9話 巨獣①
「はああああ!」
マリナが大槌を振るい、巨獣の大岩のような足にぶつける。
「『衝撃』!」
武器の性能かギフトなのか、大槌から衝撃が放たれ、足の岩のような皮膚を少しだが削れる。
「このまま足を攻撃! 後方は反対の足を狙え!」
「「「おおおおー!!」」」
全員が足に向かって攻撃を始める。
「おらぁ!」
レオンが衝撃波を放ちながら大斧を振り、斧が巨獣の皮膚に食い込む。
「……ふん」
ミリアはまるで踊るかの様に細剣を突き刺す。すると、突き刺した箇所から凍っていき、氷の花が咲いた。
「てりゃあああ!」
ベアトリクスが俺と戦ったときと違う大剣――本来の武器なんだろう――で斬り付け剣圧が飛び、メルナは人の足では出せないほどのスピードで走り剣で突くが、ビクともしない。
なるほど、これがギルドマスター2人の実力か。他と比べて飛びぬけている。
ドォン!!
俺も負けじと『貫通』で穴を開けていく。
――だが。
「ちっ、ピクリともしねぇ」
レオンの言うとおり、巨獣にはダメージが無いのか、俺達を意に返さない。
それどころか、
「ゴアアアアアアアアア!!」
巨獣が吼えると、背中から火の玉を降り注いでくる。文字通り火の雨だ。
「ぎゃああああ!?」
避け損ねたのが何人かいて、火達磨になってあっという間に死んだ。
焼けた肉の臭いが鼻をついて思わず顔をしかめる。
ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!! ドォン!!
ありったけを足にぶち込んでリロード。ギフトの使い過ぎは消耗するが、今はそんな事言ってる場合じゃない。
「ゴアアアアアア!!」
俺達の攻撃が多少は効いて煩わしかったのか、巨獣が足を上げた。
「――いかん! 退避!」
俺達はその場から逃げ出すと、足が思いっきり振り下ろされ、足踏みを繰り返す。
――ズン!!!
足踏みの振動の威力は、その場を立ってられない程だ。
思わずしゃがみ、体制を維持していると、
「おらぁ!」
「……ふん」
レオンとミリアが地鳴りのなか、攻撃を仕掛けていた。
すごい、どんな体幹してんだよ。
だが、あの2人でもたいしたダメージは出てない。
「……仕方ない」
俺も温存だとか言っている場合じゃないな。
俺は鞄に左腕――正確には篭手を突っ込み、核石を吸収させる。
青白く光る篭手から粒子を出して、リボルバーに纏わせ長大な砲にして、飛ばされ無い様に粒子で作ったアンカーを地面に打ち込む。
「全員離れろ!」
大声で叫び、それを聞いて全員離れた瞬間、『貫通』を使い引き金を引く。
ドォォォォンッ!!
赤い光弾に黒白の粒子を纏った弾丸が音速を超えて飛び、着弾、爆発した。
「ギャアアアアア!!?」
「どうだ!?」
粒子は消え篭手の光が収まり、煙が消えたら、巨獣の足が半分以上削り飛んでいた。
これで前足の一本は使えないはずだ。
よし、これならいける!
「けど……きつい」
『貫通』の使い過ぎと、さっきの攻撃でだいぶ消耗した。俺は雑嚢から回復薬を取り出し一気に飲み干す。
「少年! 今のは!?」
「俺のとっておきです。何度も使えません」
攻撃部隊が近づき、聞いてくるマリナにそう答える。
「それに……今ので完全に巨獣の意識が俺に向きました」
そう、今、巨獣の殺意を帯びた目線が俺達、いや俺に向かって放たれる。
巨獣は今やっと、俺達を敵と認識したのだ。
「これで逃げ帰ってくれれば楽だったのに……」
「ゴアアアアアア!!」
怒りからか、頭を俺達に向けて口を開ける。
「――いかん! 全員逃げろおおおお!!」
俺達が走り出した瞬間、巨獣の口から炎が放たれた。
炎は周囲を焼き尽くし、炎に飲まれた冒険者は骨も残さず消えた。
「全員撤退! 後方の部隊と合流する!」
マリナの決断により、我先と逃げ出す冒険者達。
そして俺達は後方の攻撃部隊と合流した。
後方まで引き下がり、巨獣を見ていると、足の怪我の所為か動きが遅い。少しは時間稼ぎできるだろう。
「何人生き残った?」
「前方の攻撃部隊は残り40人。10人は負傷しています。後方は距離があったので被害はありませんが、消耗が激しいです」
「そう……支援部隊に物資と回復薬の手配。あと、負傷者を運ぶように言って」
「は!」
マリナが指示をだし、早速作業に取り掛かる。
「会長! どうします!?」
攻撃部隊はマリナに支持を仰ぐ。
「……少年、さっきのは後何回出来る?」
俺は鞄を開けて中の核石を見る。
鞄一杯入っていた核石は3分の1近く減っていた。
「……良くて後2発です」
「そうか……全員聞け!」
マリナは冒険者達の注目を集めた後、口を開いた。
「少年は巨獣に近づき、頭を落とせ。我々は少年の援護を!」
「はい!?」
部隊の1人が声を出して驚く。
まあ、ダメージを与えられた俺にお鉢が回ってくるわな。
「ちょっと待てよ会長さんよぉ」
「なんだ?」
レオンがマリナに食って掛かる。
「援護って言ったって、俺らの攻撃は効いちゃいねえ。どうするんだ?」
レオンが比較的まともな事を言った。
「……それに、バンをどうやって近づけるの?」
ミリアもレオンに続き聞いた。
「確かに、あの巨体に、硬い皮膚、火の雨を降らせて、仕舞いにはブレスだ。どうするんです?」
「それに、アイツはバンに意識を向けた。易々近づけさせるとは思えねーぜ」
ガイとベアトリクスも問題点を挙げていく。
「……」
マリナも流石に言い返せず、考え込む。
「いっそよー、動けなくさせればいいんじゃね」
すると、レオンがマリナに提案をした。
「クソガキを単身突っ込ませれば、案外気付かれないかもしれないぜ、そしてさっきのヤツで頭は届かなくても足は当るだろ? 足を吹き飛ばせば動けなくなるはずだ。後は国軍を待って討伐してもらえれば万事解決だ!」
レオンはまるでいいアイデアと言わんばかりに言い放った。
「……俺に死ねってか?」
今の作戦に、俺の生還が含まれてない。
「おー死ね。俺達の為に命を捧げられるんだ。光栄だろ?」
笑顔で言うが、その目は笑ってない。純粋な悪意が込められていた。
こいつ……ここまでクズだったとは。
「……馬鹿?」
するとミリアがレオンを罵倒する。
「……あ?」
「巨獣の足は6本。さっきのとあんたが言った作戦で合計2本無くしても止まらない」
「そうだ! むしろ怒りで確実に『フォルト』に向かう。更に被害が出るぞ!」
「むしろ、バンしかダメージを与えられないから、優先して生き残るのはバンの方よ!」
『白薔薇』のメンバーが俺をかばい反論してくれた。
「みんな……」
「レオン、彼女達の言うことの方が正論ですよ」
「ガイ……てめえ」
ガイまでレオンに反論するとは。
「――ちっ、ならどうするんだ? 会長さんよ!? このままだんまりか?」
レオンはマリナを煽って追求する。
「ケンタウロスに乗っていくとかどうだ?」
「無理ね。バンが乗ると速度が落ちるし、容易に視認されるわ」
「ならハーピィに空から運んでもらうとか!」
「それも無理。確かに上空なら気付かれないでしょうけど、ハーピィ達にそんな力は無いし、速度も出ない」
ベアトリクスが案を出すが、メルナに悉く却下される。
空、ねえ……。
空を見上げると、鳥かハーピィか分からないが、翼を広げて空を飛んでいた。
それを見て、俺は一つのアイデアが浮かんだ。
「……近づく方法を考えたんだけど、聞く?」
「……正気なの?」
説明を終えた後、メルナからの第一声がそれだった。
「正気だよ……賭けになるけど」
「というか、本当に出来んのか?」
ベアトリクスからも追求を受ける。
「だから賭けだって。練習する時間も、物資も無い。出たとこ勝負だけど、ギリギリイケるはずだ」
多分。
「……荒唐無稽ね。でも本当ならあとで調べさせて、後死んだら頂戴」
ミリアの好奇心に触れたのか、とんでもない事を言われた。
「……けっ」
「……」
レオンとガイは沈黙する。レオンは出来ないと思っているみたいだが。
「決めるのは会長だ……どうする?」
「……分かった。少年を信じよう」
考え込んだマリナがようやく決心し、顔を上げた。
「総員、注目! これより作戦を連絡する!」
こうして、巨獣との決着をつけるべく、作戦が実行された。
次回「巨獣②」




