16話 メイド?
さて、拠点を買ったとはいえ、問題がある。
まず、ダンジョン探索に行ってる間のカナの世話だ。
一応グレイが護衛で住むとはいえ、何日も家を開けると心配になる。
あともう一つ……誰も家事が出来ないということだ。
俺とカナはある程度できるが、他の面子はてんでダメ。
と言うわけで、『日溜まり亭』の女将に頼んで家事一式を教えて貰っている。
せめてリフォームが終わるまでに人並みに出来てほしいが……。
「ああー! スープが変な色に!」
……。
「おい! 洗濯機から泡が大量に出て来たぞ!」
……。
「ふぎゃっ! ああ…転んで皿が!」
……ダメだこりゃ。
俺とカナでフォローしているが、限界がある。むしろ、ダンジョン探索より疲れたかもしれない。
あと、邪魔すんなと言わんばかりの女将さんの目線が怖い。
「なあ…よくこの有様で屋敷を買おうと思ったな?」
「「「う…」」」
「これじゃ探索どころじゃないぜ? どうすんの?」
いや、本当にどうすんの? 引っ越したら探索どころか、生活すら出来る自信がないぜ。
「か、家政婦を雇うとかは?」
「それ、宿泊費を無くす為に買ったのに、人件費払うなら意味ないじゃん」
「…ですよねー」
レンの提案を一蹴する。
そんな事がありながらも時間は無情に過ぎていき、拠点のリフォームが終わり、いよいよ宿を出払う日が来た。
「……結局、まともな家事が出来るようにならなかったな」
「「「…すみません」」」
レン、ロゼ、アウルムの家事力は結局上がらず、今後の生活は俺とカナでやっていくしかない。
「お世話になりました」
チェックアウトを済ませて、女将のカンナに挨拶をする。荷物は拠点に移動済だ。
「はいよ、偶には飯を食いにきな」
「はい…たぶんすぐ来ると思いますが…」
「……まあ、がんばんな」
女将さんの同情だか励ましだかの言葉を貰い、宿を出る。
そして、新たな拠点に着いて5人と1匹は扉の前に立った。
「これから新しい生活が始まるのね」
レンは新しい生活に胸を躍らせていたが、俺の心境は逆だ。
というか、楽観しすぎだろ。
はぁ…始まってもないのに胃が痛い。
「さあ、入りましょ」
レンが鍵を出し扉の開錠をした時――。
「――あの、少々よろしいでしょうか?」
後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこには……メイドがいた。
歳は20歳半ば位か。綺麗に揃えられたセミショートの艶やかな黒髪に眠そうな目つきの茶色い眼。
グラマウスな体型をメイド服がきっちり纏い、頭にはカチューシャ。
まさにメイドを体現したような様相だ。
「あの…何か?」
レンがメイドに問い質す。
「貴女方は冒険者ですか?」
「ええ…このメンバーでパーティー組んでるけど」
「ノアも、パーティーに加えてくれませんか?」
「……はい?」
◇
「名前はノア。見ての通りメイドです」
「はあ……」
とりあえず、立ち話もなんなので屋敷の談話室で自己紹介をした。
「それで…なぜメイドなのに、雇用じゃなくてパーティーに加入希望を?」
リーダーとしてレンが代表で話を進める。
「ノアはメイドですが、同時に冒険者でもあります」
「それでパーティー加入に?」
「はい。しかしノアは何処のギルドもパーティーにも受け入れてもらえず、貴女方に声を掻けた次第です。それまでワーカーとして細々と暮らしていました」
ギルドどころかパーティーにも入れてもらえない……嫌な予感がする。
「……心当たりは?」
「ノアと組んだ方々は「モンスターを討伐できない奴と組めるか!」といわれました」
やっぱり訳ありかよ!
「ノアは元々要人の警護で雇用されて、雇用主が暗殺されて解雇されました」
なんか厄ダネの気配もしてきたが。
「何処も雇ってくれないので技術を生かして冒険者になりました。対人戦は得意としておりましたが、何故かモンスターには通用せず…何故でしょうか?」
「そ、そう……」
流石のレンも引いてるぞ。
「ちなみにギフトは?」
「持ってませんが、ナイフ術に自信があります。と言う訳で、パーティーの加入を希望します」
説明を終えて、自信満々でパーティー加入を希望してきた。
……どこに今の説明でパーティーに入れると思ったのだろうか?
「……少し待ってて。全員集合」
レンが部屋の隅に俺達を集める。
「……どうする?」
「正直……厄介事の気配もするが」
「モンスターを倒せない冒険者ねえ……」
「……あの、入れてもいいのでは?」
俺とレン、ロゼが悩んでいる時、アウルムが加入を賛成した。
「だってメイドですし、家事は得意じゃないでしょうか。今の私達には必要な人材では?」
「まあ、そうだけど……」
悩むレン。まあ、気持ちは分かる。
冒険者なのに冒険させないって、どう説明すれば納得させれるんだ?
「……そうだ」
いい事を思いついた。
「どうしたバン?」
「ノアは元々要人警護で対人戦のエキスパートだ。ならメイド兼拠点警護の名目で加入させるのはどうだ」
これで俺達がダンジョン探索をしている時もカナの面倒を見てもらえるし、家の管理もしてもらえる。
「…いいと思う。危ない人じゃない」
「決まりね」
カナのお墨付きも出たので、これで決まった。
「お待たせ」
レンがノアに結果を伝える為に対面する。
「大丈夫です。それで…」
「その前に一応質問。あなた、家事はできるわよね?」
「勿論です。メイドなので」
「…ちなみに一番得意なのは?」
「諜報と尋問、あと拷問です。メイドの嗜みなので」
ノアが胸を張って誇らしげに答えた。
……それはメイドに必要なスキルなのか?
「そ、そう……コホン。まず、話し合った結果。ノアの加入は認めるわ」
「おお!」
眠そうな目で表情はあまり変わらないが、嬉しそうな声を出した。
「ただし、貴女にはこの家の管理と、この子と家の警護を任せたいの」
レンが横目にカナを見るその視線にノアも気付いていた。
「…つまりノアはダンジョンを探索しないと」
表情は変わらないが、落胆しているように聞こえる。
「そうよ……恥を忍んで言うけど、私とロゼ、アウルムは家事が出来ない。あとダンジョン探索の時はカナちゃん1人とグレイ1匹になって、心配なの」
「なるほど…」
此方の事情を説明してノアは考え込む。
「……そういう理由ならノアは反対しません。今後ともよろしくです」
「こちらこそよろしく」
ノアはレンと握手を交わして合意をした。
「あと、報酬の件だけど。私達がダンジョンで稼いだ金額の1割でどうかしら」
「それで構いません」
悪くない条件だったのだろう、ノアも納得してくれた。
こうして頼もしいメイド? が新しくパーティーに加わった。
ちなみに、この後ノアとギフトなし、飛び道具なしの模擬戦をしたが、誰も勝てなかった。
流石対人戦のエキスパート。
ただ、ノアと拮抗した勝負をしたのが1匹。
「ワゥ!」
「く、なかなかやりますね!」
ブレイドガルのグレイだった。
1人と1匹の戦いは結局勝負がつかず、引き分けに終わったほどだった。
制限があったとはいえ、俺達の戦闘力はグレイに劣っていたのがショックだった。
今度グレイかノアに稽古つけてもらおう。
次回「3層①」




