19話 居場所
「……知らない天井だ」
目が覚めたら、知らない天井だった。
俺は清潔なシーツのベッドの上に横になって寝ていた。
どうやら、此処はダンジョンではなく病院らしい。
ふと左腕を持ち上げる。
「……やっぱりないか」
左腕は、手から前腕の半分が無くなっていて、痛々しく包帯が巻かれていた。
まあ、あのモンスター相手に生きてただけ儲けもんか。
とりあえず、起きよう。
「……ん?」
「すぅすぅ」
起き上がると、カナが俺の腹を枕にして椅子に座って寝ていた。
どうやら、俺の看病をしてくれていたらしい。
「カナ、カナさんやー」
俺は治っていた右手でカナをゆすり起こす。
「んん……」
カナが目を擦りながら起き上がる。
「おはよう」
「ん……おはよ――」
カナが俺を見て目を見開く。
「バンー!!」
「ぐへぇ!?」
俺はカナに抱きつかれ、再びベッドに寝転んだ。
俺は医師の診断を受けた後、何処も異常が見られなかったので、3日後に退院できると言われた。
「ぐす、ぐす…うう」
「ほら、もう泣くなって。大丈夫だから」
診断中も俺に抱きついて泣いていたカナの頭を撫でながら慰めるが、一向に泣き止まない。
「心配かけて悪かった、すまん、許せ」
「うう…本当だよ」
ようやく落ち着いたのか、カナが泣き止んで俺から離れた。
「とりあえず、みんな無事でよかった」
カナが落ち着くのを待っていたレン、ロゼ、アウルムに話しかける。
グレイも無事らしく、病院に入れないのでノアと家で留守番らしい。
「1番重症のバンに言われてね」
「そうだ。3日も寝てたんだぞ」
「でも…無事でよかったです」
そうか、俺は3日も寝ていたのか。
「それで、あの後どうなったんだ?」
「そうだな……」
ロゼの説明によると、気を失った俺に応急手当をして、全員の回復を待った後、俺を背負ってダンジョンから出たらしい。
「それからバンを病院に運んだ後、手続きして今に至るわけだ」
「手続き?」
「お前の治療費に核石の査定や換金だ」
「そうか…迷惑かけた」
俺は全員に頭を下げる。
「謝るな。むしろオレ達が謝るべきだ。オレはほとんど何もできなかった」
「そうね。ごめんなさい。貴方だけ危険な目にあわせて」
「そうです…私なんて何もできずに気を失っていましたし」
3人が俺に頭を下げる。
「「「ごめんなさい。そして、ありがとう」」」
「あ、ああ」
別に気にしなくていいのに。
不意にシーンと静かになり、雰囲気が暗くなる。
「そ、そうだ。今回の査定はどうだった?」
俺は場の雰囲気を崩す為にあえて明るく言った。
「…聞いて! 今回の探索で金貨20枚になったの!」
レンも気を利かせて明るく振舞う。
「そうだ。あの特殊モンスターの核石が今までない物だったらしくてな。あれ一個で金貨13枚だったんだ!」
「そうです! しばらく生活に困りません」
ロゼとアウルムもレンに続く。
「そういえば、査定であの篭手は?」
確か、特殊モンスターが消えた時に篭手は残った記憶があるが。
「あの篭手ね…実は査定に出してないの」
「え、なんで?」
あの性能なら、とんでもない高値になる筈だが?
「バンはその…左腕失ったでしょ?その代わりにならないかなって」
「篭手を?」
そんなことできんの?
「カナちゃんに見てもらったら、篭手から出る霧っぽいやつは装着者の意思で操れるらしい。それで左腕の代わりにならないか」
それで査定に出さなかったの。
「でもいいのか? 俺が使って」
「言いも何も、あのモンスターを倒したのはバンですし、他のメンバーも同意しています」
アウルムの言葉にレンとロゼもウンウンと同意している。
「そうか…なら、ありがたく使わせてもらうよ」
「じゃあ、早速」
レンが鞄から篭手を出して俺に渡す。
改めて見ると、篭手は今は光ってない所為か青色で余計な装飾もない。見た目は人形の腕みたいだ。
俺は恐る恐る篭手を左腕に装着する。
「おっ」
篭手はまるで吸い付くようにくっついた。
左手があった時と同じ感覚で手を動かすと、タイムラグもなく手が動く。
すごい。もしかしたら訓練次第で失った左腕よりも自由に動くかも。
「ちゃんと使えるみたいだな」
「ああ。まるで元々あったみたいに動く」
「よかった…退院まで3日あるからそれまでに慣らしておくといいわ」
「そうする」
「それじゃあ、そろそろ面会時間も終わりますし、私達はこれで」
「そうね…カナちゃん、帰りましょう」
「……ん」
レン達の帰宅にカナは渋々と頷く。
「それじゃあ、お大事に」
「また明日来ます」
「ちゃんと飯食えよ」
「……またね」
「ああ」
それぞれ挨拶を交わし、皆部屋を出て行く。
とたん、病室がシーンと静かになった。
……少し寂しい。
「……さて」
気を取り直して、俺は篭手の練習を始めた。
◇
3日後。
無事に退院した俺は、家の前に着いた。
「どうしたの?」
家の前でボーと立つ俺にカナが聞いてくる。
「いや、なんか久しぶりな感じがして」
「そうか。7日は離れていたからな」
ロゼがウンウンと頷く。
「ここで立っててもしょうがないでしょ。入りましょう」
そうだな。
俺が家に入ろうとした時、
「ワンワン!」
「うお!?」
庭から走ってきたグレイが俺に飛び込んだ。
「グレイ! 元気だったか?」
「ワン!」
見た目傷一つない。モンスターとの戦いで負傷した傷も完治したみたいだ。
俺はグレイの体をわしゃわしゃ撫でる。
「ワ、ワフー!」
そうか、くすぐったいか。もっとわしゃわしゃしてやろう。
「おや、皆様おそろいで」
家の前で騒いでいたからか、ノアが玄関から出迎えに来た。
「ノア! 久しぶり!」
「そうですね。ノアはまたバンと会えて嬉しいです」
相変わらず眠たげな目をしていたが、歓迎してくれた。
「バンがいなくなると、ノアの給料が下がるので」
……あ、そうね。
「……冗談です」
「いや、無表情で言われても分からないから」
ノアの冗談にレンが突っ込む。
「まあ、皆さん、ひとまず家に入りましょう?」
「そうだ。じゃれ合いは中でも出来る」
そう言ってアウルムとロゼは家に入る。
「まったく……」
「まあまあ……グレイさんもご飯の時間です」
「ワン!」
続いてレンと、レンをあやしながらノアとグレイも家に。
「バン」
「ああ」
最後にカナと俺が家に入る時、カナが先に入って、
「お帰りなさい」
と言った。
…………そうか。ここがもう、俺の居場所になっていたんだ。
「どうしたの?」
「いや……ただいま」
例え記憶がなくても、俺は仲間と一緒ならやっていける。
それを確信しながら家に入った。
2章 完




