3話 温泉街
ブロロロロー!
エンジンを吹かしながらバイクは進む。
「バン、どうだ乗り心地は?」
「最悪です! あと土煙で目と口が!」
地面が均されただけの道は凹凸が激しく、サスペンションが効いてても激しく揺れる。あと、ゴーグルとマスクが欲しい。
とりあえず持っていたタオルで口を覆う。これでだいぶマシになった。
「それだけ言えれば大丈夫だな!」
レオは笑いながら俺の文句を聞いた。
「ほら、これ付けてろ」
そう言って渡されたのはゴーグルだ。フレームは金属で帯状の紐で調整する。レンズはガラス製。こういうのは異世界でも変わらないんだな。
「いいんですか?」
「ああ、予備だから大丈夫だ」
「では遠慮なく」
ゴーグルを付けると、目が開けるようになり、ようやく前が見えるようになった。
「到着までもう少し掛かる。我慢しろよ」
「はい!」
こうしてしばらく道なりを進むが、トラブルは起きた。
「ちっ悪獣だ!」
突如として後方から現れたのは、ジャガーに似た悪獣だ。
疲れないのか、ものすごいスピードで俺達を追従する。
「どうするんですか!?」
「狙いは私達護衛だ! 対策はある」
レオはそう言うと、丸いボール状の石をスチームサイクルに設置された鞄から取り出した。
「食らえ!」
レオは石を後方に投げると、石は爆破、四散して破片が悪獣を襲う。
だが――。
「くそ! 外したか!」
悪獣には当ることなく、スピードを更に加速させて走り出す。
他の護衛も投げつけるが一向に当らない。
このままじゃ追いつかれるな。
レオのスチームサイクルは俺が乗っているから真っ先に狙われるだろう。
(なら)
「俺がやります! レオさんは運転に集中を!」
「そういえば冒険者だったね! 頼むよ!」
レオが前に集中し、俺はリボルバーを抜き、片手で構える。
バンバンバンバンッ!
「GYA!?」
流石に高速で飛ぶ弾丸は躱せなかったか、だが俺も揺れるスチームサイクルの上で片手での射撃。弾丸は悪獣の前足に1発だけ当たり、悪獣はスピードを落とす。
本音を言えば仕留めたかったが、これで追ってこれないだろう。
「もう大丈夫です」
「やるじゃないか! あのすばしっこいヤツに傷負わせるなんて」
「まあ、このくらいは」
「あとで1杯奢るよ」
レオも安心したのか、軽口を叩けるようになった。
それ以降は特に悪獣に遭遇する事もなく、無事にアレト街に辿り着いた。
「じゃあなー」
アレト街の入り口に着いて、レオたち護衛組みと別れた後レン達を降ろしたバス停に向かう。
「災難だったわね」
バスから悪獣との闘いを見ていたのだろう。レン達と合流して、第一声が慰めの言葉だった。
「ほんとにな…まあ、いい物貰えたし、いいか」
俺の首にはさっきまで付けていたゴーグルが掛けられている。
悪獣退治の御礼としてレオから貰った物だ。
「ところで……アウルムは大丈夫か?」
アウルムは車酔いで虚ろな目をして、完全に死に体だ。今はノアにおんぶされている。
「暫くしたら戻るわよ…さあ、行きましょう」
レンは気にせず先頭を歩きアレト街に入る。
流石温泉街と言った所か、至る所に旅館があり、お土産屋も充実していた。
「街の手前が温泉街で、奥が採掘場と鍛冶屋が盛んみたいだな」
何処から手に入れたのか、街のパンフレットを持ってロゼが説明してくれた。
鍛冶屋か……俺の短剣も新調しようかな。
色々酷使してきたので、研ぎ直してもらうのも手か。
「とりあえず、協会が手配した旅館に行きましょう」
「オレが案内しよう」
パンフレット片手にロゼが道案内をする。
そうして着いた温泉旅館は――。
「……本当にここか?」
「ハクビ旅館はここで間違いないな」
通りに面していた旅館と違い、でかく豪華な建物だった。
「豪華ですねー」
道中、回復したアウルムがポツリと言いこぼす。
「えらく協会は奮発してくれたな」
「それだけ、バンに謝礼をしたかったんでしょうね」
別に気にしなくて良かったのに。
「ま、好意に甘えましょう」
「ねえ、はいろう!」
「そうだな」
カナが急かし、俺達はハクビ旅館に入る。
「いらっしゃいませ。バン様ご一行ですね」
事前に知らされていたのか、受付の女性が丁寧に迎え入れてくれた。
「はい、そうです」
「それではお部屋に案内いたします」
「動物は大丈夫ですか?」
「問題ありません。ただ、トイレの管理はしっかりしていただくと」
「だってさ」
「ワン!」
グレイは「分かっている!」と一吼え。
まあ、賢いヤツだから、そこは大丈夫か。
そうして案内された部屋は豪華で、全員が寝泊りできるほどの広さだった。
だが――。
「一部屋だけですか?」
「はい。予約はここだけです」
……マジか。
さすがに女性だけの部屋に男1人は気まずい。
「男の俺はどうすればいいんだ?」
1人個室を取るか?
「別にいいんじゃない?」
レンは気にする様子もなく言い放った。
「ダンジョン探索の時も一緒に寝てるんだし」
「それとこれとは話が別では?」
一応反論するが、
「オレも別にいいぞ」
「私も大丈夫です」
「ノアも構いません……妙なことをしたらあそこを切り取りますが」
全員が反対しなかった……ノアの発言が怖いが。
「バン、私と一緒はいや?」
カナが眼を潤わせながら聞く。
「……わかった。お邪魔するよ」
俺は折れて、同室する事にした。
「それじゃあ、協会に行くか」
俺は荷物を置いて、協会に行く事を提案した。
ダンジョンがなくても、協会はある。
主にワーカーとしての依頼があるからだ。
「依頼の詳細を聞いとかないと」
「何言ってんの?」
俺の発言にレンが怪訝な顔をした。
「何って…その為に来たんだろ?」
「そんなの明日でいいわよ……それより、温泉でしょ!?」
レンの発現に全員がウンウンとうなずく。
「えー?」
「依頼を見る限り、今の所人的被害もないみたいだし、もう遅いし、私達は移動で疲れているわ。まず、疲れを取らなきゃ」
それは言い訳で本音は温泉に入りたいだけだろ。
「ここの温泉、疲労、肩凝り、腰痛に効いて、なんと! 美肌効果もあるらしいわよ」
「それならはいらないとなー。オレつかれてるしー」
「そうですねー。まずはつかれをとらないと」
ロゼッタ、アウルム、喋り方が棒読みだぞ。
「温泉入りたい!」
「ノアも日頃の疲れをとりたいです」
カナとノアは素直だなー。
「ワンワン!」
グレイ、おまえもか。というか入れるのか?
「分かった。今日はゆっくりしよう」
俺も折れて、温泉に入ることにした。
◇
女湯にて。
「ちっ!」
レンがロゼ、アウルム、ノアの裸体を見て舌打ちした。
ロゼとアウルムはスレンダーで筋肉質でありながら、出るとこはでて、腰もくびれている。
特に目を引くのがノアだ。
頭と同じ程の大きさの胸を見せつけんばかりに披露している。
レンは自分の寸胴の身体に平べったい胸を見た。
「…世の中不公平だわ」
「レンお姉ちゃん、どうしたの?」
カナがレンの様子を伺い、近寄ってくる。
「カナちゃん! 私の味方は貴女だけよ!」
「きゃ!?」
レンはカナに抱きついて、カナを驚かせる。
カナは、レンと同じ体格にシンパシーを感じていた。
……まあ、カナはまだ子供だからこの後の成長に目を背けていたが。
「レン、お前と違ってカナはまだ成長期だぞ」
「あー聞こえない!」
ロゼの言葉にレンは耳を塞いだ。
「レンさんは美人ですから、気にしなくてもいいのでは?」
「そうです。こんなの重たくて肩が凝るだけですよ」
「そんなこと、持ってる人に言われたくない!」
アウルムとノアの言葉は、レンに敵対心を募らせるだけだった。
「なんでそんなに気にするんだ? むかしは全然気にしてなかっただろ」
「それは…」
レンの脳裏に、チラリとバンの顔が浮かんだ。
「好きな人でもできたの?」
「そ、そんな事ないわよ!」
カナの言葉に、慌てて否定したが、
「怪しいな」
「そうですね」
ロゼとアウルムはレンの様子にニヤリとした。
まるで、新しいオモチャを見つけた感じだ。
「いるんだろ? 白杖しろよ」
ロゼは青く塗られた爪で、レンの頬をつつく。
「そう言うアンタ達はどうなのよ!?」
「オレ(私)?」
レンは誤魔化す様に、2人に問い詰める。
2人の脳裏に、ふとバンの横顔が浮かんだ。
「べ、別にオレは何もないぞ」
「わ、私もです…」
「怪しいなぁー」
2人の様子に、意趣返しをしようとレンが詰め寄る。
「わたしはバンが好き。だってもうお嫁さんになったし」
カナの発言に、3人は固まる。
「カナちゃん。結婚はまだ早いかなー」
「そうそう。まだ結婚できる歳じゃないし」
「カナちゃん? お嫁さんは大人になってからですよ?」
三者三様、カナの発言を慌てて横槍を入れる。
「やれやれです」
4人の姦しい会話を、ノアは遠くから眺めていた。
一方男湯では、
「良い湯だなー」
「ワウー」
1人と1匹は、女湯の一悶着を知ることなく、のんびり温泉を堪能していた。
次回「鍛冶屋」




