4話 フォルン
「頭痛い……」
「飲みすぎだ」
俺は朝から二日酔いのメンバーを介抱する。
「水、頂戴……」
「はいはい」
結局、泊まりではしゃいでいたミリアもこの調子だ。
今元気なのは俺とカナ、ノア、エレ、ティアの5人だけだ。
車で送迎してくれていた『白薔薇』のメンバーも打ち上げに参加していたので、彼女の回復次第でミリアは帰る予定だ。
ストップ! 飲酒運転!
「どうかした?」
「いや、なんでも」
俺はカナを誤魔化してミリアに水を持っていく。
「こんな姿のミリアを見たのは20年ぶりかのぉ」
流石エルフ。桁が違う。
「さて、ワシはそろそろ帰らせてもらうか」
メイド服からワンピース姿に着替えたティアが帰ると言い出した。
「送っていくよ」
「お、嬉しいこというのぅ……それじゃあ、お言葉に甘えて」
「カナ、ノア、エレそっちは頼む」
「ん」
「はい」
「了解です」
俺はティアを連れて家を出る。
「ふふふ……」
「ご機嫌だな」
上機嫌に笑うティアを見て、俺は尋ねる。
「それはそうじゃ。なんせバンとこうやってでーとしとるからの」
「デートじゃなくて送迎な」
「全く、お主はガードが固いのぉ」
ティアは口を尖らせておれにくっ付く。
「なあ、いまのワシ等、どう見られておるかの?」
「……友達だろ?」
同じ男だし。
「つれないのぅ……そこは嘘でも恋人と言うもんじゃ」
「て、言われてもなぁ」
まぁ外見は美少女だからな。誰も疑わないだろう。
「精々兄弟だろ?」
「人とエルフが兄妹な訳あるかい」
「そうだな……」
ティアに正論を言われ、俺は反論出来なかった。
「ほれ」
ティアが俺の腕に抱きついてくる。
男なのに、胸板の柔らかさが腕に伝わる。
「お、おい!?」
「核石をサービスしとるんじゃ、この位良いじゃろ?」
それを言われると、弱い。
何より、嫌悪感が全然ないのが困った。
「そうじゃ、帰りに屑核石を持っていけ」
「お、それは助かる」
ま、核石も貰えるなら黙ってティアの行動を受け入れるか。
こうして、俺達は腕を絡ませながら大通りを歩いた。
「またの〜」
「ああ」
ティアを送迎して家に帰る途中、意外な人物に出会った。
「フォルン?」
「お、バンじゃねーか!」
アレト街で鍛治師をしているフォルンが歩いていた。
「どうして『フォルト』に?」
普段、アレト街の鍛冶場から出る印象が無いが。
「ウルバン領主に呼ばれた帰りだ」
……また。あのクソジジイか。
「何の用事だったんだ?」
「リボルバーとライフルの製造法を教えるように偉そうに言われた」
あの領主、まだ諦めて無かったのか。
しかも、俺の行動を調べてフォルンに接触してやがる。
「勿論断ったがな!」
「それは大丈夫なのか?」
俺達は協会の保護があるから公に事を構えられないだろうが、フォルンはそうはいかないだろ。
「バンとの約束があったからな」
「それは……ありがと」
「まあ、領主から嫌がらせに最悪、工房の地上げを仄めかしてきやがったよ」
思ったより、最悪だ。
「ま、丁度良かったかも」
「何が?」
「親父の店を畳もうとも考えてな」
「な!?」
予想外の言葉に、俺は言葉を失う。
「いいのか?」
「ああ。親父が死んでから客も来ないし、工房も貸していただけだしな」
幸いギフトもあるし、と、なんか悲しそうに話す。
「と、言う訳で、新たな就職先を探さないとな」
どうやら、決心は固いらしい。
「……なら、冒険者は?」
フォルンがその気なら、ギルドに入れようと思った。
俺にも責任の一端があるし。
「アタイには無理だな」
「そうか」
と、なるとワーカーの仕事か、鍛冶場の仕事か。
「なら、一つ当てがあるぞ」
「……と、言うわけで.フォルンを雇ってくれないか?」
俺が尋ねたのは、以前ロゼと行ったガンツさんの工房だった。
「事情は分かったが……いいのか?」
「何か問題でも?」
フォルンは腕もいいし、ギフトもある。丁度いいと思うんだが。
「問題は儂の方だ。フォルンは鍛冶屋界隈では有名で、儂より腕がいいはずだ」
ああ、格上を雇うのに抵抗があると。
「アタイは構わないぜ!」
フォルンは堂々と胸を張って言い放った。
「そっちが良ければいいんだが……」
「それじゃあ親方、宜しくな!」
こうして、フォルンは暫くの間、ガンツの工房に雇われることになった。
「じゃあ早速」
俺はライフルをフォルンに渡し、メンテナンスを頼んだ。
「こりゃあ、随分使ったな」
「まあ、ここの所忙しかったし」
『大増殖』とか色々。
「定期的に掃除はしていたんだが」
「銃身が少し傷んでるな。ちょっと待ってろ」
フォルンはガンツから黒鋼を貰うと、『操錬』であっという間に直す。
「ほら、これでいいだろ」
「助かる」
「これがフォルンのギフトか。儂には真似出来んな」
ガンツはフォルトのギフトを見て感心していた。
「何、槌を振って武器を作っている親方の方が偉いよ」
フォルンは真面目な顔をしてガンツに言う。
「アタイは鍛治の才能は無かったが、ギフトがあった。ただズルしているだけだ」
フォルンは、鍛治に関してコンプレックスを抱いているみたいだ。
「……儂は槌を振るおうが、ギフトを使おうが、そこに職人の魂が入っているなら文句は言わん」
「親方……」
「お前さんはどうだ?」
「アタイは、たとえギフトで作った武器でも心を込めて作っているつもりだよ」
「なら、それで良い。胸を張れ! お前は立派な鍛治師だ」
「お、親方ー!」
フォルンは泣き出して親方に抱きつく。
なんか邪魔するのもアレだし、俺はメンテナンスの代金だけカウンターに置いて工房を出た。
◇
「遅かったね」
家に帰ってきて、カナの出迎えの第一声がそれだった。
声にそこ知れぬ怖さを感じる。
「あ、ああ……知り合いに会って」
「ふーん?」
まるっきり信じてない様子のカナに、俺は弁明する。
「ほら、アレト街出会った鍛治師のフォルンがこの街に来てて、話してたんだよ」
「……嘘は言ってないね」
カナ、こんな事でギフトを使うのをやめて。
「それより、他の面子は?」
「ミリアお姉ちゃんならさっき帰った」
どうやら、二日酔いは収まった様だな。
「他のお姉ちゃん等はまだ自分の部屋で寝ている」
「そうか」
これは今日は動くのは無理だな。
俺は談話室に行くと、丁度ノアとエレが話していた。
「バンさん、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま……みんなの様子は?」
「皆様各自部屋で休まれておられます」
「あれは今日は動くのは無理ですね」
そりゃあ朝まで飲んでたらな。
「2人共、休んだら?」
昨日の夜から働き詰めだし。
「では、お言葉に甘えて」
「……エレ?」
早速休もうと談話室を出るエレを、ノアが引き止める。
「ギルマスの許可を貰ったからいいじゃないですか! もうクタクタですよ!」
「……はあ、しょうがないですね」
ノアは溜め息をついてエレを解放した。
「ノアも遠慮せずに」
「……分かりました。では、失礼して」
こうしてノアとエレが部屋から出て、俺とカナだけになった。
「……折角だし、グレイの散歩もかねてさ何処か遊びに行こうか」
「わーい!」
俺とカナは家を出て、ついでにグレイの散歩も兼ねて街を見て回った。
次回「5層①」




