2話 休暇
「……そんなことがあったのね」
家に帰ってきた俺は、談話室で待っていた仲間達に事の顛末を話す。
「都市のお偉方も勝手だな」
ロゼは上層部のやり方が気に食わずに吐き捨てる様に言う。
「まあ、会長が手配してくれるなら数日の辛抱です」
アウルムは俺を励ますように言った。
「バン、家から出れないなら遊ぼう!」
「ワン!」
……カナはマイペースだな。
グレイもカナに同意するように鳴くし。
「それで、どうする?」
「そうねぇ…ダンジョン探索は暫く止めて、ゆっくりしましょうか」
「ゆっくりするのはいいが、やることないぞ?」
レンの提案にロゼが難色を示す。
「買い物は顔を知られてないノアがいるからいいとしても、俺達もバンのパーティーとして顔を知られてしまっている。鍛錬しようにも庭にも出られないぞ」
「それについて一つ話がある」
俺は、皆にある依頼書を見せた。
「協会から依頼があって、アシト山の悪獣退治だと」
「アシト山? 確かウルバン領の西にある鉱山よね」
「ああ、そこに害獣が住み着き、鉱石が採れないらしい」
しかも国軍も手が回らず忙しく、優先度が低いので来ないらしい。ではそこで俺達冒険者にお鉢が回ってきたと言う訳だ。
「確か、アシト山と言えば麓のアレト街が温泉街として有名だったような……」
「おんせん!? いきたい!」
アウルムの言葉にカナが反応する。
「温泉かぁ……」
俺は温泉に入って、豪華な食事を堪能するイメージを浮かべる。
「温泉か……いいな」
「……そうね。依頼がてら温泉でのんびりするのもいいかもね」
レンはこの依頼を受ける事に決めたらいい。
「多分、協会長がわざとこの依頼をバンに依頼したんじゃないか?」
ロゼが依頼を聞いてから思ったことを口にする。
「……なんで?」
「悪獣依頼は口実で、温泉でゆっくりして欲しいんじゃないか? 期日も書かれてないし、経費も協会持ちだ」
ロゼは依頼書を見ながら言う。
なるほど……会長なりの謝礼と言った所か。
「なら決まりね……温泉に行くわよ!」
「「「「おー!」」」」
レンは提案し、全員賛同した。
「アレト街まで列車で1日掛かるから、準備はちゃんとしてね」
「何時行くんだ?」
「そうね……3日後でどうかしら」
3日後か。それなら会長が人払いしてくれている筈だし、準備は出来るな。
「なら、列車の手配はオレがしよう」
「なら、ノアはお弁当を作ります」
「わたしも手伝う」
ロゼが列車の手配、ノアとカナが弁当作りを名乗り出た。
「なら俺は……」
「あんたは大人しくしてなさい。家から出れないんだから」
「……はい」
レンに釘をさされ、俺は大人しく家に篭る事になった。
◇
3日後。
「さあ、行くわよ!」
「「「「おー(ワン)!」」」」
レンの掛け声の下、俺達は朝一の列車に乗り込む。
予定では夕方にはアレト街に着く予定だ。
ポーッ!
汽笛と駅員の笛の音がなり、列車が走り出す。
「おー!」
3度目の列車なのに、カナは感嘆の声を出す。
まあ、初めての時は大半寝ていたからな。まだ新鮮なのだろう。
「そういえば、列車に乗ったのは初めてね」
「そうだな」
レンとロゼも、初めての列車に興味津々だ。
「意外だな。列車に乗って来たと思ったのに」
「私達の故郷は線路通ってなかったし、お金も無かったしね」
そうか、俺とカナもココ村から『フォルト』に行くまで金貨2枚したからな。そう簡単に乗れるもんじゃないか。
改めて、マリナの太っ腹さが伺える。
「クゥーン……」
「なんだグレイ、二度目なのにまだ列車は怖いか?」
「ガウ!」
グレイは怒って否定したが、尻尾が丸まってるぞ。
「……うぷ」
「アウルムさん、しっかりして下さい!」
アウルムは列車に酔い、ノアが励ましている。
「アウルム、遠くの景色を見たほうがいいぞ」
「そ、そうですか」
「最悪、車窓を開けてリバースしてくれ」
「……それは、乙女としてやりたくないです」
そうか、がんばれ。
こうして列車の旅は夕方まで続いた。
「着いたー」
夕方。
アレト街の駅に着いた俺達は列車から降りて駅のホームに立つ。
「……うう、やっとですか」
「しっかりして下さい」
乙女の尊厳を守りきったアウルムはグロッキー状態で、ノアに肩を借りている。
早めに休ませてあげよう。
「それで、ここからどうするんだ?」
「まず、温泉街行きの蒸気バスが運行されているから行きましょう」
「バス停がそこにあるぞ」
ロゼが人が並んでいるバス停らしき立て札を見つけて指差し、俺達もそこに向かう。
「途中悪獣は来ないのか?」
「こういうのには護衛が付いているもんだ…来たぞ」
話していると、丁度煙突から煙を吹きながら来るバスと、蒸気で動いているであろう厳ついバイクが4台。
前輪が2輪で後輪が1輪のリバーストライクというバイクだ。
バイクは『フォルト』には無く、初めて見た。
そしてバス停に停まり、扉が開く。
「乗りましょう」
「うう……もう無理です」
「もう少しです!」
「我慢しろ」
レンを先頭に、ノアに肩を貸りてるグロッキーなアウルムにロゼが言い捨て、バスに乗り込む。
「車、はじめて!」
「クィーン……」
初めてのバスにはしゃぐカナに、バスに怯えるグレイ。
多分グレイは足が地面に付いていないのが怖いんだろう。
「はしゃがない様になー」
俺はカナに注意しながら、バスに乗ろうとした時――。
「お客様、申し訳ございません」
突如、乗務員に止められた。
「どうしました?」
「これ以上が満席で、乗れないのです…しかも、これが最後の便で」
なんですと?
「じゃあ、どうしろと?」
「申し訳ございませんが、護衛車の後方に乗ってもらえれば……」
「はあ」
まあ、しょうがないか。
「少年、こっちだ!」
すると、1台のバイクに跨った、革のベストのズボンに、ゴーグルを頭に掛け、バンダナを首に巻いている女性に呼ばれた。
「災難だったな」
「いえ、バイクに乗るのは初めてなんで光栄です」
「バイク?……ああ、スチームサイクルの事か」
ここではスチームサイクルと言うのか。確かバイクは和製英語だった気がする。
……和製英語? 俺は、日本人なのか?
「……どうした? ボーとして」
「あ、いえ…何でもありません」
一瞬自分に疑問をもったが、前の時と同じくまたどうでもよくなって、我に返る。
「私はレオだ。よろしく」
「冒険者のバンです」
「バン? どこかで聞いたような……」
あ、やべ。俺の素性がばれたか?
「…まあいいか。まだ子供なのに冒険者なんてすごいな」
「どうも」
プーッ!
話している最中で、バスからクラクションが聞こえた。
「お。バスが発車するみたいだ…バン、私の後ろに乗って腰に抱きついていろ」
「分かりました」
俺はスチームサイクルに跨り、レオの腰に抱きつく。
「行くぞ!」
レオがエンジンを吹かし、発車したバスに平行して進み出した。
次回「温泉街」




