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第三章 突き付けられた条件(8)

結局、クリスタルが評議会理事会に滞在した期間は、四〇日にも及んだ。もっとも、それでもある意味、十分短期間であったとは言える。銀河間連盟の評議会を招集するのは、有事などの緊急案件でなければ、日程調整含め、時間が掛かるものである。滞在期間が五日を超えることが明白になった際に、クリスタルは一度衛星軌道ステーションへと移ることを申し出たのだが、理事会の者達からは、そのまま理事会に滞在することを薦められ、結局彼等の歓迎ぶりに圧されるかたちになった。

 最初こそ評議会理事会の賓客扱いであったクリスタルも、三〇日を超えるころにはすっかり理事会準メンバーのような扱いになり、曖昧さを有しない明確な回答をすることもあって、クリスタルは、ある種の相談役のように収まった。

 その間にクリスタルとレサの仲もさらに打ち解け、まさに気が置けない友人関係が築けていた。それはこれまでにクリスタルが経験したことがなかった人付き合いであり、新鮮な学習でもあった。

 そして、当然、四〇日も滞在すれば、評議会理事会の面々の名前と顔も一致するようになる。クリスタルは一五人を完全に把握していた。

 列記すると――。

 理事長、バルファ。カラドニスの男性。

 副理事長、レサ。ディプティンの女性。

 書記、グロズス、ダルドラン、男性。

 以下、理事会メンバーはというと。

 リュダン、カラドニス、男性。

 ファラロ、カラドニス、男性。

 グァバル、カラドニス、男性。

 エフォス、カラドニス、男性。

 エレフォ、カラドニス、女性。

 メフィダ、カラドニス、女性。

 デロウド、ダルトラン、男性。

 オルフォス、ダルトラン、男性。

 コーリム、ダルトラン、女性。

 リ・ジェス、ク・デ、男性。

 コジュ・リム、マカラカ。

 レノス・リム、マカラカ。

 ――という一五名が評議会理事会のメンバーであった。

 中でも目を引くのが、コジュ・リムとレノス・リムの二人、マカラカと呼ばれる種族であった。

 マカラカは、知的生命体の中でも、最小クラスの体格の種族で、体毛に覆われた楕円のボールのような体格に、一対の手足と、蛙のように飛び出た眼球を持つ不思議な外見の生物であった。さらに、その眼球は前後どちらにもついていて、通常の知的生物の身体的な形状を逸脱しており、不気味、といわれることも少なくない。地球人類型生物から、最も遠い体形の種族といってもいい。

 また、外見以外の特徴も、他の知的生命体と大きく異なっている。なにより異なっている点は、マカラカには、決まった性別というものがないということであった。正確には、雌雄の区別はあるのだが、本人の意思で、どちらにでもなれるのである。一方で、その奇妙な身体特性から、長らく怪物扱いされてきた苦い歴史のある種族でもあった。しかしその奇妙さとは裏腹に、彼等は非常に知的であり、物理的文化よりも哲学的な精神文化に重きを置く種族としても知られていた。

 コジュ・リムとレノス・リムの二人も、無類の酒好きで、酒癖も悪いという欠点を除けば、温厚で物静かな人物であった。二人の名前が似ているのは当然で、彼等は血を分けた兄弟、あるいは、姉妹であった。

 ――そして。

「それでは、君について、評議会で決定した結果をお伝えしよう」

 四〇日目のその日、ダイニングルームに集結した一五人の理事会メンバーの視線を浴びながら、クリスタルも席についてバルファの言葉を聞いていた。

「君に惑星間連盟において、生命体が基本的に有する権利を認めることになった。同時に、惑星間連盟に所属するすべての種族の個人が課される義務も発生することになる。即ち、帰属する文明の法の順守、その文明で定められた納税の義務等の順守が求められるということである。これを犯せばその文明の住民と同様、君にもその文明で定められた罰則が適用される。同時に、君に対して、他者が君を害した場合も、同様に、君にも訴える権利を有するものとする。よろしいか、クリスタル君」

 これまでなく厳正に告げるバルファの顔には、深い疲労の色が浮かんでいた。議会開催の調整と採択に、それだけの苦労があったことがありありと伺えた。

 実際、議会での採決は、満場一致とは程遠かった。それぞれの文明の事情や思惑により、機械生命体が基本的な権利と義務を有することに関しての賛成、反対の意見対立は激しかった。また。賛成の中にも、その解釈の拡大を思惑とする文明や、逆に、機械生命体の存在を管理することで権利の制限を思惑とする文明など、狙いはさまざまであり、一方で、反対側も多種多様な事情や思惑が入り乱れていた。例えば、自律型の機械そのものを忌避し、禁止している文明では、機械生命体そのものの人格を否定しており、また、別の文明においては、危険なロボットが撲滅できておらず、犯罪の温床になっていることから、機械が権利を有することを、手放しで賛成できない、等という事情である。

 結果的に賛成多数でクリスタルの有する権利と義務は認められたものの、およそ、銀河間連盟のすべての文明に歓迎されたとは言い難かった。そのあたりの経緯は、クリスタルもそうであろうと、納得していた。

 中でも彼女が案の定と思ったことは、惑星アミナス政府が採決に棄権したことであった。惑星情勢を鑑みるに、彼等が賛成をする訳にもいかなかった筈で、一方で、彼等の心情としては、クリスタルにある種の負い目があることも間違いなかった。惑星アミナスからクリスタルが強制退去処分になった経緯としては、表向き彼等がクリスタルに要求を突き付けた体裁になっているが、事実はクリスタルが自ら混乱を避ける為に身を退いたに等しい。それを鑑みれば、銀河間連盟の評議会の席で、面と向かって対立することも避けたという意味で、棄権はクリスタルにも理解できた。

 むしろ、その棄権は、彼等が見せた精一杯の謝罪と感謝の表れと、クリスタルは受け取った。

「よろしいかな、クリスタル君」

 もう一度、バルファに問いかけられてから、クリスタルはやっと頷いた。

「はい」

 彼女の返事は短かったが、場の空気が和らぐのに十分であった。

「では、次の決定を話そう。こちらは大分事情が複雑であるため、まず、そう決定された背景から話そう」

 バルファの口調も若干ながら柔らかくなった。おそらく就労等に関する、自分の成人年齢に関する話であることは想像がつき、クリスタルも、無言で頷き、聞くつもりである意志を示した。

「私達は君に成人として、義務を守れるだけ精神的に成熟していることは認めている。が、それだけでは、機械生命体、の成人を生まれてすぐ、と定義することはできない。何故ならば、ほぼ全身がサイボーグ技術で義体化され、人工の補助頭脳により精神年齢が大人並みに引き上げられている、各種族の子供について、同様に認めるべきではないかという別の問題が生じてしまう為だ。それを避ける為に、機械生命体の成人年齢は定めないことになった。というよりも、定めることができないという結論になった、というべきかな。しかし、それはそれで君が困ってしまうだろう。そこで、暫定措置として、君には、就労開始と共に成人として扱う、という特例を適用することになった。そして、就労についても、君については、ある条件が課されることになった。君は、応募先が受験を認めれば、本年から就職の為の採用試験を受けることができるものと、銀河間連盟は認める。しかし、君が年間に応募できる総数は三件までと制限する。それで採用されなかったら、その年はまだ就労可能な成熟に足りていないものと、自動的に判定し、成人とは認めないものとする。ただし、永久的に未成人と認めることもできない。それは論外だからね。年間三回の採用試験に失敗した場合、あるいは、三回未満の受験しかせずすべてに失敗した場合、君の基本的な人権は一時的に制限され、再度、君を機械生命体とするか、ただの機械とするかの判定が行われる。そこでただの機械と判定されてしまえば、君は永久的にただのロボットだ。無論、君が年内に就職に成功すれば、二度とその判定のやり直しは行われない。君は永久的に機械生命体だ。それと、年間三件までというのは、三ヶ所という意味ではない。そんな場所があるかどうかは私達にも分からないが、繰り返し採用試験に挑むことを許す場所があれば、年間三回同じ希望先に応募するのは、君の自由だ。不採用を前提で話をするのは心苦しいがね。一応、留意しておいてほしい」

 バルファから告げられた決定は厳しいものであったが、そのくらいの困難は、クリスタルも覚悟していた。むしろ、二回まで失敗が許されるだけ、随分譲歩してもらえたとすら思えた。自分がユーグに採用される自信はなかったが、それでも、納得はした。

「分かりました。ありがとうございます」

 クリスタルは、その決定に、従う意志を示し、その日のうちに、評議会理事会を離れた。彼女が理事会の建物を出る際に、レサは、

「クリスタルなら絶対大丈夫だから」

 と言ってくれたが、その言葉に根拠などないことは、クリスタルにも十分分かっていた。

 やるしかない。その思いを抱えて。

 クリスタルは、帰路についた。


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