5話 探索を終えて
帰りは探索中に片っ端からモンスターを倒したせいか、戦うことなく無事地上に出て夕焼け空を拝む事が出来た。
時計を見ると午後6時。なんとか予定通りにいけたな。
門番の挨拶もそこそこに砦を出て『フォルト』に帰る。
道中、森であったウサギより一回り小さい角が生えたウサギが3匹襲ってきたので返り討ちして持ち帰る。
うちの子は食べ盛りだ。女将さんに料理してもらおう。
そんな事をしていたから『フォルト』に着いた時は城門が閉まるギリギリになるので全力疾走するハメになったが。
『フォルト』に帰還し、疲労で足取り重く宿に戻る。
「いらっしゃい――あ、おかえり」
宿に入ると、エプロンを付けたカナが出迎えてくれた。
「ただいま」
「……ボロボロだね。大丈夫?」
俺の破けて血塗れの服をみて心配そうに聞いてきた。
「ああ大丈夫……それで、なにしてるの?」
「手伝い」
聞けば待ってる間暇なので、今日は従業員が少なく忙しらしかったので、駄賃欲しさに宿の手伝いを女将さんに申し出たらしい。
「まかないおいしかった」
「……昼ごはん出たよね?」
「うん。その後食べた」
「そうか……これ、お土産」
「お肉!? わーい!」
「女将さんに調理してもらいな」
ウサギ肉を渡すと、カナは喜んで女将さん食堂に向かった。
相変わらずこの子の食欲は凄いな。それなのに太る気配が全くない。不思議だ。
「お客さん。ウサギありがとね。使わせてもらうよ」
ウサギ肉のお礼を言いに女将さんが調理場から出て来た。
「ええ。美味いものお願いします」
「あいよ。少し時間掛かるから風呂でも入って待っといて」
「そうします」
俺は部屋に戻り、替えの服と下着を持って風呂に入る。
風呂に入る間に、着ていた外套と服は血で汚れているので洗濯する。
左肩部分が大きく破けた外套と服は修復できるかな? 洗濯後に確認して最悪捨てて新しいのを買うとしよう。
この世界にも洗濯機はあり、女将さんに言えば使わせてもらえるので着ていた服を放り込み洗剤を入れてスイッチを押す。
風呂から上がると洗濯も丁度終わったので籠に入れて部屋に持ち帰り、明日干す事にした。
「ごはんできたって」
部屋に戻った時、カナが呼びに来たので一緒に食堂に行く。
「お、来たね。晩ご飯だよ」
カナと席に座った所で女将さんが食事を持ってきてくれた。
今日はパンとシチュー、そして丸々1匹のウサギの丸焼きだ。
「残りのウサギは他に使わせてもらうよ」
「ええ。いいですよ」
「はやくたべよう!」
「そうだな……いただきます」
こうしてカナと食事をとる。
「モグモグモグ」
「手伝いはあとどのくらいやるんだ?」
食事中にカナに聞いてみる。
「ゴクン……あと、皿洗いしたら今日はおわり。バンはダンジョンどうだったの?」
「ん~、モンスターは小さいのは楽勝だったけど、デカイのはやばかったな。報酬は査定しないと分かんないけどそこそこになるんじゃない?」
「そう……気をつけてね」
「ああ、ありがと」
食事を終えて、カナは皿を片付けて厨房に向かう。
俺は部屋に戻り、荷物の整理。
背嚢に積まれた核石を見ながら今日の戦闘を振り返る。
道中はリボルバーで一方的に倒せたから苦戦はしなかったが、最後のは危なかったな。
ダンジョンに対する警戒と備え、なにより考えが甘かったとしか言いようがなかった。
やっぱりギルドに入るべきか…その前に防具を買うべきだな。試験で回避しながら戦えてたから慢心していた。
「ただいま」
今日のダンジョン探索の反省をしていたら、カナが帰って来た。今日の仕事は終わったらしい。
「おかえり、風呂に入って来たら?」
「うん、バンは?」
「俺は汚れてたから先に入った」
「そう。じゃあいってくる」
風呂に行くカナを見送り、俺はベッドに横になる。
明日は協会で換金して、それから……装備を整えに……。
そんな事を考えていたが疲労の所為か、いつのまにか気を失う様に寝てしまった。
◇
「……んあ?」
いつの間にか寝ていた様で、起きた時には辺りは薄暗く、夜明け前の瑠璃色の空の向こうから、日がまもなく昇ろうとしていた。
疲れはまだ抜けきってないが日常生活には問題ない。
「すぅすぅ」
「……またか」
今日もカナが俺のベッドに入り込んで眠っていた。
カナを起こさないようにベッドから抜け出し、着替えて昨日洗濯した服をクローゼットの中にあったハンガーに掛けて外に干す。
「……おはよ」
そんなことをしていたらカナが起きてきた。
「おはよう。また俺のベッドで寝てたぞ」
「んー……トイレいってから覚えてない」
「さよで」
「今日もダンジョンいくの?」
「いや、今日は換金と買い物に行く」
昨日のダンジョンで反省した。武器はともかく防具は必要だ。
ダンジョンの奥にはあのモンスタークラスがゴロゴロいるだろう。今後の事を考えると装備を整える必要がある。
「ふーん……わたしもいく」
「いいけど、手伝いは?」
「……あ」
このリアクションだと忘れてたな。
「女将さんに聞いてみたら?」
「ん。そうする」
「じゃあ、先に食堂に行ってるぞ」
カナが着替えるので先に部屋を出て、外の井戸で顔を洗って食堂に向かう。
「おはようございます」
「お! おはよう。朝飯はすぐ出来るよ! 待ってな!」
女将さんに挨拶をして、食堂で朝食が来るのを待つ。
「おまたせ」
カナも身支度を整えて合流した。今日はココ村で買った青色のワンピース姿だ。
「あいよ! 朝食だよ」
カナと一緒にきた女将さんが朝食を持ってきてくれた。
朝食はパンとゴロゴロ野菜とウサギ肉のスープ、ベーコンエッグだ。
「食べよう」
「うん」
「「いただきます」」
朝飯を食べ初めてから、カナに聞いてみた。
「女将さんには聞いたか」
「うん。今日は人がいるからいいって」
「そうか。じゃあ飯食ったら1つギフトで見てもらいたい物がある」
「……あの槍?」
そう、昨日拾った黒い槍だ。どんなものか気になるしな。
「ああ。頼めるか?」
「まかせて」
そうして朝食を食べ終わって部屋に戻り、壁に立て掛けてた槍を取りカナに見せる。
「じゃあ、頼む」
「ん」
槍をギフトで見てもらい数秒、
「この槍は長さが変えられるみたい。あと、壊れても少ししたら直る」
「へー。どうすればいいんだ?」
「念じればいいよ」
俺は試しに長さを変えるように念じてみた。
するとみるみる柄が短くなっていき、剣みたいになった。
だが重さは変わらない、このサイズなら短剣のほうが取り回しがいいな。
戻れと念じて、元の長さに戻す。何処まで長くなるか気になるが部屋の中なので確認しないことにした。
「とりあえず、これは売りだな」
「いいの?」
「ああ。ナイフはともかく、剣や槍は使い慣れてないしな」
「へー。でもナイフ使ってるの見たこと無いよ」
「そうか? これでもナイフの扱いは得意だぜ」
…………え、なんで?
咄嗟に出た言葉だった。俺はナイフを扱えるのか?
「バン?どうしたの」
「……カナ、少し離れてくれ」
カナを離して短剣を抜き構える。
そして短剣で切る、突く、刺す、払う等の動作を目の前に人がいるのを想定してやる。頭ではなく体が覚えているのか、躊躇無く一連の動作を素早くスムーズに行えた。
「おー」
カナは感心して見ていたが、俺は自分が怖くなった。
リボルバーはエアガンとかで触ってたから撃てたとかなら分かるが、ナイフ術は訓練されて無いと無理だろ。それに何故今まで考えなかったんだ? 試験の時の素早い斬撃を回避できる動体視力と反射神経。どれも素人が出来るものじゃないはずだ。
「俺は……なんなんだ?」
「バン?」
「俺は誰なんだ、何でこんなことができるんだ、なんで人を簡単に殺せるんだ、なんで…」
「バン!!?」
カナの大声で、俺は我に帰った。
「どうしたの?」
「あ……あ、ああ。なんでもない」
我に返った時、俺の疑問はもう消えていた。いや、消えたというか冷静になって、どうでもよくなってしまった。
またこの感覚だ。いったいなんなんだ?
「だいじょうぶ?」
「ああ。心配ない」
腑に落ちないが、記憶が戻ればこの感覚の事も知ることができるのだろうか?
「大丈夫だ……行こう」
「……うん」
心配そうな顔をするカナに背を向けて、核石と短くした槍を詰めた背嚢を背負い部屋を出た。
次回「ギルド」




