7話 ロガーティア武具店
「ここか」
ベアトリクスから貰った地図を見ながら進み、『ロガーティア武具店』に着いた。
隣のキラキラしたデカイ建物に比べてこじんまりとして、外見はよく言えば風情があり、悪く言えばボロい。
……ベアトリクスの紹介とはいえ大丈夫だろうか?
「……とりあえず入ってみるか」
扉を開けて入ると、剣等の武器類に防具、薬品など色々雑多に置いてある。
雑貨店も兼ねた店みたいだ。
「おや、いらっしゃい」
店の奥のカウンターに武具屋には不釣合いな少女がいた。
歳はカナと同じか少し上。長い銀髪をうなじで赤いリボンでまとめ、大きな釣り目の翠眼。カナがかわいい形ならこっちは綺麗形の整った顔立ちだ。
だが一番目を引いたのは先のとがった長い耳と……なぜかバニーガールに白衣を纏っていた。
「ふむ、どうしたんじゃ?」
俺が少女の格好を見て固まっていると、鈴のような綺麗な声なのに年寄りの口調でしゃべりかけてきた。
「いや、なんでも……」
「そうか…紹介が遅れたのぅ。ワシはここの店主のロガーティアじゃ。ティアと呼んでくれ」
「え!?」
この少女が店主!?
「驚いてるのぅ、見た目は幼いが見ての通りエルフじゃ。お主よりずーっと年上じゃよ」
おお、ファンタジーで定番のエルフか!
「なんさいなの?」
「カナ?」
俺が驚いている間にカナがティアに質問した。この子たまに物怖じしないよな。
「ふうむ。500歳は超えとると思うんじゃが……正確な年齢は忘れたわい!」
ティアはカナの質問に怒ることなく快活に笑い答えてくれた。
まさかの500歳超え。さすがエルフ。
「それより、そろそろおぬし達の事を聞きたいのじゃが? あ、敬語はいらぬぞ」
「あ、ああ。俺はバン。この子はカナ。ベアトリクスの紹介で来た」
「ほお、あの娘がのぅ」
ティアはカウンターから出て俺の前に立った。
「それで、何が欲しいんじゃ?」
俺を見上げて楽しそうに笑って聞いてきた。
「その前に、質問いいか?」
「ん? なんじゃ?」
ティアは首を傾げて聞く。
「なんでバニガールで白衣なの? ここ武具屋だよな」
「なんじゃ、そんなことか」
ティアが一歩下がってくるりと一回転。
「どうじゃ? かわいいじゃろ?」
「まあかわいいけど」
「反応薄いのぅ……ほれ、隣に大きな建物があるじゃろ?」
「ああ、あのキラキラした」
「うむ。あそこはカジノでの。ワシの店はご覧の通り閑古鳥が鳴く状態じゃ。じゃからそこで働いておる。まあ、ワシが可愛い格好が好きなのも理由じゃが」
……大丈夫なのか? この店。
「で、白衣のほうじゃが、こう見えてもワシ、加工師なんじゃ」
加工師?
「なにそれ?」
「ぬ、加工師を知らぬのか? 加工師は核石を加工する技術者の事じゃ」
「へー。どうやるんだ?」
「核石を用途に応じて彫るんじゃ。回路と呼ばれておる。常識なんじゃが」
そうなんだ。
「核石は回路の刻み方で効果が変わる。ワシはその研究もしておるのじゃ」
「すごいじゃないか」
「お主もそう思うか!? なのに上はワシに研究をさせてくれん!」
「なんでまた?」
まさか、政治絡みとか、技術の独占を恐れたとか?
「ふん、たかが建物を2、3軒吹き飛ばしただけで研究の中止じゃ!」
あ、納得。……この人マッドサイエンティストの類だ。
なんとなく、ベアトリクスの歯切れの悪い理由が分かった。
「おかげで核石を自前で調達。店もこの有様。常時金欠よ」
それでカジノで働いてたのね。
「わたしもいい?」
カナがまたティアに質問した。
「なんじゃ娘っ子」
「なんで男の人なのにバニーガールなの?」
…………え?
「なんじゃ、ばれとったか」
「ん」
「おおお男なの!!?」
見た目少女なのに!?
ティアを頭からつま先まで何度も視線を往復する。
すると一箇所、股間の膨らみに違和感が……マジで男?!
「初見でワシが男だと見破ったのは娘が初めてじゃ! ……どれ、特別にサービスしてやろう。何が欲しいんじゃ?」
呆気に取られていた俺にティアが尋ねて、やっと我に返った。
「あ、ああ。防具が欲しいんだが、できれば軽いやつで」
「ふむ…待っとれ」
そう言ってティアは防具が置いてある棚に向かった。
「んーこれかのぅ……いや、こっちが売りつけやすいか?」
ティアの独り言が聞こえて、なんか不安になってきた。
「待たせたの」
ティアが持ってきたのは鎧の様な防具ではなく、黒い服と赤いジャケットだった。
服は長袖Tシャツとズボン。ジャケットはフード付きで首が襟で隠れるようになっている。
「服じゃん」
「いやいや、一見ただの服じゃが、服は対衝撃に防刃、ジャケットは防火、防寒性が高く、両方ヘタな鎧より丈夫じゃよ」
「本当?」
「本当じゃよ。なんとこの服はブラックスパイダーの糸、ジャケットはレッドウルフの毛皮が使われているのじゃ」
いや、ブラックスパイダーもレッドウルフも知らない。
「バン、ほんとう」
俺の裾を引っ張って、カナがギフトを使ったのか教えてくれた。
カナのお墨付きなら鎧より動きやすそうだし、これでいいかな。
「分かった。これ幾ら?」
「金貨200枚じゃ」
高っ!
「これでもサービスしておるんじゃ。これ以上は下げれんぞ」
「うーん……」
欲しい欲しくないといったら……欲しい。でもなぁ。
「分かった分かった。ついでにこれも付けてやるわい」
俺の心情を察してか、ティアが持ってきたのは手袋だった。
手袋は指ぬきの革製で、手の甲に金属板が付いている。
「このグローブも頑丈さは折り紙つきで、冒険者から愛用されとるぞ」
カナのほうをちらりと見ると、俺を見てコクンと頷いた。本当らしい。
「分かった。買うよ」
「おお毎度!」
「金は今から協会に行って来るから待ってくれ」
「それなら、こっちに来るのじゃ」
ティアはカウンターに連れて行き、小切手みたいのに金額を記入し、こちらに差し出す。
「ここにサインと、親指を押すのじゃ」
言われた通りにサインと母印を押す。
「確かに。金は後でワシが協会で受け取るわい」
「分かった」
「ほれ、商品じゃ……あっちに試着室があるから着てみぃ」
試着室に入って、受け取った服とジャケットを着てみる。
少しブカブカだが着心地は良く、動きやすい。
グローブも見た目より軽く手にフィットして、指を開閉しても動きの邪魔にはならなかった。
「にあってるよ」
試着室から出た俺を見てカナが感想を言ってくれた。
「ありがとう」
「それにしても金貨200枚をポンと出すとはの……冒険者になって日が浅いじゃろうに」
「たまたま遺物を見つけて高値で売れただけだ」
探るような目で見られるが、やましいことも無いので正直に答えた。
「なるほど。ダンジョン探索において実力もじゃが運も重要じゃ。おぬしには才能がある証拠じゃ」
「どうも」
「そんなお主にお勧めがあるんじゃが、これなんかどうじゃ?」
褒めてきたと思ったら次は売り込みを始めた。上客と思われたみたいだ。
その後、足の甲に金属が入った革製ブーツに回復薬、保存食を追加で購入した。
財布が軽くなったが、悪くない買い物だった。
「今後も『ロガーティア武具店』をご贔屓に」
「贔屓って言うけど、カジノで働いてるんだろ? 店開いてんの?」
「営業時間は朝9時から昼3時までじゃ。用があるなら夜カジノに来れば会えるぞ」
「ふーん」
「別に用が無くても来てもいいぞ? お主は気に入った。さすがベアトリクスが寄越しただけある」
そう言って舌なめずりして俺に言い寄ってくる。
その瞬間、背中に悪寒が走った。
「なんなら今夜でも来るか? 大人のサービスもするぞ?」
「遠慮する! アンタそっちの気があるのか?!」
「ワシ、両方いけるのじゃ!」
余計たちが悪い。
「ま、気が向いたら来るがいい。待っとるぞ」
「……そのうちな」
最低限来ない様にしよう。俺の貞操が危ない。
そう誓い店を出た。
次回「パーティー」




