4話 ダンジョン
翌朝。
昨日購入して荷物を整理した背嚢の中を確認する。服装はいつもと同じシャツとズボンにブーツ、そして外套を羽織り、ガンベルトを腰に巻き短剣を差す。
今日からダンジョンに潜って冒険者活動を開始だ。
カナは宿に留守番だ。少し寂しそうにしていたが女将さんに面倒を見てもらっている。
宿を出て大通りを東に向かい、城門を抜けて道なりを進む。冒険者らしき人もちらほら見かけた。
やっぱり女性が多いな。
道中冒険者からの視線を感じる。パーティだろうか俺を見てヒソヒソと会話をしている人達もいた。
子供姿の冒険者がそんなに珍しいのか? とりあえず、視線とヒソヒソ話は無視する。
我関せず道なりを進むと、やがて大きな建物が見えてきた。
建物の外見は砦に近い。ダンジョンの為だけにあの砦があるなら、その危険性は言わずもがなだ。
「止まれ」
砦に入ろうとすると、門番だろうか、金属鎧を着た兵士に止められた。
「会員証を手に取って見せろ」
俺は首に掛けた会員証を見せる。
「少し待て」
門番は見た目が虫眼鏡の物で会員証を見た。
「本物だな……通っていいぞ」
「それで分かるものなんですか?」
「ああ、その会員証の特性でな。これ以上は言えん。さっさと行け」
「……どうも」
原理は分からんが認めてもらえたので、門をくぐる。
砦の内部は広いが何も無く、中央に地下に入る階段があるだけだった。
「ここがダンジョンの入り口か」
今日は初めてなので深く潜るつもりは無く、日帰りの予定だ。
懐中時計は朝9時を過ぎた所だ。夕方までには帰ろう。
「よし、行こう」
俺はリボルバーを抜きシリンダー内の銃弾を確認して、暗い地下に通じる階段を下った。
階段を下りきった先は洞窟になっていた。
洞窟は一本道で広く、所々壁や床が光っていて意外と明るい。これならランタンはいらなかったな。
次ダンジョンに潜る時の持ち物を考えつつ歩く。もちろん周囲の警戒も怠らない。
そうやってしばらく歩いていると、
――チャポン
水場も無いのに、水が滴る音がやけに大きく聞こえた。
「……」
ゆっくりと背嚢を地面に置き、リボルバーを構えて、周囲を見渡す。
すると突然、前方の影から子供位の大きさの、角が生えた黒い生物が出て来た。
その姿は影法師のように黒く、顔は丸い目と口の輪郭が見えるのみ。全身には金色に光る見たこと無い文字が帯状に、まるで蛇が絡まっているかのな様に巻き付き動いていた。
手には身体と同じ黒い片手斧を持ち、輪郭が曖昧な為見た目身体と一体化している様にも見える。
「これがモンスター……」
森で遭遇したウサギと違い存在が希薄で、なにより不気味さが際立っていた。
モンスターはこっちを見ると、金切り声で叫び、俺に襲い掛かる。
俺は迎撃すべくリボルバーを両手で構えて撃つ。
バンバンッ!
弾丸はモンスターの胸に当たり傷口から赤い血を出して黒い霧になって消えて、残ったのは手の平に収まる大きさの白い水晶だけだった。
白い水晶を拾ってまじまじと見る。
これが核石ねえ。 白い水晶にしか見えないけど。
地面に置いてた背嚢を開けて核石を入れる。
初戦闘はうまくいった。この調子で行こう。
俺は背嚢を背負ってダンジョンの奥に進む事にした。
◇
食事や休憩を挟みながらダンジョンを探索してしばらく経つ。
バンッ!
相変わらず、叫び襲ってくるモンスター。
これで何度目か分からない襲撃を受けて、迎え撃つ。
モンスターの外見は全部一緒で、剣や槍等の武器だけが唯一の違いだった。
モンスターが消えて核石だけが残ったので、背嚢に入れる。
背嚢もパンパンになり、行きよりも随分と重たくなった。
時計を見ると午後3時を過ぎた所だった。帰りを考えるとここら辺が潮時だろう。
引き返そうと思ったが……洞窟の終わりが少し先に見えてた。
「……あそこまで行ってみるか」
好奇心に抗えず、先に進む。
洞窟の終わりは広い空間になっていて、所々光る岩が棘の様にそそり立ち、広い空間の先には横穴があった。
シリンダーの銃弾を確認した後、近づこうとした時に地面、正確には光る岩の影からモンスターが出て来た。
今まで見たモンスターと違い体は大きく、身長は3mはありデカい。
頭の角は歪曲して前に突き出し、4本の腕には2本の槍を持っていて、今までのモンスターと明らかに違う、ヤバい雰囲気を出している。
モンスターが2本の右腕で槍を構える。
――フォン
風切音が聞こえた瞬間、体が反射的に動いた。
俺がいた場所には、モンスターが投げた槍が刺さり、黒い霧になって消えた。
――投げるモーションが全く見えなかった。
モンスターが2本目の槍を構える。
俺は咄嗟に岩陰に隠れる。
ガンッ!
その瞬間、槍は岩に当たり弾かれた。
岩陰から飛び出し、撃つ。
バンバンバンッ!
弾丸はモンスターの腕や腹に当たるが表面で止まり、効いた素振りが見えない。
「ちっ」
しかも、投げて消えたはずの槍も手のひらから生えてきやがった。
槍の投擲と硬い身体。やっかいな相手だ。
モンスターが再び槍を構える。
俺はまた岩陰に隠れるが、
ガッ!!
「痛っ!」
今度の槍は岩を貫通して俺の左肩を抉り、血が吹き出た。
威力が上がるのかよ!?
痛みを我慢して岩陰から離れ、走りながら銃口をモンスターに向ける。
モンスターが槍を構えた瞬間、
バンバンバンバンバンッ!
今度は槍を持つ腕を狙って撃ったが、まるで効果がない。
ガンッ!
だが、軌道は逸らせたのか、俺の顔を掠めて地面に刺さる。
だがヤツが槍を出すまで間がある。今がチャンスだ。
頬から血が垂れるが気にせずにリロード。リボルバーを構えてギフトを使い狙い撃つ。
ドォン!!
赤い光弾が走る。モンスターも危機を感じたのか、わずかに身を躱して避けたが、モンスターの左腕を肩から1本を吹き飛ばした。
続けてもう1発。
ドォン!!
今度は右腕を肘から先1本を消し飛ばした。
「……きっつ」
やはりギフトを使うと消耗する。探索して疲れが出ていたから尚更だ。
しかしまだ終わってない。それにモンスターも黙ってやられる訳がない。
今度は槍を投げようとはせず、走ってこちらに向かってくる。
ドォン!! ドォン!!
最後は、モンスターの腹に風穴を開け頭を吹き飛ばし、モンスターは蹲る様に倒れ、黒い槍を残して黒い霧になって消えた。
「ふぅー……」
戦いが終わったら緊張が切れて、その場で尻餅をついた。
ギフトを4回連続で使うのは初めてだったせいか疲れた。後、左肩がめちゃくちゃ痛い。
「……そうだ」
使う機会が無かったから忘れかけてたが、腰の雑嚢から回復薬と書かれた瓶を取り出す。
……飲めばいいのか?
とりあえず、一口飲んでみる。どドロっとした緑の液が口に入る。
味は……スポーツドリンクだ。これ。
だが効果はあるな。疲労感が少し抜けた。
次に抉れた左肩にかけてみると、みるみる治っていった。
頬に掛けた後残りを飲み干し、立ち上がる。少しキツいが大丈夫そうだ。
リロードをして、モンスターがいた場所に近づき核石と槍を拾う。
核石は今までと違い、俺の拳の倍はある大きさの水晶だった。
明らかに強さが違ったもんな。大きいほど査定額がいいらしいし、報酬は期待出来そうだ。
槍は3m位の長さで石突から穂先まで黒く、石突と幅広の刃の中心に赤い石がついている。装飾も無く無骨で重い。俺の細腕じゃ振り回すのは無理だな。
これが遺物……ダンジョンウエポンというやつか。カナに見てもらおう。
核石と槍回収して広場の先、横穴を覗いてみる。
横穴は下り坂になって奥まで続き、暗くて先が見えない。
流石に、さっきのモンスターの事を考えると先に進む気には今はなれない。今回はここまでだ。
俺は来た道を戻り、ダンジョンの出口を目指した。
次回「探索を終えて」




