8話 決戦
そして、決戦の朝。
俺とレンは都市の外に構築された防衛線にいた。ロゼとアウルムは都市に残って防衛している。
巨獣から逃げ出した悪獣などが来た時の対処をしているらしい。
空はどんより曇り、まるで俺の心情を体現しているみたいだった。
「まあ、雨が降るよりマシか」
「何か言った?」
「いや、なんでもない」
「そう…準備はいい?」
「ああ」
俺は何時もの黒い服と赤のジャケットの防具に、回復薬等が入った雑嚢とナイフを付けたガンベルトを腰に巻き、左腕には青い篭手を付け、肩には核石が詰め込まれた鞄を提げている。
やれる事はやった。後はどうなるか神のみぞ知るだ。
「私はこっちだから……死なないでね」
「そっちこそ」
レンは離れて支援部隊の陣地に行く。
さて、俺も行くか。
俺は最前線の陣地に向かう。
テントが張られた陣地には、『明けの明星』と『白薔薇』の幹部と精鋭が100人づつ。俺を入れて合計201人だ。
『白薔薇』は全員女性。おそらくギフト持ちだろう。対して『明けの明星』は全員男性。武器を見る限り、ダンジョンウエポンを持っている。
正直、巨獣相手では少なすぎると思うんだが……。
「遅いぞ、クソガキ!」
俺が陣地に着くと、鎧と大斧を背負ったレオンが怒鳴り散らす。
「あぁ? 遅れてないだろうが!」
つっかかるレオンに俺も怒鳴り返す。
あの立食パーティから、俺とレオンは犬猿の仲だ。
「ギルマス。落ち着いてください」
「バンも煽らないの」
そしてガイとメルナが諌めるまでが一連の流れだ。
「「ちっ!」」
「はあ、まったく……」
ガイがため息をつく。
ガイには悪いが、レオンとは仲良くなれる気がしない。
「うるさい……喧嘩しないで」
戦闘の場でも白いゴスロリ姿のミリアが煩そうに端正な顔をゆがめる。
「おいレオン! いちいちバンにつっかかるんじゃねえ!」
「そうよ! 大の大人がみっとみない」
ベアトリクスとメルナがレオンに注意するが、
「……ちっ、行くぞ」
レオンはガイを連れて自分の陣地に戻った。
「……なんであんなに絡んでくるんだ?」
「嫉妬でしょ」
俺の疑問にメルナが答えた。
嫉妬? なんで?
「なんでだ? どっちかというと恵まれた環境にいるのはあっちだろ?」
「そういうことじゃないの」
「じゃあ、どういうことだよ?」
「はぁ…本当に分かってないのね」
メルナが呆れてため息をついた。
「貴方は希少な男のギフト持ちよ。レオンはそれが気に入らないのよ」
「え、それだけで?」
そんなことで絡んでくんなよ。
「レオンの力の信奉者だからね。鍛え方も他の人と違うのよ」
「ああ、要するに脳筋なのね」
「脳筋?」
俺の言葉にミリアが疑問を持った。この言葉はこの世界ではないのか。
「脳みそまで筋肉で出来てるって意味。様は筋肉馬鹿」
「……なるほど。確かに」
ミリアが納得してウンウンと頷く。
「否定はしないんだ」
「ええ……レオンはお飾りで、ギルド運営は実質ガイが行っているって話」
ああ、あのインテリヤクザならやるな。
「バン! あいつらがなんかしてきたら何時でも頼ってくれていいぜ!」
「ああ、ありがとう」
その時はベアトリクスの好意に甘えるとしよう。
「待たせたわ」
会話が一区切りしたタイミングで、協会長のマリナが陣地に着いた。
立食パーティの時のような妖艶なドレスを身につけて、手には大槌を持っている。
「……あんな薄着で大丈夫なのか?」
「巨人族は普通の人より遥かに頑丈らしいわよ。あのドレスも貴重な素材が使われているみたいだし」
なるほど、頑丈さを生かして起動力に振ったのか。
「『飛脚』の斥候部隊によると、予想通りこちらに向かって来ている」
……やっぱり来るのかぁ。
「会敵まであと1時間の予定だ。全員準備を!」
マリナの指示に従い、それぞれ駆け足で準備する。
作戦はこうだ。
部隊を前後2つに分け、前方の部隊は攻撃力を生かした部隊。後方の部隊は弓や遠距離攻撃のギフト持ちを配置する。
『飛脚』やレン達支援部隊は、更に後方で野営地を建設。ハーピィが上空から偵察、物資や負傷者の搬送を行う。なので20人程が足の速いケンタウロスが部隊に同伴する。
俺は近~中距離が得意な為、前方に配置された。
「巨獣が近づきます!」
『飛脚』のメンバーのパーピィの女性が空から降りてマリナに連絡する。
「総員、戦闘準備!」
前方の部隊を指揮するのは協会長のマリナ。自身の体格と同じ大きさの大槌を持ち上げる。
――ン
ん?
――ズン
最初は小さな地響きから始まった。
――ズン!
「地震か?」
部隊の1人が言う。
――ズン!!
「違う!振動が等間隔過ぎる! これは――!」
「……足音だ」
「……来たわね」
――ズン!!!
マリナの言葉通り、それは姿を現した。
それの第一印象は、岩山だった。
――ズン!!!
それの全高は50m程、全長はもっと長いだろう。
――ズン!!!
それが一歩足を踏み出すたびに、木々が折れ、大地を揺らす。
――ズン!!!
それはまるで岩の柱の様な6本の足で歩き、背中は火山のように煙を出し、頭は岩で作られた竜を髣髴とされる。
――ズン!!!
それは、炎の様な赤い目で俺達を無視して前方を睨んでいる。
「これが巨獣……」
外見は細長い亀というべきか、だが、圧倒的な存在感を出している。
流石生きた災害と言われるだけある。誰もが恐怖か、あるいは武者震いかで体を震わせていた。
「臆すな!!」
マリナが全員に喝を入れる。
「臆すと死ぬぞ! 死んだら大切なものが守れぬぞ! 逃げるな! 戦え! 死ぬなら戦って死ね! ヤツと都市に近づけさせるな!」
「「「「おおおおー!!」」」」
マリナの言葉に、全員覚悟を決めたのか、叫び声をあげ、真っ直ぐ巨獣を見据える。
「――総員、突撃!」
マリナが先人を切り走り出す。他もそれに続く。
こうして、巨獣との決戦が始まった。
次回「巨獣①」




