな話が扉越しから聞こえての。暫く聞き耳立てておったわ」
「誰だ?」
マルグリットがティアを見て聞く。
「初めまして、ワシは『ロガーティア武具店』の店主にして加工師のロガーティアと申します」
「ロガーティア? あの有名な加工師か!」
マルグリットはティアの自己紹介を聞いて驚いていた。
「有名なのか?」
俺は小声でミリアに聞く。
「ティアは加工師として革新的は開発をしているから有名。いい意味でも悪い意味でも」
ああ、そういえば家を爆発させたとか言ってたっけ。
「領主との商談は終わったのか?」
「そっちは恙無く終わったのじゃ……それで結婚の話じゃがワシをのけ者にしてもらっては困るのぉ」
いや、お前男だろ。
「そこでじゃ、ワシに提案があるのじゃが」
「言わなくていい」
どうせ碌な事にならないに決まっている。
「ここにいる全員でバンと結婚するのじゃ!」
「話を聞け!」
「カナはまだ幼いから結婚は無理じゃが、大人になったら結婚すると言ったら納得してくれるじゃろう」
俺には地獄の未来しか見えないが。
「そもそもマルグリット様の結婚はレント様は納得するのか?」
仮にも領主の令嬢だろ?
「そこは大丈夫だ。父は私の結婚は諦めていた」
父と娘の板ばさみ状態だった今の領主の苦労が目に浮かぶよ。
「そこに英雄のバンとの結婚だ。父は喜ぶだろうよ」
「それにマルグリット様との子供は男女問わずにギフト持ちになる可能性が高い」
「なんで?」
「一説にはギフト持ちは遺伝するらしいのじゃ」
それは知らなかった。
「そこ第二、第三婦人としてミリアとワシをいれてくれればよい」
ちゃっかり自分を入れるな。
「と言う訳で、早速結婚の準備を――」
「しないから!」
俺は断固拒否した。
「俺には目的があるの! 結婚なんて考えてない!」
「目的? なんだ?」
マルグリットが首を傾げて聞いてくる。
俺は記憶が無い事から全部マルグリットに話した。
「そうか。旦那様も苦労したんだな」
勝手に旦那呼びをしないで欲しい。
「そもそも、バンは結婚したくないのか?」
「それは……」
俺だって男だ。
こんな美女と美少女(1人男だが)達に求婚されるなんて嫌じゃない。
「結婚はまだ早いと思うし、俺には目的があるし……」
「それなら私も協力しよう」
協力? いい医者でも紹介してくれるのか?
「私も結婚してから『魂の解放者』に入ってダンジョンを攻略に参加しようじゃないか!」
マルグリットはワクワクしながら俺に言った。
……どうしてそうなる?
次回「レント・ウルバン」




