8話 誘拐
冤罪事件があってから暫く。
俺達はダンジョンの4層を日帰りで探索しつつ、カナのワーカーの仕事を手伝いながら穏やかな日々を過ごしていた。
まだ6層には行ってない。
理由はまだウルバン領主が『フォルト』に滞在しているからだ。
長期遠征になると、今度は何をしでかすか分からないからな。
巨獣討伐や『大増殖』で手に入れた報酬はまだ充分にあるし、俺の記憶を戻すのも急ぎではない。
家のローンも払い終わってるし。
後、アシト山の依頼時に乗ったスチームサイクルが欲しかったので買った。
スチームサイクル――面倒だからバイクでいいや――は、回路でそれぞれ火と水の出る核石を使い蒸気機関で動く物だ。
定期的に核石の交換やメンテナンスは必要だが、俺は気に入っている。
何故大型車を買わなかったのかと怒られたが、自分の金で買ったので大目に見て欲しい。
そんな事をしながら日々を過ごしていると、事件が起きた。
「カナ、遅いな……」
ワーカーの仕事で薬草採取にグレイと行ったが夕方になっても帰ってこない。
本当は他のメンバーにも付いてって欲しかったが買出しがあり、本人の要望もあったのでグレイだけが護衛に付いた。
俺もライフルのメンテナンスで行けなかったが、グレイがいるから大丈夫だと思ったが。
……心配だ。協会に行ってこよう。
俺はバイクに乗って協会に行き、受付に聞いてみるとまだ帰って来てないとの事だった。
これは明らかにおかしい。
俺は一旦装備を取りに帰り、以前一緒に行った採取場所に向かう。
仲間達も行きたがっていたが、すれ違いの可能性もあるし、バイクで行くので残ってもらった。
だが、向かった採取場には数人の死体と、そして……。
「グレイ!?」
瀕死の状態のグレイが横たわっていた。
近づくとグレイが俺を見る。
良かった。意識はあるようだ。
俺は即座にグレイに回復薬を掛けて治療した。
「ウウ……」
するとグレイは眼を覚まし、起き上がろうとする。
「無理するな……何があった?」
「ワンワン」
「襲われてカナが攫われた!? 誰にだ!?」
「クーン」
グレイもそこまでは分からないらしい。
グレイが戦ったのだろう、死体を見る限りカタギには見えないが……装備が妙に揃って整ってるな。
もしかして……犯罪者に見せかけてた正規軍か?
とにかく答えが分からない以上、カナの捜索が第一だ。
「何処に行ったか分かるか?」
「ワン!」
よし、匂いで追える様だな。
「キツイかも知れないが、案内してくれないか?」
グレイには悪いが、カナが第一だ。
「ワン!」
グレイもそれが分かっているらしく、地面を嗅ぎながらカナの痕跡を追って歩き出し、俺もバイクを押して付いていった。
◇
「……本当にここか?」
「ワン!」
グレイの嗅覚だと、ここにカナが居るらしい。
だが……。
「ここ、領主の館だよな?」
グレイが辿り着いたのは、『フォルト』郊外の領主の館だった。
「あのクソジジイ」
とうとう、超えてはならない一線を越えてしまったらしい。
俺の怒りは頂点に達していた。
「だが、証拠が無い」
踏み込んでぶっ殺したいが、カナがここに居る証拠が無い以上、俺は手が出せなかった。
俺は物陰から様子を窺っていると、館の大きな門から車が出てきた。
「付いて行こう。グレイ、乗れ」
「ワン!」
俺はグレイをバイクに乗せ、車の後を追う。
そして車が着いたのは、俺達の拠点だった。
自分の家ながら、物陰で隠れていると、執事らしき人間が出迎えたレンに手紙を渡して、車に乗り込み元来た道を戻っていった。
俺は物陰から出て家に戻る。
「バン! 大変!」
レンが手紙を見たのだろう。俺に慌てて言ってくる。
「一部始終は見ていた。ウルバン領主からの手紙を見せてくれ」
俺はレンから手紙を受け取ると、簡単に言えばこう書かれていた。
『そちらの少女が野党に襲われていたので保護している。迎えに来い。保護した礼で銃をよこせ』
「ふざけやがって!!」
カナを人質のとりやがった!
野党だと? なんてマッチポンプだ。
俺は手紙をぐちゃぐちゃに丸めて地面に投げ捨てる。
「なにがあったの?」
俺はレン達に事のあらましを説明した。
「そう……どうするの?」
「カナは取り戻すそれは確定だ」
「じゃあ、銃を渡すのか」
「……それしかないだろ」
相手は権力者だ。俺には銃を渡す事しか方法が無い。
「そのあとはどうするんだ?」
「……それには、考えがある」
正直、上手くいくか判らないが。
俺は領主の館に行き、領主に面談を求める。
「来たか」
領主は十数人の武装した兵士の前に立ち、横でカナを捕まえている。
「カナを返せ」
俺は敬意を込めずに言った。
「ほう、まずは保護した礼を言ってもらわないとな」
こいつ!
「……今回は『魂の解放者』のメンバーを助けて頂き、ありがとうございました」
俺は棒読みで礼を言い、深々と礼をする。
「気持ちがこもっとらんが、まあ、いい。それでは誠意を見せてもらおうか」
「カナを解放するのが先だ」
「解放など、まるで私が攫ったみたいな言い方は止めて貰おうか」
領主は自分に罪はないと言いたげに胸高々に言い切った。
「言ったはずだ。まずは誠意を見せろと」
「……」
俺はホルスターからリボルバーを抜き、領主に見せる。
「……ライフルはどうした?」
「フォルンの工房に預けてある。後で取りに行くといい」
嘘だが。
「まあ、いいだろう。それではそれが本物か見せてみろ」
「どうやって?」
「そうだな…それではそこの壷を壊してもらおうか」
そう言って領主は壁際に飾ってある壷を指差す。
バンッ!
俺は壷にリボルバーを構えて、撃つ。
パリンと、壷は粉々に砕け散った。
その光景をみて、兵士達が動揺する。
「素晴らしい。これがあれば戦争で圧倒的優位に立てる!」
領主は割れた壷とリボルバーを見て興奮気味に言った。
「満足か?」
「ああ……それでは渡してもらおうか」
「同時だ」
「何?」
領主は怪訝そうに俺に聞く。
「カナが俺に走り出すのと同時に、俺もリボルバーを投げる」
「……ふん、いいだろう」
「それじゃあ、行くぞ…3、2、1、0!」
俺はカナが走り出すのを見た瞬間、リボルバーを放物線上に投げる。
「バン!」
カナが俺に抱きつき、領主がリボルバーをキャッチした。
「逃げるぞ!」
俺がカナに言い、
「やれ」
領主が兵士達に命令した。
俺はカナを担いで走り、バイクに乗って走り出す。
兵士も俺達を追って、車に乗り走り出した。
「これさえあれば……」
領主は兵士を見送った後、リボルバーをうっとりと眺めた。
これを量産すれば戦争の概念が変わる。私にも多大なる利益が出る。
後は秘密を知るものを処分すればいい。
領主はこれからの事を考えながら自室に戻ろうとした時、
「な!?」
リボルバーが光に包まれて突如として消えた。
「計画通り!」
俺は戻ってきたリボルバーを右手に握って構え、追っ手の車のタイヤに向けて撃つ。
パスッ
今は以前ティアから買った、消音の回路が刻まれた核石の腕輪を付けている。これで防音もばっちりだ。
車がバランスを崩し、横転。後続の車も巻き込んで大事故を起こした。
これで、周囲からはただの事故としか思われまい。
「バン!」
「もう大丈夫だ。怖かったよな」
「バンが来てくれたから平気! でもグレイが!」
「グレイも無事だ。大丈夫」
俺は背中に抱きつくカナを労いながら拠点に戻る。
「大丈夫だった!?」
「ああ。俺達は無事だ……カナを頼む」
門の前で待っていたレンにカナを預け、俺は家を出る。
「何処に行くの!?」
「少し行方を晦ます」
あのジジイは諦めない。断言できる。
「少しって……?」
「少しだ」
俺はそれだけ言ってその場を去った。
なに、ちょっとケジメを付けに行くだけだ。
次回「ケジメ」




