2話 護衛
護衛依頼の出発の日。
俺はバイクで協会の前に着いてゴーグルを外す。
この7日間はカナと行動して、数日で護衛依頼もかなり説得して渋々了承してくれた程には何時ものカナに戻ってくれた。
カナの件は気になるが、とりあえず今は護衛依頼に集中しよう。
「バンさーん! こっちです!」
カルラに先導され、バイクを押して敷地内に入ると、商隊は準備できているのだろう。街でよく見る車と大型トラックが3台並んでいた。
トラックは蒸気機関で動くだけで、見た目は地球のトラックと変わらないな。
後は護衛する冒険者達の車が5台。オープンカーみたいな外見だ。
「おはよう……スチームサイクルなんて珍しい」
オープンカーに乗っていた『白薔薇』のミリアが車から降りて俺に言う。
運転席と助手席にはベアトリクスとメルナが座って俺に手を振っていた。
「ああ、おはよう。そうなのか? アレト街に行ったときは結構見たけど」
俺もベアトリクス達に手を振り替えし、ミリアに尋ねる。
「まあ、小回りは聞くし、悪路にも強いけど、燃費がスチームカーより悪いから普及してない」
まあ、核石が車より小さいからな。
「一応、そのあたりは準備している」
核石の予備もちゃんと用意して、バイクの荷台に付けられた荷物に入っている。
「ならいいけど……今回は貴方1人?」
「ああ」
「そう……チャンス」
ミリアが何か呟いていたが、車のエンジン音でよく聞こえなかった。
「頼りにしてる」
「こっちも」
ミリアと挨拶を終えて、俺は編成を聞こうとカルラの方に向かう。
「おや、バンじゃないかえ?」
「ティア!?」
カルラの近くの車の窓からティアが顔を覗かせていた。
「ティアも行くのか?」
武具店の店主なのに?
「うむ。ワシは新作の加工した核石のお披露目じゃ」
ああ。そういえば加工師でもあったな。
「バンは護衛かの?」
「ああ。依頼されて」
「そうかそうか」
そう言ってティアが車から降りると、セーラー服に似た服装を俺にお披露目した。
「なんでセーラー服?」
「セーラー服とは何か知らんが、領主のいる街は港町じゃ。それに合わせたんじゃが」
そう言ってティアは俺に見せ付けるように体を回転させる。
「水夫のイメージしてある服じゃ。どうじゃ?」
ああ、そういえば海軍も似たような服を着るんだっけ。
「似合ってるよ」
「それは重畳」
俺の感想に満足したティアは俺のバイクに跨る。
「……何してんの?」
「何って、お主と一緒に行くんじゃが?」
「……車に乗れば?」
「嫌じゃ。暑くてむさ苦しい」
どうやら頑として俺と同乗する気らしい。
「何、スチームサイクルの運転はワシも出来る。邪魔にはならんぞ」
ティアは自信満々に言うが、
「長道になるぞ?」
「なに。領主の住む街までスチームカーで1日もあれば着く。その位なら大丈夫じゃ」
「……はあ。分かった」
結局俺が折れて、ティアとバイクに同乗する事になった。
◇
「この感じは久々じゃ!」
「しっかり掴まってろよ」
俺の腰に掴まりはしゃぐティアに注意をしながらバイクを走らせる。
編成は商人の乗った車とトラックを中心に。前に3台、後ろに2台、俺は最後尾の配置だ。
前の3台のうち1台は『白薔薇』がリーダーとして配置されている。
「むふふ」
俺に強く抱きしめながら。ティアはニヤニヤ笑う。
「どうした?」
「なに、まるででーとじゃと思ってな」
護衛依頼中だけど。
ま、本人が満足しているならいいか。
「気に入ったなら良かったよ」
「お! 遂にデレたか!?」
「デレてはない」
俺はスピードを上げて最後尾の車に近づく。
「異常は?」
「ない」
車に乗っていた女性に聞かれ、定時連絡をする。
「このまま平和に行けばいいんじゃが」
本当にな。
だが、いつもこういう時にトラブルは起きる。
先頭を走っていた車が突如スピードを落とした。
「はぁ」
これはトラブル確定だ。思わずため息をついてしまった。
「先に行って確認して来ます」
「分かったわ」
俺は後続の護衛に言ってバイクを走らせる。
すると案の定、トラック大の青い狼が道を塞ぎ威嚇していた。
『白薔薇』や他の冒険者達も車から降りて武器を構えている。
「どういう状況?」
「あれはスカイウルフじゃ」
俺はバイクから観察していた時、後ろからティアが答えてくれた。
「普段は空を駆け走り、臆病で人は襲わないんじゃが」
だから名前がスカイウルフか。
「悪獣か?」
「いや、悪獣を狩って食べるから討伐対象になっとらん……しかし、何故地上におるんじゃ?」
確かに、空にいるなら会う事のない筈だ。
「……ん?」
よく見ると、前足を怪我してるな。これが原因か。
俺達に襲ってこない所を見ると、どうやら他の何かにやられたらしい。
悪獣じゃないって話だし、うちのグレイを思い出させるから助けるとしよう。
俺はバイクから降りて、雑嚢から回復薬を出してスカイウルフに近づく。
「バン!? 危ないわよ!」
「大丈夫大丈夫」
警告するメルナを宥める。ミリア達他の冒険者は静観する様で何も言わない。
「グルルルルル!!」
スカイウルフは俺に威嚇するが気にする事なく、敵意が無いと示す様に両手を上に上げる。
するとスカイウルフも敵意が無い事が分かったのか、威嚇するのをやめた。
その隙に、俺は回復薬を怪我した前足にかける。
「ガウ?」
怪我が治ったスカイウルフは怪我していた前足を見て舐める。
「ワオーン!」
礼のつもりか、俺に遠吠えをしてスカイウルフは草原を走る。
するとスカイウルフが浮き始め、空に向かって走り去った。
「おー」
「感嘆しない!」
スカイウルフが去った空を見上げていたら、メルナから叱咤された。
「襲われたらどうするのよ!?」
「いや、人は襲わないって聞いたし」
「時と場合によるでしょ!」
まあ、そう言われるとそうだが。
「じゃあ、戦うか?」
「う……」
俺の言葉に、メルナは言葉を詰まらせる。
見て分かる。スカイウルフはそこらの悪獣よりかなり強い。
『白薔薇』でも苦戦しただろう。
「メルナ。もういい」
「ギルマス?」
俺達のやり取りを見ていたミリアが仲裁に入る。
「結果は誰も怪我も消耗もしていない。それで充分」
「そうですが……」
「先を急ぎましょ」
そう言い残しミリアは車に戻った。
「はぁ……バン、今回は良かったけど、あんな行動危ないから駄目よ」
メルナも俺に注意した後、ミリアの後に続いた。
「お主、度胸あるのぉ」
俺はバイクに戻るとティアの感心だか呆れだか分からない事を言われた。
「そうか?」
「スカイウルフは強い。それ故に冒険者達も手が出さずにおった」
「敵意はあっても殺意はなかったからな」
俺がスカイウルフを助けようと思ったのもその一因だ。
「流石冒険者。そんな事も分かるんか」
「まあ、何となく……そんな事より、俺達も行こう」
走り始めたトラックを見て、俺とティアもバイクに跨り出発した。
にしても気になるのは、強いと言われるスカイウルフに怪我をおわせたのはどんな存在なんだ?
次回「ディアール」




