9話 ケジメ
「ふあーあ」
俺は欠伸をしながら望遠鏡を覗く。
俺が今居るのは、領主の館に近く高い建物の屋根の上だった。
ここ数日、俺は寝そべって屋根と同じ色の布で姿を隠し、館を観察していた。
理由は、言わずもがなだ。
そうして望遠鏡で観察すること暫く、遂にチャンスが来た。
「来た」
領主が階段から降りていくのを窓から見えたのだ。
俺はライフルを構えて篭手から粒子を出して、銃身を伸ばす。
チャンスは1回。
領主が大広間に出た時だ。
「すー、はー」
俺はゆっくり深呼吸をして、呼吸を止めて狙いを定める。
領主が大広場の中央を歩いた瞬間。
バスッ
消音の腕輪で殆ど聞こえない銃声が鳴った。
銃弾は窓を割り、大広場のシャンデリアを固定している部分を壊す。
ガシャン!と大きな音ときゃああああ! と、館から叫び声が聞こえた。
「これで終わりだ」
ケジメはつけさせてもらった。
俺は素早くその場を離れ、屋根伝いを走り去った。
◇
こうして領主は事故死として新聞に大きく掲載された。
原因はシャンデリアを上げ下げする滑車の劣化と判断された。
そこに偶然領主が下にいて、巻き込まれた。
「……となっているが?」
「その通りなんでしょう?」
俺はマリナに呼び出され、事情聴取をされていた。
「事情聴取みたいな事していますが、それは衛兵とかの仕事でしょ?」
「領主が事故死として処理したんだ。衛兵ではこの件はこれで終わった」
なら、それでいいじゃん。
「それでここ数日、君を見なかったが?」
「領主に目を付けられて、逃げ回っていたんです」
既にカナの誘拐から始まった事の顛末は説明済だ。
「……まあいい、不運にも領主が事故死したことで色々変わった」
「それ、俺が聞くことあります?」
一冒険者が出来ることなんてなんも無いぞ。
「まあ聞け……まず領主だが、予想通り長男のレント様がなった」
「はあ」
「レント様は実の父親のやり方を嫌っていてな。『フォルト』の上層部も大きく人員変動があった」
これで協会もやりやすくなったとマリナも喜んだ。
「ダンジョンの所有権もエルド領と折半する事になって内乱の危機もなくなった」
「良かったじゃないですか」
「そして、君の所属するメンバーの誘拐等の実行計画等の証拠も見つかったそうだ。武器の量産計画もな。直々君に謝りに行くと言っておられた」
「……へ?」
「あと、君に言伝がある。『英雄に祭り上げた件とディアス・ウルバンの件、真に申し訳なかった。この謝礼は必ずする』っとだそうだ」
……正直、会いたくない。
「そう嫌な顔をするな。レント様は才色兼備で人望のある方だ」
そう言うが、俺は唯の冒険者だぞ?
「レント様が来たら連絡する。それまで何時も通りダンジョン探索をしてくれ」
「分かりました」
「私からは以上だ」
「それじゃあ俺から1つ質問が」
この際だ。俺は聞きたかった事を聞こうと思った。
「なんだ?」
「前領主の事、どう思ってました?」
「勿論、さっさと死ねだ」
マリナはとてもいい笑顔で言い放った。
「よう」
「お、来たか」
俺が来たのはガンツさんの鍛冶屋にお世話になっているフォルンだ。
「ちょっと無茶な使い方をしたから見てくれないか?」
俺はライフルをカウンターに載せて、フォルンに頼む。
「無茶な使い方って……何したんだよ?」
「まあちょっと」
俺は適当にはぐらかした。
「ま、見せてみろ……別にこれくらいなら問題ないぜ」
それは良かった。これで戦略の幅が広がるな。
「所で聞いたか? 領主の話」
「ああ。事故死したらしいな」
真相を知っているのは俺だけだから、慎重に答える。
「良かったじゃん。これでアレト街に帰れるぞ」
「それなんだがな……前も言った通り、このままここに居るよ」
「え、でも鉱石とか採りにいけないんじゃ?」
確かフォルンは自分でアシト山の鉱山で採ってたはず。
「実は……ここの親方とデキちゃって」
「……は?」
「親方と恋人になったんだ」
「えええええ!?」
なんと予想外な展開だ。
「アタイはガンツと一緒にこの店を切り盛りしていくって決めたんだ!」
「それは……おめでとう?」
結果的に良かったのか?
「と、言う訳でライフルのメンテナンスはここに来な!」
「分かった」
「ただいま」
「おかえり」
俺は家に帰り、カナが出迎える。
誘拐されてから暫くは、俺の傍を離れようとしなかった。
まあしょうがないか。実際怖い目にあったし。
「会長からなんで呼ばれたの?」
レンの質問に、俺はマリナとの会話を説明した。
「そう……これでやっと平穏な日々が戻ってて来たのね」
レンは胸を撫で下ろして言ったが、
「近々、新領主が挨拶に来るんだとさ」
「うへー」
ギルドメンバーも嫌な顔をした。
気持ちは分かる。
「もうトラブルは沢山よ」
「ここ暫く、トラブルだらけだったからな」
本当にな。
「特殊モンスターに巨獣討伐、悪獣討伐依頼に『大増殖』に領主と揉め事。色々あり過ぎました」
アウルムも遠い目をしながら呟いた。
「ま、いい事もあったし」
新たに仲間を加えてギルドも作ったし、『白薔薇』と同盟も組めた。フォルンという知己も得たし、何も悪い事ばかりではなかった。
「でも、これで一段落ついたし、のんびり出来るわね」
「フラグを立てるな」
レンの言葉に思わず突っ込んだ。
「フラグ?」
「いや、何でもない」
フラグの概念はないか。ま、異世界だし当たり前か。
ま、これでダンジョン探索に集中出来るだろう。
俺は今後の事を考えながら、仲間達との会話を楽しんだ。
6勝 完




