9話 エレ
今日は珍しく、ロゼと2人で出かけていた。
だだ、ロゼの武器の槍のメンテナンスに腕のいい鍛冶屋を尋ねるとの事だったので、俺も短剣の研ぎ直しを一緒にしようとついて来ただけだ。
「こうして2人で出掛けるのは初めてだな」
「そうだな。大体カナがいたからな」
そう、いつも出かける時はカナが一緒に付いてくる。
偶に監視されているみたいな視線を感じるのは気のせいだと思いたい。
そのカナはワーカーの仕事でノアとグレイで薬草採取の依頼を受けに行った。
俺はロゼに付いていくと言ったら、目の前ハイライトが消えて、
「信じてるよ?」
と、言われ、底しれぬ恐怖を感じたが。
「着いたぞ」
ロゼの案内の元着いた工房は、フォルンの工房を思い出させる。
「ジジイ、来たぞ」
「年上を敬まわんかい」
ロゼとお親しいのだろう、髭がすごい長い、ずんぐりむっくりの筋肉達磨のドワーフが出迎えた。
「そっちのガキは?」
「うちのギルマス」
「ほう……」
ドワーフのおじさんは俺を見定める様に見回す。
「儂はこの工房のガンツじゃ」
「初めまして、バンです」
「……こいつが噂の英雄か」
やっぱり、俺の事は知られているのね。
「で、今日は何しに来た」
「武器のメンテと研ぎ直しだ」
「お願いします」
俺とロゼは、それぞれ獲物をガンツに渡す。
「若いの、丁寧なのはいいが、敬語はいらん。むず痒い」
「はあ」
ガンツは槍を手に取り、じっくり見渡す。
「大分酷使してきたな。柄が歪んどる」
「直りそうか?」
「この位なら少ししたら直せるわい」
ガンツは次に俺の短剣を見る。
「こっちはあまり使ってないだろ」
「見て分かる?」
「当たり前だ。長年のこれで飯食っとる……これならすぐ終わる。待っとれ」
ガンツは短剣を研磨機で研ぎ直す。
俺達は待ちながら販売されている武器を眺めた。
「こうして見ると色々あるな」
「ここは種類が豊富だからな」
エストックや曲剣等、剣だけじゃなく、槍や斧など様々だ。一番目を引いた巨大なグレートソードは誰が使えるんだ?
「あれ?、先輩じゃないっすか」
「……エレか?」
武器を眺めながら研ぎ直しを待っていると、ロゼの知り合いか、女性が入って来た。
年と身長、体型はロゼと同じ位。黒い首まで伸びた髪に切れ目の赤い眼。耳はピアスをたくさん付け、パンク風なファッションをしている。
何より目を引くのは、腰から伸びた鯱を思わせる黒く太い、長い尾ひれの付いた尻尾だ。
「バン、紹介する。彼女はエレ。半魚人だ」
「よろしくっす」
「半魚人? 海で暮らしているイメージがあるけど……」
「ああ、よく言われるっすよ。けど、別に陸で生活出来るし」
偏見に慣れているのか、エレンは気にせずに言った。
「ちなみに、ロゼとどういった関係?」
先輩って呼んでたし。
「同じファッションの仲間だ」
「うちは色々教えてもらったから先輩って呼んでるっす」
ああ、そういえばロゼもパンクファッションが趣味だったな。
「エレか? 出来てるぞ。持っていけ。小僧もだ」
丁度ガンツが俺の短剣と、ハルバートを持ってカウンターに置いた。
「あざーす」
「どうも」
俺は短剣を取り、刀身を見る。
前より切れ味は良さそうだ。
エレはその細腕でハルバートを軽々持ち上げ、クルクル回して確認してしていた。
「流石ガンツのおじさん。いい腕してるっすね」
「当たり前だ」
ガンツはさも当然のように言う。
「ロゼの槍は明日取りに来い」
「ああ」
俺達はガンツの工房を後にする。
「所で、先輩は彼氏とデートっすか?」
「ぶっ!?」
思わぬ言葉に、ロゼが吹き出す。
「違う! バンとは武器のメンテナンスに来ただけだ!」
ロゼは顔を赤らめながら言い放った。
「ええー、つまんないの」
エレは口を尖らせて言う。
「巨獣殺しの英雄とデートなんて面白そうなのに」
「英雄は止めて」
ほんと、マジで。
「先輩達はこれから暇っすか?」
「ああ、予定はないが」
「じゃあ、遊びに行ってもいいっすか?」
なぜそうなる?
「だって先輩の暮らしている屋敷、幽霊が出るんでしょ? 面白そうじゃん」
ああ、あの家そんな風評が立ってたな。
「……別に構わんが、バンは?」
まあ、悪い人間でもないし、別にいいか。
「俺はいいぞ」
「よっしゃあ! じゃあ、お邪魔します」
俺とロゼは、エレンを連れて家に帰る。
「所でエレは冒険者なのか?」
帰りの道中、エレンに聞いてみた。ハルバート持ってるし。
「そうっすよ。ギルドやパーティーは組んでないっすけど」
「単独で? 大変じゃないか?」
「うち、束縛されるの嫌いなんすよね~」
自由か。
「それに、2層までなら1人で攻略できるし、生活に不便してないし」
1人で2層を攻略できるなら、実力はあるな。
「それなら、ギルドやパーティーの加入の話が多いだろ?」
「そうだけど、うちのギフトの性質上、1人の方が楽なんっすよ」
エレはギフト持ちか。
「へー」
「……意外っすね、ギフトの内容を聞いてくると思ったのに」
「気にならないのは嘘だけど、冒険者が簡単に手の内を明かすもんじゃないしな」
「そこら辺はうちのギルマスは弁えてるぞ」
ロゼが、俺をフォローするように言ってくれた。
「ふーん……」
エレは、ニヤニヤしながら俺の顔を見る。
「……何?」
「いやー、子供なのにちゃんとしてるなー、と思って……気に入ったっす!」
何処に気に入られる要素があったんだろう?
「うちをギルドに入れて欲しいっす」
「……はい?」
なんでそうなる?
「うちの事、バンなら使いこなしそうだし、『魂の解放者』は今新規新鋭で話題だし、入りたいなーと思って」
気持ちは分かんでもないが……。
「そういうことは、俺の一存じゃ決められない」
「オレは入れてもいいけど、オレ達はこういうのはギルド全員で話し合ってるんだ」
オレとロゼが説明する。
「へー、結構アットホームはギルドっすね……じゃあ、行こう!」
どうも、俺達が気に入ったらしい。俺達は早々と家に帰った。
◇
「……おや? エレ。久しぶりですね」
「げっ、ノア先輩!?」
家に帰り、ノアが出迎えるとエレと顔見知りだったらしい。
「ノアと知り合い?」
「昔働いていた職場の先輩で……雇用主が死んで一緒に解雇されたっす」
エレは昔メイドだったのか。意外だな。
「なんですかその格好は?」
ノアは、エレの格好を見て表情は変わらないが、憤慨している様に見えた。
「いや、うちもうメイドじゃないし……」
「黙りなさい」
「ひっ!?」
エレンはノアにびびりまくっていた。
「教育が必要ですね……バンさん。エレをノアに任せてもらえませんか?」
「いや、これからギルドに入れるか話し合いを……」
「任せてもらえませんか?」
「いや、だから……」
「任せてもらえませんか?」
「……はい」
「ギルマス!?」
エレが目で助けを求めるが、俺には無理だった。
「さあ、行きますよ」
「いや、ノア先輩待ってー!?」
俺とロゼはノアに引っ張られていくエレを見送るしかなかった。
「……と言う訳で、新たにギルドに加入希望のエレです」
「……よろしくお願いします」
俺はエレを全員に紹介する。
「……質問いい?」
「何?」
「なんでミニスカメイドなの?」
そう、今のエレの格好はパンクファッションではなく、ノアにミニスカメイドに着替えさせられていた。
当の本人は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「……それはノアに聞いてくれ」
俺達は一斉にノアに視線を向ける。
「ノアの後輩ですし、なによりメイドの嗜みです」
「……そう」
それ以上、誰も何も言えなかった。
「コホン……エレはハルバートでアタッカーとして戦う。ギフトは持っているらしい。あと、ロゼの友達だって」
「ギルドに加入をお願いいたします」
エレは綺麗にお辞儀した。
ノアが目の前にいる所為か、言動が会った時とまるで別人だ。
「私はいいわよ」
「私も」
「ワン!」
「「「「大丈夫です」」」」
ロゼも入れていいって言ってたし。満場一致で決定した。
「じゃあ、これから宜しく」
「よろしくお願いします」
こうして、ノアに調教されたメイドが新たに加わった。
そして……。
「バン、正座」
「……はい」
新たに女性を加えたことに、カナから説教を受けた。
次回「浮遊」




