3話 ギフト
「……朝か」
朝日で眼を覚まし、いつでも対応できるように寝ていたせいで熟睡はできなかったが、目覚めは悪くなかった。
横を見ると、カナはまだぐっすり眠っている。
起こすのもかわいそうなので起こさない様に起き上がり、川に向かい顔を洗う。
「んんー」
顔を洗い終わった頃にカナも目を覚まし、毛布から出てきて背伸びをしていた。
「おはよう」
「あ――おはよう」
「よく眠れたか?」
「うん」
顔を洗ってくるように促して、川辺に向かっていくカナを見送ってから朝飯の準備をする。
毛布を片付けて、ズタ袋からビスケットを取り出し、消えていた焚き火に火を起こして、飯盒に水を汲んで煮沸消毒しながら昨日の残りのウサギ肉を枝を削って作った串で焼く。
水を水筒に移した後に串焼きもいい感じに焼けたので、カナとビスケットと串焼きを食べた。
「……これ、おいしくない」
「……そうだな」
ビスケットは乾パンに近く、お世辞にも美味しいと言えない。しかも硬くてパサパサしている為、口の中の水分を持っていかれる。
せっかく補充した水筒の水もすぐに無くなりそうだ。
するとカナが突然、ビスケットをモソモソと食べていた手を止めて、キョロキョロと辺りを見渡してある一点を見つめる。
「どうした?」
「……ついてきて」
そう言ってカナが立ち上がると、森に向かって歩き出した。
「おい、どこ行くんだ?」
慌てて立ち上がり、カナの後について行く。
カナの足取りに迷いはなく、ある木の前で立ち止まり、木の上を見上げる。
俺もカナと一緒に木を見上げると、黄色い果物が幾つも実っていた。
「とってくる」
「え?」
そう言うとカナはひょいひょいっと器用に木を登り、果物をもぎ取り、何個か俺に向かって落とした。
「おっと」
キャッチした果物は見た目は梨に近く、熟していて瑞々しそうだ。
「どうだった?」
スルスルと木から降りたカナがえっへんと平らな胸を張って自慢していた。
その姿は子供らしく、歳相応でかわいい。
「凄いし偉いけど、食べれるの?」
「うん。それ、シナの実。割ったら甘い水が出てくる」
「へぇー」
試しにナイフで真っ二つに切ったら白い水が溢れ出てきた。
果実には実がほとんどなく、白い水と殻に種が付いていただけだった。まるでココナッツみたいだ。
白い水を一口飲んでみると、リンゴジュースに近い味がして美味い。
残りのシナの実も先端を切り、カナに渡してお互いにあっと言う間に飲み干した。
「この木に実ってるの知ってたんだ」
「ううん。知らなかったし、見た事ない食べ物。でも分かった」
「はい?」
知らないのに、分かった?
「……どういうこと?」
「これがわたしのギフト」
「ギフト? ……なにそれ?」
「あ、そうか。記憶無かったもんね」
そう納得して、カナは説明してくれた。
ギフトとは、ある日突然知覚できて使える能力らしい。一説では神様がくれる贈り物だからギフトと名付けられたとか。
ただ、全て人が持っている訳ではなく10人に1人いるかだそうだ。故にギフト持ちは重宝されるとの事。
ちなみにカナのギフトは『千里眼』。遠くを見る事ができ、自分の見える範囲内なら何があり、どんなものか、危険なのかが分かるらしい。
だから昨夜危険が無いって言っていたのか。
……ギフト持ちが重宝されるならなんでカナは森にいるんだろうか? まぁ、本人が喋るまで聞かないって言ったし、聞かないでおこう。
「ところで、昨日俺に会ったのってギフトのおかげ?」
「うん。悪い人じゃないって分かったから」
「さよで……ちなみに、俺もギフトって持っているか分かる?」
あまり期待せず、軽い気持ちで聞いてみた。
「んー、とりあえず見てみる」
じっとカナに見つめながら待つ事数秒。
「持ってる! すごい!」
カナが目を大きく見開いて驚いていた。
「なんでそんなに驚いてんの?」
10人に1人の割合なら持ってても良さそうだけど。
「男の人がギフトを持つのは少ない」
「そうなの?」
聞くと理由は分からないが、男性がギフトを持っているのは女性より少ないらしい。
ギフトの事は分かったがここは異世界。やっぱりこれは聞いておきたい。
「魔法は使える?」
「魔法? なにそれ? ギフト?」
「そんな!?」
カナのリアクションから、この世界には魔法がないと知りショックをうけた。
「異世界の定番のファンタジー要素がないだなんてっ!」
「よく分からないけど、そんなに落ち込まなくても……」
ギフト持ってるだけでもすごい事だよ。と励まされたが、やっぱり異世界なら魔法でしょ。使ってみたかったな。
「そういえば、聞くの忘れてたけど俺のギフトってどんなの?」
「『貫通』。貫く力を上げるみたい」
「何それ強そう」
聞くと俺が投げる、射る、撃つの攻撃をする時に発動できて、貫通力が上がるらしい。ただし、速度や飛距離は変わらない。
しかも戦闘向けのギフトは希少との事。
「ギフトはどうやったら使える?」
「使うって思えばいい」
「なるほど」
実際に使ってみようと思いリボルバーを抜き、カナに少し離れる様に言い、少し離れた幹が3m以上はある大木に狙いを定める。
ギフトを使う事を意識して撃鉄を引き、引き金を引く。
ドォン!!
「うぉ!!」
身体が吹き飛びそうな程の反動が腕を伝い、思わずバランスを崩しそうになるがなんとか堪える。
肝心の弾丸は一瞬だが赤い光弾になったのが見え、気が付けば大木の幹に半分以上の大穴を開け、少ししたら大木はミシミシ音を立てて地面に倒れた。
「「……」」
余りの威力に俺もカナも呆然と大木が倒れるのを見ていただけだった。
「……本気出した?」
「いや、分からん」
そもそも初めてギフトを使ったし、力加減なんて考えてなかった。
ただ使った感じ、力を溜めればまだ威力は上がりそうだ。
あと、1発撃っただけで少しきつい。体力とか精神力とかを使うみたいだ。
この威力だし、ギフトの扱いは考えた方が良さそうだ。
「……とりあえず、ギフトはできるだけ使わないようにしよう」
「うん、それがいいね」
ギフトの検証を終えて、身支度を整えて焚き火の火を消して出発の準備をする。
さて、どっち行こう?
カナの力で分かったりしないかな。聞いてみるか。
「どっち行ったらいいかギフトで分かったりしない?」
「むり。見る限り人の痕跡がない」
「そっかぁ。しょうがない、とりあえず川沿いを下るしかないな…行こうか」
「うん」
こうして俺達は川沿いを下って行った。
次回「野盗」