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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
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第88節 立ちはだかる兄姉

 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ


 目覚まし時計が鳴る。時計を止めて起き上がり、壁に掛けてある時計に目をやる。時刻は予定通り2時30分、外はいつも通り暗いが、体内時計はやはり異変を感じるらしい。大きくあくびをしながら制服に着替えてシオンたちがちゃんと起きているか確かめるために彼女の部屋へと向かう。


 部屋の前に着くと、何やら中から声が聞こえてくる。どうやらちゃんと起きれたらしいが、声の主はアオだけだ。シオンとルナの声が聞こえない。気になったが、前回シオンに勝手に入るなと言われたので俺は扉の側で聞き耳を立てた。


「ちょっとルナ、もう時間だよ!起きて!」


「ううーん……」


「シオンさんも、このままじゃ争奪戦に出遅れますよ!」


「…………」


 アオが必死に声をかけているが、2人が起きる気配はない。やれやれ仕方ないと思いながら扉をノックしようとすると、中にいたアオが声色を変えて呟き始めた。


「………2人とも、あと5秒以内に起きてください。でなければ少し冷たい思いをしますよ。5、4、3、2、1、、、」


 アオがカウントダウンを始めたが、それでも2人は寝息をたてている。


「……ぜろ」


 アオがそう呟くと、同時にルナとシオンの悲鳴が聞こえてきた。俺は慌てて扉を開ける。


「あぶ!?冷た!!な、何事!?」


「お前ら!大丈夫か!?」


「あ、アゼン先輩、おはようございます。丁度今2人を起こしたところです」


「……びっくりしました。突然耳と鼻と口に違和感が……」


「水を入れたんですよ。2人とも中々起きなかったので強硬手段です」


「うう、、鼻が痛い……アオちゃん鼻に水は勘弁してよー」


「けど起きれたでしょ?」


「アオ、中々鬼畜だな……。まぁでも、おかげでみんな起きれたことだし、3人は着替えて武器の手入れをしておくんだ。終わったらリビングに来てくれ」


「了解です」


 俺は先にリビングに行って自分の武器である"本"と"黒鉄"の手入れを始める。


(黒鉄の弾は"炎"と"雷"の両方を持っていこう。……そろそろ他の色の弾もヨカに用意してもらおうかな)


 そんなことを考えていると、制服に着替えた3人がそれぞれの武器を手にリビングにやってきた。


「準備完了です!いつでもいけます!」


「まだあと15分くらいあるから、移動している際の陣形について確認するぞ。陣形は普段の訓練と同じように弓をもつアオを真ん中に配置して、その前方は本来突破係のユメコが担当するが、今日はいないからシオンに任せる。両端には俺と、シオンの代わりに後方のルナが周りの攻撃に対応する」


「はぁ……ユメコさんがいてくれれば百人力だったのに……」


「仕方ないよ。忙しい人だからね」


「いなくても問題ありません。私がいるので」


「さすが師匠!今回も敵をバッタバッタと倒してください!」


「おいおい目的を忘れるなよ。俺たちはあくまで会議場に辿り着き、先着10組に入ることなんだからな。無益な戦いはなるべく避けるぞ」


「わかってますよ!そのための擬態なんですから!」


 ルナは胸を張って杖を掲げる。それに合わせてアオも手に持つ弓を持ち上げる。続けてシオンと俺も彼女たちと向かい合うようにして武器を掲げた。


「飼育部のためにも、絶対獲るぞ!!」


「「おおーー!!」」


 それから寮の扉の前に立ち、争奪戦開始の時間を待つ。さっきまで興奮していたルナも今は緊張した顔で扉を見つめている。外は深夜に相応しい静寂が続く。だが、ひとたび時計の針が3時を指したら、この夜は一変する。俺は腕時計を確認した。


「……1分切ったぞ。お前ら、怪我とかしたら争奪戦のことはほっといてすぐに保健棟に向かってくれ」


「……はい」


 秒針がまもなく上を向く。俺は扉の取っ手をしっかりと握った。


「3、2、1、行くぞ!!!」


 3時になると同時に俺たちは素早く外に出た。すぐさま陣形を作って周りを確認しながら学園へと向かう。俺たちの寮は学園から少し離れているため、他の部活動よりもいささか不利だ。それでも寮がひしめき合っている場所では、激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。その証拠に、遠くの方から爆発音が聞こえてくる。


「東側は大変なことになってそうですね!!」


「ああ!けど俺たちもそろそろ西側の寮に近づいている!他の部活動と接敵するぞ!周りに注意しろ!」


 入り組んだ小道を抜けて学園の入り口へと直通している大通りに出ると、様々な部活動が入り口を目指しながら互いの足を引っ張りあっていた。


「おいこら陶芸部!!作品をこっちに投げるな!!お前らには作品を愛する心がないのか!!」


「何よ!あなたたち茶生花部こそ幻素で生み出した花をこっちに飛ばしているじゃない!花に対する思いやりはないの!?」


「どけどけーー!!我らロボ研のお通りだーーい!!」


「「ろ、ロボット!?やばい!!逃げろーー!!」」


「はーははは!見たか!この日のために作った車輪型巨大ロボの凄さを!誰も俺たちを止められない!」


「ふっふっふ、それはどうかな?」


「何!?上からだと!?」


「部長ーー!私たちの上にプロペラ機が!!」


「航空部の奴ら、、一体どうやってあんなもの………て、おいおいおいおいあいつら爆弾落としてきやがった!緊急停止!!緊急てぇーーし!!」


 大通りの真ん中に大きな爆発が起きる。それと同時に周りにいた他の部員も吹き飛んだ。


「…………か、カオスだ」


 たかが学園祭の展示ブースを巡ってこのような激しい乱戦が繰り広げられるとは……。俺は寮が遠かったから今まで気づかずに朝を迎えていたのかもしれない。だが、今年は俺もその渦中にいる。


「みんな!今がチャンスだ!!さっきの爆発でへばっているうちに突っ切るぞ!!」


 3人は唖然としていたが、俺の指示を聞いてすぐに動き出した。


「おや?人が残っていたのか」


「部長、どうしますか?」


「………まぁいい。無視してそのまま会議場に向かおう」


 俺たちの上空を飛んでいたプロペラ機はそのまま学園の方へと飛んでいった。どうやら無駄な戦闘は避けたらしい。先を越されているが、問題ない。俺たちには"近道"がある。


 陣形を維持しながら大通りを駆け抜けていく。途中で遭遇した部活動は、前にいたならシオンが蔓で絡め取り、上から来たらアオが弓で撃ち落とし、両端に来るのなら俺とルナが撃退していった。互いが背中を預けながら俺たちは前に進む。


 しばらく走ると学園の姿が見えてきた。そのまま入り口から入ろうとすると必ず教師の妨害に遭うので俺たちは迂回して"夜側"の校庭に侵入した。校庭ではすでにあちらこちらで他の部員同士、そして教師相手との乱闘が始まっていた。それはさながら中世の戦争を見ているかのようだ。


「よし、ルナ、擬態を頼む!」


「はい!任せてください!」


 作戦通り俺たちはルナの擬態によって透明化すると、校庭のなるべく端の方から第2校舎へと向かう。しかしあまりにも戦闘が激しいので幻素の技がこっちに飛んでくることもあった。


「ルナ!!危ない!!」


「———!シャット!」


 俺はルナの方に向かってきていた水の矢を間一髪で"白"に塗り替える。


「せ、先輩、ありがとうございます!」


「今ルナがやられたら擬態が解けるからな。アオ、今だけルナを真ん中にしよう」


「分かりました。ルナのことは絶対守ります」


「アオちゃんもありがとう!」


 陣形を少し変えて再び校舎を目指す。攻撃が飛来することはあったが擬態がバレることはなく、誰とも接敵せずに第2校舎の入り口へと辿り着いた。


「順調ですね!このまま第2校舎を経由して第3校舎の"扉"に入るんですよね?」


「ああ、時間はない。急ぐぞ」


「行かせないよ」


 しかし、早速校舎の中に入ろうとした次の瞬間、校舎の屋上から"黒いスーツ"を着た大人が2人飛び降りてきた。女性と男性の2人組で、さっきまで見てきた教師とは明らかに雰囲気が異なっている。


(先輩、ルナの擬態がバレています)


(………確証が持てない。ここは黙って———


「4人とも、いるのはわかってるよ」


「———!」


 こちらの人数まで当ててきた。ルナの擬態はレベルが高いもののはずだが、確かに彼らと目が合っているように感じる。それにさっきから隣にいるルナが驚いた顔で口をパクパクと動かしていた。


「……ルナ、擬態を解いていいぞ」


 擬態を解くと同時に、ルナは思いがけない言葉を口にした。


「お(にぃ)!!お(ねぇ)!!どうしてここに!?」



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