7話 出発
宿で迎えた初めての朝。
ベッドで寝れたこともあり、疲れは残っておらず目覚めもばっちりだ。
カーテンの隙間から覗く窓は日の光が漏れて、天気のいい清々しい朝だ。
隣のベッドを見るとカナはすでに起きており、着替えを済ませて身だしなみを整えていた。
「おはよう」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん。ばっちり」
俺も寝間着から着替えて、外套は着けずにガンベルトを巻き短剣を差す。
準備が終わったらベルの音が鳴ったので、朝食を食べに食堂に向かう。
「はいよ。朝食お待たせ!」
メイナさんが持ってきてくれた朝食はパンにベーコンエッグ、野菜のスープと定番だがいい香りが胃袋を刺激してくる。
いただきます。とふたりで朝食を食べる。
昨日も思ったが女将さんの飯はうまい。同じ材料でも他の料理人はこれ以上うまく作れないんじゃないのか?
そうやって朝食を食べ終わり、片付けに来たメイナさんに声をかけることにした。
「メイナさん。聞きたいことがあるんですが」
「ん、なにかな? 年齢? スリーサイズ? そういうのは早いんじゃないかなー」
この人、いつもこんな感じでおちゃらけるんだろうか?
「いやそういうのじゃなくて、ダンジョンのことです」
「ダンジョン? ……ああ、冒険者になりたいの?」
「はい。目的があって」
「ふーん……この近くなら『メキド』ダンジョンかな。3大ダンジョンの1つの」
「3大ダンジョン?」
「あ、知らなかったの? 3大ダンジョンは各地にあるダンジョンで最も大きいと言われる所よ。今発見されているのは『ディース』『ラウラ』そしてさっき言った『メキド』の3つだけ。どれも攻略されてないけど」
「そうなんですね。あと、ダンジョンを攻略したら願いが叶うっていう話は」
「あーそういう話もあるわね。それは最初のダンジョン攻略者が言ったって話だけど、本当なのやら……」
なるほど。少なくても信憑性はありそうだ。
「そうですか。あと冒険者になるのにどうすればいいですか? あと何か制限とかあります?」
「ええと、冒険者登録の為の協会があるわよ。確か年齢制限はなかったけど、試験はあったはずよ」
試験か……面倒なのじゃあないといいが。
「そうですか。参考になりました。それで『メキド』ダンジョンにはどう行ったらいいですか?」
「それなら列車の乗ったらいいわよ。詳しくは駅員さんに聞けば分かるはずだし」
「分かりました。ありがとうございます」
メイナさんにお礼を言って席を立つ。
「駅に行って聞いてみようか」
「うん」
一旦部屋に戻って外套を取りに行き、宿を出る。
昨日通った道を歩き続けてやがて木造の建物ー駅舎ーが見えてきた。
「おや、昨日もお会いしましたな」
駅舎に入り受付口に行くと、昨日お世話になった駅員さんが机で事務作業をしていた。
「昨日はありがとございました。今日は聞きたい事がありまして」
「はい、何でしょうか?」
「『メキド』ダンジョンに行きたいんですが、近くの駅は何処ですか?」
「ああ、それならダンジョン都市『フォルト』着の駅です。この駅から西行の列車に乗って5つ目の駅になります」
「ダンジョン都市?」
「ええ。ダンジョンは国に利益をもたらすと同時に危険な場所ですから、冒険者が来やすい様に都市が出来ているんです」
「なるほど。それで『フォルト』行きの列車はいつ来ますか?」
「2日後の朝8時に到着する予定です。この駅からなら半日で着きますよ」
「分かりました。それてじゃあ『フォルト』行の切符を買いたいんですが」
「はい。それなら2日後にまた来てください。料金は2人で金貨1枚になります」
1人銀貨5枚か、手持ちは大丈夫だけど結構高いな。
「そうですか。また2日後に来ます」
「はい、お待ちしてます」
駅員さんに挨拶して、またココ村に戻る事にした。
「明日1日空いたな。とりあえず『木漏れ日亭』の宿泊の延長をするとして、あと何しようか? カナはしたい事ある?」
差し迫って予定もないのでカナに何したいか聞いてみた。
「うーん……観光」
「観光?」
「うん。村を色々見てみたい」
観光か。確かにココ村を色々みて回るのもいいかもな。
「そうしようか。宿に戻ったらお勧めの場所を聞いてみよう」
「うん!」
そんな話をしながら足取り軽くココ村に戻る道を歩くのだった。
◇
2日後。
昨日はカナに連れられて村の観光をした。
メイナさんの勧めで花畑が綺麗な湖を案内してもらい、そこでカナと1日中遊んだり、ゆっくりしたりして過ごした。
そして今日。朝からココ村を出て駅で切符を買い、列車が来るのを待っている。
やがてポーと汽笛が鳴る音が聞こえてきた。
「来たみたいだな」
ホームから見えて来た列車の先頭は黒光する蒸気機関車に似た外見をして、上部に付いている煙突から煙が出ている。
「おー」
初めてみた列車にカナも興味津々でまじまじとこちらに来る列車をホームから身を乗り出して見ていた。
「ほら、危ないから後ろに下がって」
「はーい」
やがて列車はホームにゆっくり近づいて客車が目の前で止まった。
この駅で補給をするらしいので出発に少し時間がかかるらしい。
『フォルト』行きは半日かかるからしいから駅の購買でサンドイッチとカナの要望でクッキーみたいなお菓子を買い大銅貨2枚と小銅貨5枚支払って、客車に乗り込む。
客車の先頭は予約制の高級席らしいので後方に移動しながら空いてる席を探す。
席は満席とは言わないがそれなりに埋まっている。
流石ダンジョン都市行きの列車と行った所だろうか、冒険者なのだろう。大半が剣等の武器を持っていた。
冒険者達を観察しながら歩いていると、やっと空いている席を見つけたのでカナが窓際に座り、俺はその隣りに座る。
席に座り少し待っていると、補給が終わったのか駅員さんがホームに来て笛を吹くと、列車はゆっくりと動き始め発車しだした。
「すごいすごい!」
徐々加速していく列車の車窓から見えるめぐるましく変わっていく景色にカナは大興奮だ。
俺もカナの隣で少しだけ森や川等変わっていく景色を眺めたが、カナは飽きもせずにずっと車窓からの景色を眺めていたが、眠くなったのかウトウトし始めた。
まあ、朝早かったもんな。カナとしても昨夜汽車に乗れるからワクワクしてかなか眠らなかったし。
「眠いなら寝たら?」
「……うん」
本人は我慢していたが、限界がきたのか俺の太ももを枕にして眠り始めた。
「やれやれ」
カナを起こさないようにじっとしながら車窓の流れる景色を眺め続けた。
1章 完