7話 片鱗
――。
なんだ?
――い。
……声がする。
――おい。
(あ)
返事をしようとするが、声が出ない。
目を開けても、真っ暗で何も見えない。
――ちっ
聞こえてくる声が舌打ちする。
(なんだよ)
――はあ、もう嫌だったがな。
(何を?)
――手、貸してやる。
(はあ?)
そう言われて、俺の意識がまた消える。
◇
「……バン?」
レンが呟くが、バンは反応しない。
バンはライフルを捨てて、篭手から黒白の粒子を出して茨状にし、天井に突き刺して吊り上がる。
バンッ! バンッ! バンッ!
バンはリボルバーを抜き素早く構え、正確にレン達の近くにいた3人の襲撃者の頭を撃ちぬく。
バンはまた篭手から茨を出して、天井に突き刺し、襲撃者の背後に飛び移り、リボルバー を連射。
これで瞬く間に5人が死んだ。
「ひ、ひいいいいいいっ!?」
狩る側から狩られる側になったのを察したのだろう。
残った襲撃者は我先にと逃げ出す。
だが、
「なんだよこれ!?」
茨が襲撃者達の足を絡めとり、残りが転倒する。
バンは走りながらライフルを拾い、立ち上がる襲撃者を殺していく。
「バン……」
その光景を見ていたレン達はただ見ているしかなかった。
「何時ものバンじゃない」
バンに何があったのか分からないが、これだけは言える。
「……誰?」
見た目はバンだが、中身はまるっきり別人だ。
バンが襲撃者を全滅させた後、ミイの『治癒』でメンバーの怪我を治していく。
「……」
だが、バンは立ち尽くして動かない。
まるで人形だ。
レン達もどうすればいいか分からず、ただ見ているだけだった。
「……バン?」
レンが決心してバンを呼ぶが、何も反応しない。
「……助けてくれ」
襲撃者が1人、死体の山で生きていたらしく、助けを呼ぶ。
するとバンは声に反応して、ライフルを声の方に向ける。
「やめて!」
レンは慌ててバンの行動を止める為に抱きつく。
これ以上、無駄にバンに人殺しをさせたくないからだ。
「もう終わったの! お願い、目を覚まして!」
「おい、戻って来い!」
「バン!」
レン達が必死にバンに呼びかける。
すると、バンの動きが止まり、
「ここまでだ」
と。呟いた。
「……え?」
誰も呟きの意図が分からずにいると、
「……レン? どうした?」
バンがひょこんとした顔でレン達を見る。
「……バンなの?」
「ん? 何言ってんの?」
バンが訳が分からず首を捻っていると、
「「「バンー!」」」
「ぐえっ!?」
レン、ロゼ、アウルムから抱きつかれ、思わず変な声が出た。
「……これ、俺がやったのか?」
俺はレン達から事情を聞いて、死体の山をみて呟いた。
「どこまで覚えている?」
「筒から煙が出て、意識が遠のいて……そこからは」
レンの質問に正直に答える。
「そう……あの時のバンはまるで別人だったわよ」
「そうか……ごめん。覚えてない」
「いいのよ。バンのおかげで助かったし」
「そうそう」
「助かりました」
レン達が励ましてくれるが、4つ子は怯えた目で俺を見ている。
「……あの」
「「「「ひっ」」」」
そんなに怖がらなくても。
「迷惑かけた。ごめん」
俺は4つ子に頭を下げる。
「……いいえ、こっちもごめん」
「……うん、なにもできなかった」
「怖かったけど、助けてもらったし」
「かっこよかった」
4つ子は思うところもある様だが、一応謝罪を受け入れてくれた。
「……それで、どうする?」
ロゼは1人生き残った襲撃者に目を向ける。
急所を外したとはいえ、瀕死状態だ。
「とりあえず、拘束して止血しよう」
俺は襲撃者をロープで縛り、ミイの『治癒』で止血をする。
「何するんだ?」
「尋問する」
ロゼの質問に淡々と答える。
情報は大事だからな。
俺は男をうつ伏せにし、仮面を外す。無精髭の生えた壮年の男だった。
「お前らが俺達を狙った理由は?」
「……」
男は答える気は無いらしい。
「そう黙っていると、尋問は拷問に変わるぞ?」
この場にあの自称メイドがいてくれたらなあ。
俺は短剣を抜き、男に見せびらかす。
「まずは指から切り落とす」
「ま、待ってくれ!」
「なんだ、言う気になったか?」
「そ、それは……」
「なんだ、時間稼ぎか……じゃあ、右手の小指から」
俺は男に跨り、右手の小指を握る。
「分かった! 言うからやめてくれ!」
やっと言う気になったか。
「じゃあ、喋ってもらおうか」
「……話しにくいからどいてくれ」
「嫌だ。喋れてんじゃん」
俺は男に跨ったまま、小指を握り短剣を当てたままにする。
「……俺達は依頼されただけだ」
「誰に?」
「それは知らない……」
俺は短剣を男の小指に当てる力を強める。
小指の付け根から、血が滲んで短剣に血が流れた。
「本当だ! 依頼相手は顔が分からなかったんだ! 信じてくれ!」
「……どう思う?」
俺達のやり取りを見ていた皆に聞いてみる。
「……嘘は言って無さそうだけど」
「そうだな」
レンとロゼは男の話を信じたようだ。
そうか、なら次の質問だ。
「お前らの数と配置は?」
「……20人、全員知らない顔だ。お前が全員殺したがな。俺達は単独で冒険者をやってた」
「単独で?」
「……俺達はダンジョンを1層しか攻略できなかった落ちこぼれの集まりだ」
「なるほど」
依頼主はこういう奴等をスカウトしていたか。
「俺達は依頼主にあそこで待ち伏せしろって言われて、ダンジョンに入っただけだ。金払いも良かったし、装備も良いのをくれた」
「どうりで」
レンは襲撃された事を思い出したのか、嫌そうな顔をする。
「どうやってここまで?」
「あんたらも使っていた転移陣だ。目隠しされたから場所は分からないが……」
はい。依頼主は『明けの明星』の関係者で確定。
俺達を始末した後、こいつ等も処理するつもりだったんだろう。
「俺の知ってる事は全部話した! だから解放してくれ!」
「そうだな」
だが、タダでは解放せん。
俺は男の首から会員証をちぎり取る。他の死体からもだ。
「じゃあな……行こう」
「ええ」
「おい! 何を――」
俺達は男をそのまま置き去りにしてその場を去った。
「待ってくれ! 解いてくれ!」
男の叫び声が廊下に響くが、誰も振り返る事は無かった。
「……厄介だな」
「そうね」
結局分かったのは、『明けの明星』の関係者だろう事だけ。
「何より、『明けの明星』の関係者が絡んできたか……」
「転移陣の存在を知られたからかしら……?」
全員の目が、マイに集中する。
「……私の所為じゃない」
マイは不貞腐れた顔で反論する。
「それは分かっている」
「使うと決めたのは全員よ」
「そうだ。全員が悪い」
「いや、『明けの明星』が悪いだろ」
情報の独占に、知った者を消す。外道のやり方だ。
「とにかく、この場を切り抜けましょう」
「だな」
「で、どうするんですか?」
アウルムの言葉に、俺はある提案を思いついた。
「いっそ、公表しようぜ」
「はあ?」
レンが怪訝な声を出すが、俺は説明を続ける。
「転移陣を公表すれば、俺達が狙われる理由が無くなる。協会から褒賞も貰える。いい事尽くめだ」
「あのねえ……『明けの明星』から報復が来るわよ?」
「向こうは転移陣の存在を隠していたし、俺達は偶然見つけただけだ。『明けの明星』が報復する理由が無い」
「……つまり、誰も知らなかった事にするって言う訳ね」
「そのとおり」
俺は一通りの説明を終えて、レン達の反応を窺う。
「良いんじゃないかしら」
「オレも賛成だ」
「皆さんがよければ」
「「「「大丈夫」」」」
なら決まりだ。
俺達は転移陣に戻り、ダンジョンから帰還した。
次回「転移陣」




