1話 呼び出し
4章の始まりです。
「……してやられたわ」
『フォルト』の冒険者協会会長。マリナは新聞を読んで苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あのクソジジイ共め、本当に殺してやろうかしら」
「会長、落ち着いて下さい」
マリナを嗜めるのは秘書のマリィだった。
マリィは緑色の髪を纏め、眼鏡を掛けたスーツ姿のエルフの女性だ。
「起きてしまった事はしょうがありません。実際書かれている事は事実ですし」
「そうだけど……」
マリナが懸念するのは先の巨獣討伐の貢献者。バンの事だ。
巨獣は生きた災害といわれる悪獣だ。本来なら人がどうこうできるものではない。ただ蹂躙されるだけだ。
そんな巨獣を、上層部の老害共は倒せと無謀な事を言い、冒険者達は多くの犠牲を出しながらも、前人未到の巨獣討伐を成功させた。
その立役者はバンだ。それは認めよう。誰も反対はしない。
そして、英雄と呼ばれる事もだ。
しかし、それがどういった意味を持つのかも知っている。
だが――。
「私はこの件は情報規制させてたはずだ! 何処から洩れた!?」
マリナはバンの事については伏せて報告したし、冒険者にも口止めした。
理由は、バンにはこれから起きるであろう『大増殖』に専念して欲しかった事もあるし、上から束縛させずに自由に過ごして欲しかったからだ。(勿論後半の理由だけ説明して本人の許可も得た)
「人の口に戸は立てられない、か」
誰かが洩らしたのだろう。それが上に伝わり、世間に公表させた。
「これから争奪戦になるぞ……」
「それは大げさです。まあ、貴族や他国からの引き抜きはあるでしょうが」
「はあ、この忙しい時に……バンを呼んで頂戴」
まだ巨獣討伐の件も片付いていないのに……。
さらに増えるであろう仕事を思い。マリナはうんざりとした。
◇
「なんじゃこりゃー!?」
翌朝、協会に呼ばれたので家を出ようとすると、家の前に人盛りが出来ていた。
「バンさんですね? ぜひ取材を!」「バンさん!俺をパーティーに入れてください!」「どいて、私が先よ!」「ギルドは作らないんですか!?」
人の多さと質問攻めにあい、俺は玄関の扉を閉めた。
「どうしてこうなった?」
「これの所為でしょ?」
レンが新聞を持ってきてある一面を見せる。
――巨獣討伐! その立役者は新しい英雄の少年。その名もバン!
「やめて!」
あまりの恥ずかしさに、新聞から目を背ける。
「いいじゃない? 他の人達には好評よ?」
「俺は良くない! 自由気ままに過ごしたかったのに……」
協会長のマリナは情報規制をすると言ってくれたのに、なぜだ!?
「とりあえず、裏口から出たらどうだ?」
「……そうする」
騒ぎで集まったロゼの提案を受けて、裏口から出ようとするが、
「いたぞ!」「こっちだ!」
すでに家の周囲は人に囲まれてしまっており、家から出るのを断念した。
「なんでこの家にいる事が知れ渡っているんだよ!? この世界に個人情報保護法はないのか!?」
「なに言ってるか分からんが、どうする?」
ロゼに聞かれるが、どうするも何も、こう人が多いと外出もままならない。
「こうなったら2階の窓から屋根伝いに行くか?」
「不審者で捕まらないといいな」
それは困る。
どうしようか悩んでいる時、
「バン様。お客様です」
ノアが客だと言い、1人の女性を連れてきた。
金髪碧眼の執事服を着た女性だ。
「初めまして、私は協会長のマリナ様の執事のリィスです」
リィスと名乗った女性はきっちりとお辞儀をした。
「初めまして、バンです……それでどういったご用件で?」
「マリナ様のご指示により、バン様をお迎えに上がりました」
どうやら、この事態を察して迎えに来てくれたらしい。
「それはありがたいですが……外が」
「ご心配なく。外の方々にはご退場してもらいましたので」
……物腰は柔らかいが、なんか怖い。
「車を外に停めております。どうぞ外へ」
「あ、はい……それじゃあ、行って来る」
「行ってらっしゃい」
レン達に見送られ、俺は玄関を出る。
外はさっきまで人が密集して通れたもんじゃなかったのに、今は誰も居ない。
「……どうやって解散させたんですか?」
「執事の嗜みです」
あ、これノアと同じ人種だ。
俺は車に乗せられ、リィスの運転で協会に向かった。
「呼び出してすまないな」
「いいえ」
広い部屋に通され、机が書類で山積みになっている状況を見れば文句は言えない。
「早速だが、本題に入ろう」
「はあ……」
「今回、君には情報規制を願ったのにも関わらずこの有様だ。すまない」
新聞の件について机に両手を置いて頭を下げて謝罪された。
「いえ、それは会長の所為ではないですし。協会に何も言うつもりはありません」
「そう言ってもらえると助かる」
「ただ、なんで情報が洩れたんですか?」
そもそも、討伐に参加した冒険者達には口止めされてた筈だが。
「それは調査中だが、君を世間に広めたのは、おそらく上層部の連中だ」
……なんで?
「君を英雄に祭り上げて、抑止力にする為だ」
「抑止力?」
抑止力なんて言葉、どこかに狙われて無いと使わないぞ?
「この国は何処かに狙われているんですか?」
「いや、ルルジアナ王国は島国だし、貿易と外交で他国とは安定している」
「じゃあ、何処が?」
「このウルバン領の隣、エルド領だ」
エルド領? でも隣の領って……。
「……同じ国ですよね。なんでまた?」
ウルバン領もエルド領も、同じルルジアナ王国のはずだ。
「そうか、知らないんだな」
マリナはさもありなんと言った風に説明を始める。
「ウルバン領とエルド領は正直……仲が悪い」
「はあ」
「なんせウルバン領には3大ダンジョンの一つ『メキド』があるからな。ダンジョンは金の卵だ。隣のエルド領は『メキド』の所有権は自分達のだと主張しているのさ」
「そうなんですか?」
「実際は、ウルバン領とエルド領の境にダンジョンが見つかってな。ウルバン領がこの『フォルト』を作って所有権を主張したのが始まりだ」
それ、こっちが悪いじゃん。
「おかげでこの『フォルト』が内乱で戦場になるかもしれん」
「国は止めないんですか?」
内乱は国力低下を招く。王国としても無視できないはずだが。
「勿論調停を進めているが、上手くいってない。ウルバン領とエルド領の合同管理で妥協して欲しいんだがな」
なるほど、大体話は分かった。
「つまり、俺という戦力をアピールして、内乱を起こさせない様にしようと……俺の許可なしに」
「そういうことだ。大方、断られると思ったんだろう」
マリナは、疲れた表情で説明を終えた。
そう上手くいくかねぇ?
「……本当にすまない」
「会長は悪くありませんよ…上層部とやらには思う所はありますが」
上層部には文句の一つも言ってやりたい。
「私にできる事なら何でもしよう」
「それじゃあ、冒険者や記者とかに俺に関わるのをやめる様に言ってくれません?」
あれじゃあ、外出できたもんじゃない。
「ああ。手配しよう」
「ありがとうございます」
「私の話は終わりだ。リィスに車の手配をして送るように言ってある。手配まで掛かるから、暫くはおとなしくしておいた方がいいだろう」
「分かりました」
「あと、帰りに受付に寄って欲しい」
受付?
「……依頼ですか?」
「ああ。長期の依頼だ。受けるかは自由にしていい」
「仲間と相談します……では、失礼します」
俺は部屋を出て、受付に寄った後、リィスに家まで送ってもらった。
次回「依頼」




