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相談事からの天恵

 昼時の冒険者ギルドは人が少ない。冒険者の大多数を占める、その日暮らしの者達は早朝に採取系の依頼を受けて郊外に向かい、日が暮れる頃に戻ってくる為だ。

 昼飯を取っている者に至っては休息日であることでほぼ間違いなく、完全に気を抜くものなのだが、いつもの奥の壁際の卓を囲んでいるフローレンス達は真剣に顔を突き合わせて会話をしていた。



「アシルは兎も角、ヤニックは治療院から出さないといけないわね」


 彼らは今後について話し合っている。


「せやな。日が経てば経つ程、入院費が増えとるわ。借金より(たち)が悪いで」


「ロックのヤツ、金を払う気がないなら、あんな所に入れんなよな」


 大百足退治の後、姿を消している剣士へポールは恨み言を吐く。


「依頼書を見たけど、良さげなのはなかったわ。強いて選べば、これかしら」


 フローレンスは掲示板から剥がしてきた紙をテーブルに置く。


「大蝙蝠の羽根の採取? 巣を探すところからだから時間が掛かるんじゃね?」


「せやな。土地勘のない俺らにはちと難しそうや」


「残念だわ」


「ヤニックの師匠とやらに頼んでみる? 偉い人みたいだったから緊張するけどさ」


 ヤニックを見舞った時に出会ったエルバという名の老婆。多少の金は持っている雰囲気だった。


「最悪、それやな。カッコ悪い話やけど」


 ヤニックは旅に出る予定で、その前準備としてガイン達と行動を共にして魔物への対処や野外での生活について学んでいる。弟子を入院させた上で、その治療費も面倒見てほしいと言うのは、なんと情けないことかとガインは思っていた。


「財宝探しをしましょうよ」


「どこにあんのよ。聖竜様を探すのと同じくらい難しいわよ」


 能天気に発言したフローレンスへ、頬杖を付いたキャロルが冷静な突っ込みを入れる。


「ヤニックの件は保留にして、次だな」


 ポールはエルバに依頼することに抵抗を感じていない。むしろ、自分達の懐が痛まない選択なので好ましいとさえ感じていた。だから、話題を変えた。



「アシルはどうする?」


「代わり?」


「あれだけの技量の戦士はそうそうおらんで。おっても他のパーティーが離さんやろ」


「私、思い当たるわよ」


「誰よ?」


「ケヴィン君」


「あれ? 蛇に吹っ飛ばされていたけど、強いの? 武器や防具は良かったけどさ」


「声だけ掛けてみよか。あれも大半の仲間を失って大変な想いしとるしな。誘いがあれば立ち直るかもしれへん」


 話の流れはポールの意図したものとは違う方向に進んでいた。だから、彼は軌道修正を狙う。


「そうじゃなくて、冒険者を辞めるアシルがどう生活していくかを心配してやろうぜ」


 一瞬だけ沈黙が走る。



「ポールはえぇヤツやで」

「ほんと。そんなにアシルと仲が良かったのね。知らなかったわ」

「ポール君が養ってあげるのが一番よ」


「いや、そうじゃなくて、ちゃんと考えてやろうぜ」


 もう一度の沈黙。


「片腕やからなぁ……。肉体労働はできへんで」

「かと言って、書類仕事向きでもないのよね」

「アシル君は体が大きくて机からはみ出てしまうわ。声が大きくて周りの人にも迷惑を掛けそう」


「いや、なんだ、あいつさ、あの女の子に浮かれているだろ。あの状態から覚めたり、振られたりしたら、大変なことになるって思うんだわ」


「できるんやったら里に帰るのが一番やろうけどなぁ」

「アシル、戦争孤児って言ってたわ」

「まぁ、私と同じだったのね」


「フローレンス、お前の親も死んでたんか?」

「えぇ。戦争ではなくて盗賊なんだけど、襲撃されて村全体が焼けちゃったのよ」

「その時、フローレンスは?」

「山菜摘みに出掛けていたのよ」

「じゃあ、盗賊とは遭っていない?」


「おいおい。まずはアシルの話だろ」


「フローレンス、盗賊とは遭わなかったの?」


 キャロルはポールを無視して、同じ質問を繰り返した。


「煙を見て村に戻って、倒したわよ」

「ふーん。倒したって、人殺しをした訳よね」

「ちょっとだけ力の加減を間違っただけよ」

「殺してるじゃん。怖いわ」


「アシルの話だって言ってるだろ」



「ポール、あのな。貯金なしで冒険者を辞めた連中はあんまり良い生活は送れへんのやわ」

「コネがあると違うのだけどね」

「あっ、良いこと思い付いたわ」

「言ってみなさいよ。それ、絶対に良いアイデアじゃないでしょ」

「紳士と出会うだけの簡単なお仕事よ」

「アシル、美男子じゃないし。ダメよ」



 話し合う彼らに近付く人影があった。

 それに気付いたガインが目の端で確認し、それから慌てて身を向き直す。

 それを見て、片手での頬杖のままのキャロルが顔だけ動かし、ガインと同じ様に驚いて背中を伸ばす。ポールの頭越しに対面するフローレンスも少しばかり頭を下げての会釈をした。


「お久しぶり。居てくれて良かったわ」


 現れたのは竜の巫女の長であるツィタチーニア。佇まいは慎ましやかながら、荘厳な巫女服は酒を飲んでいた周りの冒険者達の口を閉じさせる。


「ロックさんから早馬で連絡があったのよ。貴方達、助けが必要なのね。私に任せて頂戴」


「まぁ、ロックさんから?」


 フローレンスはその名を聞いて喜ぶ。


「えぇ。お話を伺いたいのだけど、まずは場所を変えましょうね」


 巫女長は皆が立つのを待ってから踵を返した。

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