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探索の始まり

 聖竜の居場所を探索する。

 言葉に書いてしまえば簡単だが、聖竜に関連する物語が昔から語り継がれているとはいえ、実存するのかその真偽から疑うべき存在である。

 しかし、そうであっても、夜空を(かけ)る白い巨竜を目撃した彼らは、徒労に終わろうともそれが価値のある行為だと信じていた。


「街に入るのにお金がいるとか、ケチ臭い都市ですよね」


 シャールは王国北部に位置する伯爵領の中心都市であり、隣国に近く過去の何回かの戦乱による学習結果として、高く厚い壁が伯爵が住む城館だけに留まらず市街をぐるりと取り囲み、街壁の両端は街の後背にある湖にまで届いていた。

 なお、その湖は古名でシャールドレバンテニスと言い、街の名前の由来となっている。

 また、湖から流れる河が王国を縦断する形で海洋に注いでおり、この土地では古来より河船を利用した交易が盛んである。


「お前はシャールの人間だから払わなくて良いだろ!」


「いやいや、住民だからこそ、皆さんに払ってもらうのが心苦しいだけですよ」


「ヤニックにそんな殊勝な気持ちがあるようには思えないけど?」


「それは僕の不徳の致すところですかね」


「それは間違いないわな」


 街には活気がある。

 シャール伯爵が中心となって仕掛けた戦争は隣国の領土を刈り取り、そこで収奪された産物や奴隷が馬車に乗ってシャールに集荷されている。それらを目当てに王国中の商人が引っ切り無しに訪れている為である。


「フローレンス、歩くのが速くないか?」


「そうかしら? ううん、逸る気持ちが抑えられないのね。ごめんなさい」


 先頭を行くのは小柄なフローレンスで、目を離すと人波に隠れて見えなくなってしまう。独りではぐれたところで、フローレンスは意にも介さず神殿に向かうだろうが、ポールとしては違う。

 時間に余裕ができれば、街のおしゃれスポットに案内してフローレンスの気を惹きたいのだ。その為に、少しばかりの金と引き換えに地元民のヤニックから名所を聴取済みである。なお、傍で話を聞いていたガインは「聖竜様を見つけるより難しそうやな」と一笑に付していた。



「道が分かるのか? 俺に任せても良いんだぜ」


 もしかしたらフローレンスは勘のみで動いているのではと危惧したところもある。


「門番さんに竜神殿の場所を聞いたから大丈夫よ」


 意中の彼女がにっこり笑って答えたのを見て、その可愛らしさにポールは自分の心が跳ねたのを感じた。


 それは兎も角、彼らは聖竜を奉る竜神殿を目指していた。

 聖竜の居場所に直接繋がる情報はないかもしれないが、ヤニックを除いてシャール出身でない彼らとしては、神殿に残る古い言い伝えから何らかのヒントを得られないかと考えたのだ。そんなもので聖竜の居場所が分かるなら、大昔に判明しているだろうとも思っていたが。



 店が両横に並ぶ雑踏を抜け、少し落ち着いた雰囲気の大通りへと出る。

 人通りの少なさと違い、道に敷き詰められた板石に馬車の轍がはっきりと入っているのは、神殿に参拝する貴族や金持ちが多い為だろうとガインは判断した。


 たまに黒一色のローブを纏い、頭の上には白い帽子を乗せた女性達と擦れ違う。


「あれが竜の巫女なんか?」


「ですよ。庶民が話し掛けても無視されますけどね」


「お高く止まってんだな!」


「ちょっ、アシル、声が大きいって」


 一行は遂に目的の神殿へと辿り着く。

 シャールは水の豊富な土地柄で街のあちこちに泉があり、その湧き水を流すための水路もまた張りめぐされている。そんな水路の中でも幅広い1つの向こう側に、敷地を石壁で囲まれた神殿はあった。


「驚いた。ずっと壁が続いていたが、これ全部、竜神殿だったのかよ!」


「シャール伯爵の庇護下ってのもありますが、シャールの街の成り立ちは神殿の周りに人が住んだからなんですよ。とても由緒正しいんです」


「立派なもんやな」


「えぇ。聖竜様に相応しい場所ね」


 橋を渡った先に神殿の門がある。その左右に精微な技術で竜が彫られていた。白い体を覆う一枚一枚の鱗にも紋様が入り、左右で違うポーズで猛る竜は今にも動きそうな雰囲気があった。その目には赤い宝玉が埋められており、それが不届き者によって盗まれないところからすると、シャールの治安は良いのであろう。


 フローレンスは昨夜から神殿を訪れることを楽しみにしていた。聖竜への興味が尽きないのだ。

 彼女にしては珍しく緊張しているのか、息を短く吐いてから進もうとする。それをキャロルが止めた。


「待って。私は待機だから」


「えぇ? 折角、気合いを入れたのに」


「どうしたんだ?」


「ほら、私の姿を見て。明らかに異教徒だもん」


 彼女はクルリとその場で回転して見せる。スカート状の最下部が遠心力で軽く舞い上がった。

 フード付きの白いロングコートのような服は彼女の宗教の祭服である。


「構わんのちゃうか?」


「余計なトラブルになるかもだし」


「1人だと危ないだろ!」


「ヤニック、一緒にいてやれるか?」


 正直なところキャロルに何かあるとは思えなかったが、ガインは誰もが納得する人選をする。


「僕が? えぇ、良いですよ。キャロルさん、暫しお時間を頂きますね」


「高いわよ、私とのデート代は」


「えっ、そういう売り買いの展開ですか? 知り合いだと何だか照れますね。それでは、よろ――」

「ンな訳ないでしょ!」


「洒落になんねーぞ、ヤニック!」


「そうですか? アシルさんが言ったらそうでしょうけど」


「ンだと、ゴラッ!!」


「おい。フローレンスが行っちまったぞ」


 ポールの指摘でガイン達は気付き、フローレンスを慌てて追う。彼女を放っておくと、何をしでかすか不安だったのが一番大きい。

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