7話 前夜
それからは、瞬く間に日が過ぎていった。
それぞれの役割を振られたので、そっちの対応に大忙しだ。俺達も顔を合わせることが少なくなった。
俺も前衛でフォーメーションやら配置をを覚えたり、訓練に忙しい。……『明けの明星』のメンバーが嫌がらせの様に絡んでくるが。
どうも、俺がレオンをおちょくったと話が伝わっており、レオンを慕っているメンバーから敵意を向けられているみたいだった。
勿論、懇切丁寧に誤解は解いた……聞かない人には肉体言語で対応した。
やがて、『飛脚』からの情報によると、巨獣はゆっくりとだが『フォルト』に向かってきており、計算では明日には着くらしい。
今日は各々準備をして、英気を養うことになった。
俺は何処も店が開いてない街を歩く。
普段は沢山の自動車や人が往来しているのに、避難が完了した今は自動車どころか人っ子一人もいない。まさにゴーストタウンと言った景観だ。
そんな中、俺は『ロガーティア武具店』の前に立つ。
店の扉には「開店」の札が掛けられていた。
――カランカラン
扉を開けると鐘が鳴り、奥からティアが顔を覗かせた。
「おや、意外じゃな」
「そっちこそ、避難しなくて良かったのか?」
「いいんじゃ。もう十分生きたし、この店にも愛着があるしのぉ」
ティアがどこか遠い目で店を見回す。
「エルフの寿命ってどの位なの?」
「だいたい700年位じゃ。ある程度年を取ると老けもせん。それで何のようじゃ? ワシに会いに来たのか?」
「ああ……頼みがある」
「ほう、同衾なら大歓迎じゃが、そういう訳じゃなさそうじゃのぉ」
相変わらず、俺を狙っているらしい。
「こんな状況でも変わんないな」
「こんな状況だからじゃ。心残りは無いに越したことはない」
まあ、言いたい事は分かる。だが――。
「俺は死ぬつもりは無いし、ティアも死なせるつもりもない」
「……」
ティアは驚いて目を見開いた。
「驚いたのぉ、お主からそんな言葉を聞かされるとは、下腹部がキュンキュンしたわい」
「やめれ」
「そっけないのぉ……それで、どんな頼みじゃ?」
「俺に……この店の核石を全部くれ」
「……はあ?」
「勿論全部支払う。だが、大切なことなんだ」
そう、今の俺には核石の確保が戦いの生命線だ。
しかし、避難勧告が出されてからダンジョンは閉鎖されてしまった。
色々忙しかった所為で核石の確保が遅れたから、ティアの武具店が開いていると知った時、もうここに頼るしかなかったのだ。
「ティアは加工師なんだろ? 余っている屑核石でも、加工済のものでもいい。頼む!」
俺はティアに、カウンターに頭をぶつける勢いで頭を下げる。
「……なるほど、その篭手じゃな。分かった。持っていけ」
事情を知っているティアが察して、核石をありったけ持ってきてくれた。
その量は持ってきていた鞄をパンパンにするほどだ。
「代金は?」
「戦いが終わったら請求するわい…だから生きて帰るんじゃぞ」
「分かった。ありがとう」
俺は頭を下げて礼を言う。
「…そうじゃ、顔をワシに近づけい」
「あ、ああ」
何をする気だとは思いながらみティアに顔を近づける。
――チュッ
「な!?」
ティアが俺の額に口付けをした。
「おまじないじゃ。本当は口が良かったんじゃがのう。礼ならこっちに言って欲しいもんじゃ」
ティアがからかいながら、なんともなしに言った。
「そうか…ありがとう」
「よいよい」
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「うむ、生きて帰るんじゃぞ」
俺はティアの店を出て、街を歩いた。
◇
「お、帰って来たか」
家に帰ると、3人が食堂で俺を出迎えた。
「どうしたんだ?」
「飯作ってくれ」
俺が聞くと、ロゼから料理の催促をされた。
「保存食食えばいいだろ? 栄養はあるし」
「不味いから嫌だ。今日くらい美味いものが食いたい」
まあ、気持ちはわかるが、
「バンしか料理できないのお願い」
「お願いします」
「……はあ、分かったよ。ちょっと待ってろ」
俺は調理場に行き、冷蔵庫を開ける。
入っていたのは卵とハムだけ。後、探し回ったら米と葱に似た野菜があった。
「この材料なら作るのはアレだな」
俺は葱とハムを小さく切り、フライパンに油を引き火をつける。そこに卵を割って入れて、すぐに米、ハム、葱を入れて炒めて塩、胡椒で味付けをする。
皿に盛り付けてスプーンと一緒に食堂に持っていった。
「出来たぞ」
「これ、なんて料理?」
「チャーハン」
俺が作った料理が何なのか知らなかったらしい。レンが聞いてくる。
「いい匂いだ。食おうぜ」
「ええ、頂きましょう」
そうしてチャーハンを口に入れる。
「なかなか美味いな」
「だろ?」
ロゼの感想に俺は当然とばかり言う。
手軽だし、失敗しにくいのがチャーハンのいいところだ。
「美味かったです」
「ええ」
「お粗末さん」
チャーハンを食べ終え、食後のお茶を準備する。
「こういうのは、いつもノアかカナがやってくれてたんだけどな」
家事をやってくれていた2人には感謝だ。
「お茶もってきたぞ」
「ありがとう」
レンは明日に備えて、資料をよみながら礼を言う。
「それは?」
「明日の輸送物資の資料よ。主に回復薬とかね」
レンは補給担当で、『収納』で大量の物資を『飛脚』の人達と運ぶ役割を担っている。
予備の武器や医薬品は明日の戦いには必要だ。レンもプレッシャーを感じているだろう。
「なんか、バンは落ちついているわね」
「そうか?」
「そうよ。後方支援の私だって、恐怖で緊張しているのに……ほら見て、手、震えている」
そう言って、レンは小さく震えている自分の手をみせる。
「ロゼもアウルムもじっとできないんでしょうね、庭で体を動かしてるわ」
言われれば、2人の姿が見えないな。
「俺だって緊張してるぞ」
「でも、恐怖している様には見えないわ」
……確かに、あまり恐怖が湧かないな。
「ねえ、バン……本当に何者?」
「そんなの、俺が知りたいよ」
目下、そのために行動してるんだから。
「そうね…ごめんなさい」
「別にいいよ…ほら、今日は速く寝な。寝不足は明日に響くぞ」
「分かったわ。2人も呼んで来る」
そう言ってレンは立ち上がり、庭に向かう。
「何者か?…か」
本当になんだろうな俺は?
「まあ、いいか」
今考えてもしょうがない。今は明日の事を考えよう。
俺は部屋に戻り、眠ることにした。
「いつまでやってんの……」
レンが2人に会いに行った時、2人はまだ訓練していた。
「これ以上は明日に響くわよ。もう寝なさい」
「分かっているんだがな」
2人が動きを止め、レンと向き合う。
「どうも動いてないと落ち着かない」
「私もです」
レンは、ロゼが本当のことを言ってないのにすぐ気づいた。
「……本音は?」
「気付いていたか」
「ふん、当たり前でしょ……幼馴染なんだし」
レンは当然と言わんばかりに鼻息を鳴らして言う。
「やれるだけやっておきたいんだ。少しでもバンの負担を減らす為にな」
ロゼは自分の信条を吐露する。
「今回もそうだ。あいつが一番危険な場所に行く。対してオレ達は都市の防衛と支援だ」
「……そうね。バンが1番年下なのにね」
「歳の割には達観しているがな」
「ロゼはバンに心配させまいとして、訓練しているんです」
アウルムがロゼをフォローするように言う。
「分かってるわよ…ただ、それで明日に響いたらどうしようもないでしょ。もう休みましょう?」
「……そうだな」
「ですね」
ロゼとアウルムは訓練をやめて家に戻る。
「……私だってこのままでいいと思ってないわよ」
レンの独り言は、夜風に遮られて誰にも聞こえなかった。
次回「決戦」




